勇者と魔王 <エリナさんの解説コーナー 折り畳みリアカー>
ガラガラとリヤカーを引いて、やっと冒険者ギルドにたどり着く。
中に持って行くのは無理なので、牛肉をリアカーに乗せたまま入口に放置だ。
「こんにちわー」
「ちっす」
冒険者ギルドに入ると、いつもの事務員が黒い襤褸を体に纏った客らしき人間の対応を丁度終えた頃のようだった。
今日は珍しく他の客が居るようだ。
話を終えた後、カウンターから少し離れて待っているようだけど、皮鎧じゃないし依頼者かな?
事務員もこちらに気づいたようで挨拶を返してくる。
「エリナさんトーマさん、いつもご苦労様です」
「今日はブラックバッファローを狩ってきたぞ。外に魔力で軽くなるリヤカーに乗せて置いてあるんだが回収を頼めるか? あと魔石一個な」
ごろんと野球のボールサイズの魔石をカウンターに置く。
「かしこまりました、魔法属性持ちの職員に取りに行かせますね」
魔石を受け取って奥に行くいつもの事務員。
あの人いつ休んでるんだろうな。
時間がかかるかと思って掲示板を見ようとしたらすぐに戻ってくる。
指示だけ出したのかな?
そういや客がもう一人いるし、その対応も一人でやってるのか。
「査定に三十分程かかりますがどうされますか?」
「微妙な時間だな、まあ掲示板でも見て時間を潰すよ」
「わかりました。終わりましたらお声をおかけしますね」
「頼む」
「おい! 余の再査定の結果はまだか!」
「魔王さん、今上長に確認しましたが、やはり銀貨二枚と銅貨三百枚以上はお支払いできません。毛皮が燃えてしまっていますし、魔石と角の価格しかお出しできませんので」
あの客が魔王かよ……。
関わるとめんどくさそうだから離れて掲示板を見てよう。
そう思ってエリナを強引に引っ張り、掲示板の前に行く。
面倒ごとに巻き込まれたくないだけなのに、がっしり俺に捕まれたエリナは、何を勘違いしたのか、「えへへ!」と抱き着いてくる。
まあアホ可愛いから良いかと、エリナを抱きしめたまま掲示板をエリナと眺めていると、ずっと放置されていた依頼書の変化に気づく。
<徴税局からの依頼 貧民街〇区〇番△△に住む「魔王」の捕縛依頼 報酬 銀貨四枚>
魔王の捕縛依頼の報酬額が上がってないか? 昨日までは銀貨二枚だったと思ったが。
滞納額でも増えたんかね?
というか、なんでここにいる事務員総出で捕縛しないんだ?
などと考えていると
「あ、お兄ちゃん! この依頼なんてどうかな? 報酬凄いよ! 金貨百枚だって!」
「ドラゴン? エリナの業炎球でも無理だろ。ドラゴンって火に強いイメージがあるし。というかコレ冒険者駆除用の罠じゃないのか? 普通いないだろこんな所に」
「む! そこな娘!」
私? と魔王の方を見るエリナ。
しまった、絶対面倒な事になる。
さっさとエリナを連れて逃げるか?
「私ですか?」
「そうだ! 美しい娘よ! 魔王である余の后にしてやっても良いぞ!」
「お前殺すぞゴルァ‼ なに人の嫁に粉かけてんだ‼」
「私はお兄ちゃんのお嫁さんです‼」
即座に抜刀した俺は、魔王と名乗るゴミクズに日本刀を向けて威嚇し、エリナがゴミクズの視線から逃れるように俺の後ろに隠れる。
「大人しく娘を差し出せば良いものを。魔王たる余に歯向かうとは愚か者め。この魔王の力をとくと見よ! 炎の矢!」
ゴミクズがそう言うと、ボールペンのようなしょぼい炎の矢を、かざした手の上に浮かべる。
「風の剣!」
俺は日本刀に風の魔法を纏わせると同時にゴミクズに向かってダッシュし、炎の矢を斬り払って拡散させる。
やっぱしょぼいな、エリナの炎の矢なら俺の風魔法の方が拡散するぞ。
「何だと! 余の炎の矢が!」
驚愕しているゴミクズの鳩尾にケンカキックで蹴りをくれて、「うぼぉ」とか言いながらゲロを吐いてうずくまって下がったゴミクズの頭にもう一度蹴りを入れる。
俺の腕はエリナの指定席だからな。
最近はクレアもくっついてくるし。
こんな屑に触れる部分は靴の裏で十分だ。
怒りが収まらないので、ゲロに顔を突っ込んでるゴミクズの後頭部をゲシゲシと十回ほど蹴り
「風縛!」
吐しゃ物をまき散らしてダウンしたゲロ塗れの汚いゴミクズに触らないように風の玉で拘束した俺は、掲示板から徴税局の依頼書を剥がす。
今の怒り状態の俺なら暴れるダッシュエミューすら拘束できる気がする。
ブラックバッファローは流石に無理だろうけど。
「事務員! ちょっと徴税局行ってくるわ。エリナ、この依頼書の地図で徴税局の場所はわかるか?」
「徴税局ならわかるよ! それよりお兄ちゃんすごくかっこよかったよ!」
「一瞬殺そうと思ったが何とか踏みとどまれたわ。俺のエリナに粉をかけるとか殺されても文句言えないから、別に殺しても良かったんだが」
「お兄ちゃん! 愛してる!」
「俺も愛してるぞエリナ!」
「えへへ!」
「あのトーマさん」
「なんだよ事務員。ゲロは俺のじゃないぞ」
「いえ、ゴミの処理ありがとうございます」
「というかなんで捕縛しないで換金に応じてるんだよ」
「捕縛は事務員の仕事じゃないですからね」
「あっそ。でもせめて通報位しろよ。こんなゴミ放置するな」
「通報しても誰も来ないと思いますけどね。だからこそここに依頼が回ってきたのですし」
「危うく殺すところだったぞ。これ暴行とか傷害にならないよな? 今なら殺しても職業欄に殺人者って出ない自信があるぞ。人の嫁に手を出そうとする奴なんて殺して当然だからな」
「普通に捕縛してたように見えましたし大丈夫ですよ。もし死んでしまったとしても不可抗力ですね。魔法で抵抗してましたから」
「だよな、じゃあ行ってくる」
「ゴミの処分が終わって戻られる頃には査定も終わってると思いますよ」
「行って来まーす!」




