一夫多妻 <日常の一コマの挿絵あり>
「兄さま、姉さまおめでとうございます!」
色々考えていると、一段落着いたようで、疲れて寝てしまったのか昼寝の時間なのか、眠っているミコトを抱いたクレアがやってきた。
「クレアありがとー」
「お疲れクレア、大変だったろうに色々ありがとうな。テリヤキチキンサンドの味付け完璧だったぞ」
「ありがとうございます。でも兄さまと姉さまの方が大変だったじゃないですか」
「今ね、お兄ちゃんが私たちを幸せにするために頑張るって言ってくれたんだよ!」
「もう十分幸せですけどね、兄さまのお陰で」
「いやいや、もっとだよもっと。現状で満足したら駄目だ。クレアは何かないか? 将来の夢とかやりたい事とか」
「でしたら私は兄さまのお嫁さんになりたいです!」
「は?」
「流石クレア! お兄ちゃんは最高の男の人だからね!」
「ちょっと暴走したりしますけど、普段は優しくて凄く頼り甲斐がありますしね。あ、もちろんかっこいいとも思いますよ」
「いやいや、俺今エリナと結婚したばかりだから」
「「え?」」
「え? 何? 重婚できるのこの国?」
「じゅーこん? 重婚なら普通に出来るけど?」
「兄さま、複数の女性を養える男性というのはそれだけで裕福だという事ですからね。もちろん資産などの条件もありますけれど。裕福な家庭の子供が増えることもあって、むしろ国は一夫多妻を推奨して色々優遇してくれますよ。どうしても出産が絡むので一妻多夫は推奨されませんし優遇措置もありませんけど、条件さえ整えば可能ではありますし」
「えっ? エリナはそれでいいの?」
「クレアなら問題無いどころか大歓迎だけど?」
「最初の奥さんが許可すれば大丈夫ですよ兄さま。三人目以降はお嫁さん全員の許可が必要ですけれど」
「そういや式の前に婆さんに書かされた国に提出する書類の署名欄が複数あったな。婆さんはこの下の欄は今回は関係無いですよとか言ってたがそういう事かよ」
「お兄ちゃんクレアは駄目なの?」
「兄さまにとっては私なんかまだお子様ですよね……」
「いやそういう問題じゃなくて」
「兄さま……私じゃ駄目ですか?」
「お兄ちゃん! クレアはこんなに可愛くて性格も良くて働き者なのに酷いよ!」
「いやあの、とりあえずクレアが結婚できる十五歳になった時に考えよう」
「お兄ちゃんのヘタレ!」
「兄さまってやっぱりヘタレですね。姉さまは良くヘタレな兄さまを口説き落とせましたね」
「頑張ったから!」
「姉さま、私も頑張りますね! 兄さま、大好きですよ!」
「頑張ってクレア! 私も説得しておくから!」
「お願いしますね姉さま!」
えー、なにこれ、前に読んだ異世界転生本みたいなハーレム展開になるの?
ヨーロッパってキリスト教が流行ってからは一夫多妻なんてもってのほか、快楽目的のセックスすら駄目っていう厳格な教義だったから、ハーレムなんて中世ヨーロッパの世界観に一番そぐわないとんでも設定なんだけどな。
この世界の宗教は緩すぎてよくわからん。
でもクレアが結婚できる十五歳になるのは四年半後だし、それまでにはクレアの気持ちも変わるだろ。
二人の奥さん抱えて充実した生活なんてそんな甲斐性俺には無いぞ多分。
「五年後はここにクレアが座るんだよ!」
「楽しみです姉さま!」
「決定事項みたいに話さないように! 流石に十歳児に懸想できんわ!」
「ヘタレだねお兄ちゃん」
「ヘタレですね兄さま」
「うっさい! 五年後に俺を惚れさせてみろクレア! そしたら結婚でもなんでもしてやるわ!」
「言いましたね兄さま! 絶対に惚れさせてみせますからね!」
「頑張れクレア! クレアなら可愛いし大丈夫だよ!」
「私頑張ります!」
「クレア。お兄ちゃんはねー、ぎゅって抱きしめると惚れちゃうんだよ多分」
「そこ適当なアドバイスをするな!」
「姉さまありがとうございます!」
「あ、でもお兄ちゃん、孤児院の子以外は駄目だからね!」
「ちょっと待て! クレアの他にも候補を増やすのをやめろ!」
「なんで? ミリィもお兄ちゃんの事好きだよ?」
「ですよね姉さま。ミリィがあんなに人に懐くのを見た事が無いですし」
「あいつは飯くれる奴に懐いてるだけだろ!」
「ミコトちゃんも将来はお兄ちゃんのお嫁さんだね!」
「ミコトちゃんは将来絶対美人になりますからねー、楽しみですね兄さま」
エリナとクレアは、クレアの抱いているミコトを覗き込んで刷り込みを始めやがった。
駄目だこいつら、特にクレアはこんな一歳児を嫁にするとか言い出す男に求婚なんてするんじゃねーよ。
光源氏ですら若紫を見初めたのは若紫が十歳過ぎの頃だぞ。
あれ? もし俺がクレアに懸想したら光源氏?
それは嫌だ。
「たしかにミコトは超絶可愛いが、嫁にしたいとか全く思ってないわ!」
「でもミコトちゃんがお兄ちゃん以外の男の人のお嫁さんになるのは嫌だなー」
「私もそうですよ姉さま。ミコトちゃんは兄さま以外の人にはいいんちょーの私が嫁がせませんから」
「二十歳近くも離れてるのに今そんな事考えられるか! 無理だ無理!」
「歳なんて関係無いよお兄ちゃん」
「歳なんて関係無いですよ兄さま。あと次は私と結婚してください」
「うるせー。あとクレアはさらっと変なこと言うな。うかつにはいとか言ったら署名させられそうで怖いわ」
「ヘタレだねお兄ちゃん」
「ヘタレですね兄さま」
「そういえばクレア、前にお兄ちゃんがクレアのぱんつ見てたからクレアに興味があるのは間違いないよ!」
「えっ……恥ずかしいですけど、兄さまが見たいなら言って頂ければいつでもお見せしますよ」
「見てませんー! 必死に目を逸らしてましたー! 十歳児のパンツになんか興味ありませんー! 誤解を招くような発言はやめてくださいー!」
「クレア、お兄ちゃんは照れてるだけだからね」
「今日は白ですよ兄さま! 見ますか?!」
「見ねーよ! 十歳児に欲情する変態と一緒にするな!」
「じゃあどうすれば兄さまは私に惚れてくれるんですか?」
「知るか! というかパンツを見せて惚れるような男なんかクズだからな!」
「私諦めませんからね兄さま!」
「クレア! 一緒に頑張ろう! あと四年以上もあるから大丈夫だよ!」
「はい! 姉さま!」
「もう知らん」
ギャーギャー騒いでいる俺達の周りに、いつの間にか野次馬が集まっている。
『頑張れよークレアちゃん!』
『五年後楽しみだなー』
『ヘタレの癖に責任感だけは強いから押し倒しちゃえば良いんじゃね。むかつくけど』
「はい頑張ります! みなさま応援よろしくおねがいしますね!」
『任せろー!』
『頑張れよー』
『ヘタレな癖になんであいつだけやたら惚れられるんだよ。しかも将来有望な子だらけじゃないか。死ねばいいのに』
さっきから誰だ、一人辛辣な奴が混じってるぞ……。
一応祝いの席なんだから自重しろ自重。
その後はクレアを中心に盛り上がる事盛り上がる事。
主役のエリナ以上に応援されまくって注目されたクレアも、ハイテンションのまま客にミコトを紹介しまくってた。
客もミコトの可愛さと愛想の良さにメロメロだ。
ミコトは超絶可愛いからな。嫁にはしないが嫁にもやらん。
◇
なんやかやと深夜まで盛り上がった波乱の結婚式が終わった。
おばちゃんが片づけを仕切ってくれるというので、お願いして俺達孤児院組は纏めて一緒に帰宅する。
もちろん照明魔法と防御魔法で深夜でも安全だ。
てくてく歩いているが、すやすやと幸せそうに眠るミコトを抱いた俺に、エリナとクレアが両腕に捕まってきて歩きにくいのなんの。
というかエリナは十歳児にサイズで負けてるのな。
どっちも見た事無いから感触でしか判断材料が無いけど。
それにしても重婚ねー、全く想像できないわ。
まだエリナとの結婚生活すら始まってないんだぞ。
クレアは良い子だし大人びてるけど流石に十歳児だしな。
まあ先延ばしだ先延ばし。
ヘタレな俺は、いつものように問題を先送りにして帰路につくのだった。




