婚約指輪
「そういえば女騎士、お前の知り合いに魔法を教えるのが上手い知り合いはいるか?」
「何人か心当たりはおりますが、地竜を倒したトーマ様とエリナ様程の使い手にお教えできる人間となると……」
「いや、俺とエリナに教えてもらいたいのもあるんだが、クレアに白魔法の才能があったんだよ」
「クレア様もですか? そういえばムーンストーンの魔法石を買われていましたね」
「適性が白魔法しか無いが、潜在魔力がかなり高いんだ。だが俺達だと魔力の励起が教えられないんだよ」
「それでしたら全属性で特に白魔法が得意な人間を一人知っております。他者の魔力励起が出来るかはわかりませんが、指導力ならば問題無いかと思いますので、時間の都合が付くか確認してみますね」
「おお、頼む」
女騎士が顔を横にそむけると一人の女性がすっと現れる。
一言二言女騎士に言葉をかけられると、「承知いたしました」と言葉を残し姿を消す。
「なあ、今のって……」
「わたくし専属の侍女です。生まれた時から側につけられた腹心です」
「あっそ」
深く追求するのはやめよう。
ファンタジー世界に来て一年過ぎて結婚もしたけど、まだまだ慣れてないんだな俺。
その後は晩飯の材料を買いつつ、女騎士に庶民の金銭感覚などを説明していく。
市場で働く人々が、領主家に対してどういう感情を持ってるかわからないので、もし誰何されたら正体は明かさないように適当に説明しろと言ったところ、「トーマ様の三人目の妻の予定です!」とか言い出してエリナとひと悶着があった。
「お兄ちゃん!」
「こいつが勝手に言い出したんだぞ!」
「申し訳ありませんエリナ様、領主家の人間が庶民の生活を調査している事は隠せとトーマ様に申し付けられましたので」
「シルヴィアさんは良い人だと思いますけど、お兄ちゃんのお嫁さんとして認める事とは別ですからね!」
「いやだからエリナ、咄嗟の嘘でそんな気持ちは無いだろこいつには。そもそも身分差があるだろ」
「トーマ様! 身分差なんて関係ありません! いざとなればわたくしは平民になる覚悟がありますから!」
「お前状況を考えろや!」
「お兄ちゃん! まだクレアとも結婚してないのに!」
「当たり前だ、まだクレアと結婚してないのに次なんか考えられるか!」
「ですので三番目の妻と!」
「三番目はハンナかニコラかミリィですよ! シルヴィアさん!」
「でしたら何番目でも!」
「ミコトちゃんも順番待ちしてるんです! シルヴィアさんはその後です!」
「わかりました! 七番目ですね!」
「ミコトはまだ一歳だぞ……。あと孤児院の女子チームを全員嫁にするのはやめろ! これから同世代の男のガキんちょも入ってくるんだから、健全な恋愛をしろや!」
『ペッ!』
「ほら、独身のブサイクなおっさんが道端にツバ吐いてるから! もうやめやめ! 俺はお前と結婚する気は無いぞ!」
「何故ですかトーマ様! やはり胸が大きすぎるのが良くないのでしょうか!」
「お前馬鹿だろ、出会って一週間も経ってないんだぞ」
「でもエリナ様はトーマ様と出会って三日で求婚して、それっぽい返事を頂けたとお聞きしましたが」
「エリナーー‼」
「つい喋っちゃった。でも孤児院の子はみんな知ってるしね!」
「お前の場合は好感度マイナススタートだからエリナとは違うの! もう二人目も決まってるしこれ以上嫁さん要らないの!」
「諦めなければトーマ様ならなんとかなるとクレア様にも助言頂きましたが」
「どういう評価だ……チョロいのは俺なのか? いやいや、俺はハーレムなんて望んでないぞ」
「お兄ちゃん! シルヴィアさんとの結婚はクレアの結婚が終わるまでは絶対にダメだからね!」
「エリナお前、最初結婚は認めないとか言ってたのに何でいつの間にか結婚自体は認めてるんだよ!」
「エリナ様! ありがとう存じます!」
『カーッ! ペッ!』
「ほら、独身のブサイクなおっさんがとうとう道端に痰を吐きだしたから! もうこの話はしない! 俺は女騎士とは結婚しない! 以上!」
「お兄ちゃんのヘタレー」
「トーマ様は地竜に向かっていく姿はとてもたくましかったのに、やはり皆さんのおっしゃる通りヘタレなのですね。それでも好きですが!」
「うるせー、さっさと帰るぞ」
アホ嫁を腕にぶら下げつつ孤児院へと戻る。
「帰ったぞ弟妹ども!」
「「「おかえりー」」」
「ぱぱ! えりなまま! おねーちゃ!」
クレアと手をつないで出迎えに来たミコトがこちらに向かってぽてぽてと歩いてくる。
可愛い。
「ただいまーミコトー」
「ミコトちゃんただいまー、エリナママ帰って来たよー」
「ミコトちゃん可愛い過ぎですね……」
俺の横をすり抜けて、エリナの足にがばっと抱き着くミコトをエリナが抱き上げると、きゃっきゃとご機嫌だ。
パパちょっと寂しいぞミコト。
ミコトが無事エリナに抱き上げられたのを確認したクレアが「兄さま、姉さま、シルヴィアさんおかえりなさい!」と言ってきたのをエリナと女騎士が返事を返したところで、俺はクレアに声を掛ける。
「ただいまクレア、ちょっと俺の部屋に来てもらって良いか?」
「はい、兄さま」
女騎士にマジックボックスの荷物を台所とリビングに置いておくように指示すると、がしっと俺の腕にしがみつくクレアを連れながら俺とエリナの部屋に入る。
「クレア、左手を出してくれるか?」
「? はい兄さま」
クレアの左薬指にムーンストーンの魔法石が埋め込まれた指輪を通す。
「兄さまこれって……」
「俺が怪我した時に無くしたと思ってた指輪が見つかったんで、クリーニングをして割れた魔法石をクレアの属性に合わせてムーンストーンに替えたんだ。結婚まで待たせることになるから、せめて婚約指輪を渡しておかないとって思ってな。中古で悪いけど、俺を守ってくれた指輪で縁起は悪くないし、結婚指輪はちゃんと別に用意するからそれまでこれで我慢してくれるか?」
「兄さま……だいすき……」
そっと抱き着いてくるクレアの頭をなでる。
「じゃあ飯作るから手伝ってくれるか?」
「はい!」




