再生魔法
駄目姉妹を孤児院の外で放置したあとにパリポリとラスクを齧っていると、<どっぱん>と音がして、駄目姉妹が闖入してくる。
ポンコツはぐったりしていて姉に抱きかかえられていたが。
「エリナ、ちゃんと塩撒いた?」
「うん、一掴み分だけ! でも足りなかったみたいだね!」
「トーマ様、申し訳ありません。つい殴り合いの姉妹喧嘩に発展してしまいました」
「清楚な見た目の割りには武闘派なのな。いや言動は過激派だったか」
「と言ってもわたくしの防御魔法を突破できない妹を一方的に殴っただけですが」
「あっそ。ところでどうやって入ったんだ?」
「無理矢理施錠の魔法を解除しましたが」
「エリナでも出来るしな。んで用は何?」
「クレア様に魔法をお教えするというお話でしたよね」
「すっかり忘れてた。クレアーー!」
「なんですか兄さま。またいつもの発作ですか?」
ぽてぽてと俺に呼ばれたクレアがやってくる。
珍しくミコトは連れていない。
たくさんの子供たちに囲まれてきゃっきゃと遊んで貰ってるようだ。
「俺が大きな声で呼ぶのを、毎回発作というのはやめろ」
「冗談ですよ兄さま。それでそちらの方は?」
「クレア様でいらっしゃいますね? わたくし、シルヴィアの姉のクリスティアーネ・グライスナーと申します。以後お見知り置きくださいませ」
「えっと、く、クレアと申します。よろしくお願いしますねクリスティアーネさん」
「本日はトーマ様からのご依頼により、クレア様に魔法技術をお教えさせて頂くため参りました。よろしくお願いいたしますわね」
「こちらこそよろしくおねがいします」
「あら、クレア様は素敵な指輪をされていらっしゃるのですね」
「兄さまから頂いた婚約指輪なんです。ムーンストーンの魔法石なんですよ」
「なるほど、ムーンストーンは白魔法と相性が良いですからね。お話は伺っております。少しお体に触れてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
駄姉が右手の掌をクレアの額に当てる。
「クレア様は素晴らしい潜在魔力をお持ちですね」
「ありがとうございます!」
「ではこれから魔力操作を行い、魔力励起を促してみます。下腹部の辺りに、今までにない違和感があるかと存じますが、まずはそれを感じたら出来るだけ意識してみてください。決して体に悪影響を及ぼすようなものではありませんから安心してくださいませ」
「はい」
駄姉が目を閉じ、小さく呟く。
何を言っているのかはわからんが、爺さんの時は特に呪文詠唱的なものは無かったから、やはり実力は少し劣るのだろうか。
それでも他人の魔力を励起出来る程魔力操作に長けてるって事は、王都でも二、三人しかいないって言ってたし、相当な実力者なんだろう。
「どうでしょうか? こちらでは魔力の励起が始まったように感じ取れましたが」
「はい! お腹の中がなにかふわふわした感じがします」
「素晴らしい才能ですね、それが魔力です。クレア様は潜在魔力が上級貴族以上に感じられますので、少し時間がかかりますが、そのまま魔力に集中していてくださいませ」
「おお、もう励起出来たのか。お前は爺さん並みに優秀なのな」
「爺さん? バッハシュタイン卿の事でしょうか?」
駄姉が右手の掌をクレアの額に当てたままこちらを向く。
「ロイドとか言ってたけど、事務員もそんな名字を言ってたな」
「なら間違いございませんね、トーマ様とエリナ様が優秀な理由がわかりました」
「いや、エリナはともかく、俺なんか全属性だけど潜在魔力が低いと言われたぞ」
「<転移者>の方ならば潜在魔力はあまり関係は無いでしょう。何しろ<転移者>の方は成人以降も成長する可能性があるとの研究結果もございますし。エリナ様も十六歳ながらメギドアローを扱うとか」
「レベルも限界が無いって言われたなそういや」
「ええ、それにバッハシュタイン卿は気に入った相手でなければなかなか教示いただけない程の方なのです。大変失礼ですが、予約申請も無しに平民のお二人が受講できたというのは、その才を認められたからだと存じます」
「爺さんの書いた本も貰ったんだよ。やっぱ気に入られたのかね。二人で飲み代の銀貨二十枚しか払わなかったし」
「わたくしの師匠でもいらっしゃるのですが、面白い奴が居たら連れて来いと仰る酔狂な方ですので、相当気に入られたのでしょうね」
「そうだ思い出した。あとで魔法について聞きたいことがある」
「かしこまりました。クレア様、全ての魔力の励起が終わりました、大変素晴らしい魔力量ですね。その魔力を自由に動かせるようにイメージをしてくださいませ」
「はい、わかりました!」
クレアは「んー!」と言いながら力を籠める。「力は必要ありません。イメージで動かしてくださいませ」などとどこかで聞いたようなやり取りが始まる。
「お兄ちゃん、クレアも魔法が使えるようになるんだね!」
ぽてぽてとミコトと遊んでたエリナが俺の側まで歩いてくる。
「白魔法はかなり使い勝手が良いからな。中級からは風属性よりも強力な防御魔法も使えるようになるし、安心してクレアに孤児院を任せられるようになるぞ」
「狩りには連れて行かないの?」
「経理や料理、家事と孤児院の運営には欠かせない人材だろ、狩りなら俺とエリナで十分だし」
「でもたまにはクレアも狩りに連れてってあげてねお兄ちゃん! その時は私がお留守番するからね!」
「そうだな。わかったよエリナ」
相変わらず妹思いなんだな。アホだけど。と思いながらクレアの方を見ると、照明魔法の発動に成功したようだ。
珍しく年相応に「わわわ、できました!」と喜んでいる。
俺やエリナの時よりも早くないか? あいつ賢いからなー。
「はっ! ここは……孤児院の中! っ! 痛たた!」
腕を押さえてポンコツが声をあげる。
鼻にハンカチを突っ込まれてるしシュール過ぎだろう。
しかし腕とは言え容赦なく殴りつけるのな駄姉は。
まあ駄妹も抜刀してたし、魔法で完全に元通りに戻せる自信があるのもあるんだろうけど。
「やっと気が付いたか駄目な妹。略して駄妹」
「だまい? とにかくまずは妹としてトーマ様に認められたと解釈してよろしいのでしょうか? 一歩前進しましたね!」
「駄目姉妹の妹の方って事だぞ。調子に乗るなよポンコツ、お前の駄目なところはそういう所だぞ」
「あら、丁度良く気が付きましたねシルヴィア。クレア様、ヒールをこの駄妹で練習いたしましょう」
「はい、クリスティアーネさん!」
「きっちり会話は聞いてるのな駄姉」
「あら、わたくしを姉と呼んで頂けるのですね、大変光栄でございます。今年で二十二歳になりましたのでトーマ様より三歳年上という事になりますわね」
「都合の悪い所だけを聞き逃してるんじゃねーよ。姉じゃなくて駄姉だぞ、だ・あ・ね」
クレアが駄妹の腕に手をかざしてヒールを唱えると、腫れあがった部分が治っていく。
「クレア様は大変優秀でございます。では治癒を……いえ、治癒とヒールの複合の再生魔法まで練習いたしましょうか。実験台がおりますので」
「グロそうだから裏庭でやってくれる? それに血で汚れそうだし」
「かしこまりましたトーマ様。シルヴィア、裏庭に参りますわよ。まずは指からいきましょうか」
「トーマ様! 助けてください! 貴方の大事な妹がピンチですよ!」
「そういうことを言うから助ける気が無くなるんだぞ。自業自得だ駄妹」
「大丈夫ですよ、鎮痛の魔法も行使しますし」
「申し訳ありません姉上! お見合いの前までは好感触だったお相手の男性が、お見合い後になると全員お断りしてくるのは決して姉上に問題があるわけではありませんから!」
「……なるほど、鎮痛魔法の必要はないようですね。クレア様、裏庭に案内していただけますか?」
「はい! こちらです!」
魔法が使えるようになって浮かれまくっているクレアがうきうきで駄妹を引きずる駄姉を裏庭へと案内する。
再生魔法が使えるようになるとかなり助かるんだよな。いざという時のことを考えると。
両腕はともかく、指とかその辺りは覚えておいて損は無さそうだ。




