夫婦魔法 <エリナさんの解説コーナー 魔物編>
俺は防音魔法と防御魔法を解除する。
「業炎球!」
エリナの身長位ある上級魔法の馬鹿でかい火球が、時速百キロ以上の速度で、ブラックバッファローに襲い掛かる。
ドバアアアアアアアアアアン!!
着弾すると、ブラックバッファローが蒸発して、直径三メートル程のクレーターが出来た。
なにこれ、上級でも初歩の方って聞いたけど業炎球ってこんなにヤバいの?
「お兄ちゃん、ブラックバッファローが消えちゃったけど……」
「一瞬で蒸発したんだぞ。魔石も蒸発してないか? ちょっと冷やさないと駄目だなあれ。|吹雪!」
「おー、お兄ちゃんすごい! 流石私の旦那様!」
「バキバキ音がして怖かったけど、湯気も出なくなったしこんなもんか」
水魔法を解除した後に、念のため防御魔法を発動させて、ブラックバッファローが居た地点までエリナと歩いていく。
着弾した部分がガラス化してるじゃねーか……。
恐る恐るクレーターを覗き込むと、鈍く光る石が転がっていた。
「お、魔石は残ってたぞ」
「良かったー」
「風縛!」
風縛で魔石を持ち上げて、水魔法で洗って回収する。野球のボール位のサイズだな。
「土砂の雨!」
ガラス化した部分にも砂をかけて終了だ。
最近は砂粒からスイカサイズまで自由自在に出せるようになった。
「エリナ、業炎球で魔力はどれくらい減った?」
「んーと5%だね」
「風の攻撃魔法って風刃位しか無いんだよなー。竜巻系は範囲では優秀だけど単体攻撃力じゃ風刃と変わらんし」
「中級は操作系ばかりだしねー。体を軽くして早く走る魔法とか色々便利だけど」
「風縛が使い勝手良いからそれを試してみてかな」
「そうだね!」
「風縛が駄目なら俺の雷魔法やエリナの風刃で試してみて、それでも駄目なら業炎球で魔石だけ回収しよう」
「わかった! でもお兄ちゃん、二人で一緒に風縛を使えば重くても持ち上がらないかな?」
「爺さんの本にも合体魔法とか協力魔法なんか無かったけどなー、でもイメージだし試してみるのはアリかも」
「ちょっとあの岩で試してみようよ」
エリナは自分の身長位はありそうな岩を指さして言う。
「あれか、牛サイズより小さめだけど質量がある分試すにはちょうどいいか」
「じゃあまず私だけでやってみるね!」
「よし良いぞ」
「風縛!」
ガクガクとは震えているが、一向に持ち上がる気配はない。
エリナの魔法石も輝いているので増幅はしてるようだが、それでも駄目なようだ。
「解除して良いぞ」
「うん!」
「じゃあ次は二人でだな」
「じゃーえいっ!」
エリナは俺に背中を向けて、「えいっ」とくっついて来て、両手を岩に向かってかざす。
なんとなくエリナの考えがわかった俺は、後ろから同じように両手をかざしエリナの両手に添える。
「いくぞ」
「うん!」
「「風縛!」」
エリナの左手にはめられた魔宝石が輝く。
俺の魔法石も輝いてるが、別属性の為か輝きが弱い。
それでも、二人の魔力が上手い事相乗されたのか、魔法石の補助も効果的だったのか、岩がゆっくりと持ち上がった。
「お兄ちゃん! 出来たよ!」
「上出来だな、これならブラックバッファローも拘束できるんじゃないか?」
「もう少し重くても、まだ持ち上がりそうな感じがするから大丈夫だと思うよ!」
「だな。よしゆっくり降ろして解除するぞ」
「うん!」
岩をゆっくり降ろして風縛を解除する。
「なんとか方法は見つけたし、あとはブラックバッファローを探しに野菜屑を撒いたポイントを確認しに行くか」
「はーい!」
てくてくとエリナとポイントを確認していく。
いくつかは既に食われてたりしてるから、あちこちにバラ撒かなくても良さそうだな。
「あ、お兄ちゃんあれ!」
「丁度食い始めって所か、さっさとやるか」
「うん!」
俺の腕に抱き着いてたエリナがくるんと回って俺と重なる。
「いいよお兄ちゃん!」
「いくぞ」
「「風縛!」」
風の玉に拘束されたブラックバッファローが、ゆっくりと持ち上がる。
暴れることも無く、完全に四肢の動きを封じられているようだ。
ゆっくり回転させて、首を下に向けておく。
「やったねお兄ちゃん!」
「あとは俺が首を斬るまで維持しておかないとな、風の魔法で斬れ味を強化しつつ刀身を保護したいところだけど、俺の並列魔法は魔力が分散するからそのまま斬るか」
「首を斬っちゃえばもう暴れないから、血を捨てる穴くらいは魔法で掘れるんじゃないかな?」
「だな、落としそうになったら土魔法を中断するけど、一応気をつけろよ」
「わかった!」
ブラックバッファローの側まで来たので、エリナから少し体を離すと、一気に抜刀して首を半ばくらいの深さで斬る。
抵抗をほとんど感じずに斬れた日本刀の斬れ味に感動したいところだが、血が出ててキモいので、日本刀を持ったまま即座に魔法を唱える。
「陥穽!」
穴を作るまでのタイムラグの分、周囲がスプラッター状態だが、無事残りの血はダバダバと穴に入れられていく。
血振りをして刀身を確認すると、血どころか汚れ一つ着いていないようだ。
一応武器屋の親父がくれた懐紙で刀身を拭い、納刀する。
「お兄ちゃん、ちょっと首を持ち上げるから支えててね」
「わかった」
くいっとブラックバッファローの首が持ち上げられ、血抜きの速度があがる。
「ぎゅー」
「だから牛モツ出ちゃうから辞めろって、しかもこんな至近距離だし吐いちゃうから」
「ぎゅー! もつ!」
「美味いんだぞ。これは美味いのかは知らんけど。あとダジャレは上手くないからな。というかダジャレとして成立するのか言語変換機能」
「あれ? でもお兄ちゃんの斬ったところって牛タンの部分じゃないの?」
「そういやそうだな、タン下なら安いから良いけど、タン元斬っちゃってたら値段下がっちゃうかも」
「今日ギルドでどこを斬ったら一番良いのか聞かないとね」
「だな、タンが美味くて一番価値がある部位だったら目も当てられん」
しばらく牛肉の部位談義をしていると、血抜きが終わる。
「血も抜けたし、軽くなっただろうから一人で支えていられるか?」
「大丈夫!」
「じゃあリアカーを組み立てるから、組み上がったらゆっくり降ろしてくれ」
「はーい!」
籠から折りたたまれたリアカーを取り出し、展開していく。
いくつかパーツも取り付ければあっという間に完成だ。
流石防具屋、こういった細工も得意なんだよな。
クズに辛辣なの以外は最高なんだが。
「いいぞー」
「じゃあ降ろすねー」
ゆっくりとリアカーに牛肉が乗せられた。
ギシギシと言ってたが、血抜き後なら二頭は乗せられますとか言ってたし平気だろ。
取っ手部分のミスリルに魔力を流すと、急に軽くなる。
これなら余裕で運べるな。魔力消費も普通の人で数時間は使えると言ってたし、ギルドまで一時間もかからないから大丈夫だろ。
血抜き穴を埋めて帰り支度も万全だ。
リヤカーに魔力を通しながらも、探知魔法と防御魔法を展開する。
並列で魔法を使ってもリヤカーの重さは変わらない。
これなら消費魔力は低そうだな。
「落とし穴を調べて今日は帰るか」
「うん! 今日はいっぱい収穫があったね!」
「狩りもそうだけど、協力魔法ってひょっとしたら俺達が初めて使ったかもな」
「夫婦魔法!」
「爺さんに会ったら聞いてみるか。一応それまでは内緒だぞ」
「夫婦の秘密だね! お兄ちゃん!」
「はいはい」
ガラガラと金属製の車輪の音を響かせながら移動する。
ゴムタイヤを着けるとさらに高くなるので今回は着けなかった。必要なら後付けできるしな。
残念ながら落とし穴の上におかれた野菜屑には釣られてなかったが、野菜屑を撒いた十ヶ所の内、五ヶ所で食われてたので、次からは罠ともう一箇所位でよさそうだな。
筵を回収し、落とし穴を埋める。
俺達は冒険者ギルドへ牛肉を納品しに向かうのだった。
冒険者って食肉業者かなんかかな?




