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結婚式


 あっという間に六月になった。

 やっとあの訳の分からんやり取りから解放される。


 エリナが調子に乗って結婚式に来てくださいと色んな人を誘いまくったので、当初予定していた孤児院では狭くなり、婆さんの伝手で礼拝所を一日貸し切りで行うことになった。


 この世界はご祝儀という概念が無く、招待客は新郎新婦に贈り物をする程度だというので、お返しに俺達も披露宴で料理を振舞おうと前日に新郎新婦自ら仕込むという状況だった。


 ガキんちょ共も、大みそかにプレゼントしたおしゃれ着をしっかり着て、今現在、式の開始をおとなしく礼拝所の椅子に座って待っている。


 クレアはミコトを一号に預け、エリナのブライズメイドをやるそうだ。

 ミコトも一歳を過ぎてもう歩けるし簡単な単語も話せるようになった。

 今は大人しく一号達とお座りしてるそうだ。



「姉さま、凄く綺麗です!」


「ありがとうクレア」



 わざわざ服屋も着付けと祝福に来てくれて、エリナのドレスを最終チェックしている。

 エリナは椅子に座り、クレアと言葉を交わしている。



「やっとあの日々から解放されるのか。感慨深いな」


「兄さま、結婚したら姉さまはもっと暴走すると思いますけど」


「そういやそうだった」


「お兄ちゃん、私凄く幸せだよ!」


「ああ、俺も幸せだよエリナ」


「うん!」





 俺とエリナも特に信仰してる宗教が無いので、全て婆さんにお任せだ。

 牧師役? も経験者の婆さんが行う。

 どんな宗教かは知らん。

 特に戒律も無いし気にする必要はないと言われたので気にしていない。

 別に入信するわけでもないし。


 元々宗教観緩い世界だからなここは。

 貸し切りも一日借り切って銀貨三枚だぞ。


 参拝しにきたどこぞの宗教の信徒も緩くて、「あら結婚式かしら。おめでたいわね覗いて行こうかしら」と、ちゃっかり空席に座る始末だ。

 祝ってくれるならありがたいから何も言わないし、料理も大量に用意したから是非食っていって欲しい位だ。


 エリナをエスコートしながら、祭壇のような物の近くに立つ婆さんに向かってゆっくりと歩いていく。

 エリナはアホ故か平然としているが、クレアはガチガチに緊張してエリナのドレスの裾を持っている。


 婆さんの前にたどり着くと、クレアは無事役目が済んだと、そそくさとミコトを受け取りに一号の座ってる場所へ行く。


 婆さんの前で行うのは、日本でもおなじみのあれだ。

 ただし誓うのは神ではなくて、祝福に来てくれた人達にだ。

 人前式だなこれ。


 あらかじめ婆さんに預けていた指輪を受け取り、指輪の交換をする。


 この場にいる全員に宣誓し、誓いのキスをするも「もう何度も見たぞー」という野次で客が盛り上がる。

 キスは二人きりの時だけという約束は暴走して何度も破ってるからな、二人とも。


 がやがやと明るい雰囲気で盛り上がる中、婆さんが俺達に声を掛ける。



「エリナ、おめでとう」


「ありがとう……お母さん!」



 お母さんという言葉に婆さんが一瞬目を大きくして微笑む。

 目尻には涙が浮かんでいる。



「トーマさん。娘をよろしくお願いしますね」



 娘と言われてエリナも目に涙を浮かべる。

 こういう雰囲気苦手なんだよなー。



「ああ、任せてくれ。婆さんは今幸せか?」


「ええ、とても」


「良かった。俺も婆さんのことは母親のように思ってるからな、一度しか言わないけど」


「お兄ちゃんのヘタレ」


「うっさい。アホ嫁」


「えへへ、ヘタレな旦那様を一生支えてあげるからね!」





 元々結婚の儀式は宗教観の緩いこの世界では厳格さも無く、宣誓と指輪交換が終わったら即披露宴というか宴会に突入する。

 まだ午前中だが、披露宴は参加客以外にも野次馬や偶然通りかかった連中も全て巻き込んでひたすら飲み食いするというイベントだ。


 参加するには招待されるか、何かしら持ち込めば良いという緩さで、もちろんその持ち込みさえも建前で、料理が余っていそうなら自由参加すべきみたいな空気なのだ。


 俺とエリナだけではそこまでの量の料理が用意が出来ないので、礼拝所では前日から厨房を借りて俺とエリナがひたすら料理を作り、孤児院ではクレアが中心となって簡単に摘まめる軽食を大量に準備したし、肉屋や野菜売りのおばちゃんやいつも市場で世話になってる連中も、大量の料理を持ってきてくれた。


 酒は誰も飲まない為、料理用の分しか買ってなかったので伝手が無かったが、肉屋が酒屋を連れてきて大量に持って来させてた。一応後で金を払おうと思うけど、受け取らないだろうなここの人達は。



 俺とエリナは主役席に座らされ、次々に冷やかしの言葉を浴びせられる。

 エリナは律義にお礼を返していたが、俺にかけられる言葉はもうヘタレの癖にこんな可愛い嫁さん貰いやがっての嵐だ。

 とはいえ、新郎新婦をからかうよりも宴会の方が大事なのか、しばらくすると新郎新婦そっちのけで盛り上がっている。

 


「やっと落ち着いたなエリナ」


「そうだねお兄ちゃん」


「結婚してもお兄ちゃんなのか?」


「んー、お兄ちゃんはお兄ちゃんだしなー」


「子供が出来たら考えるって事で良いか」


「お兄ちゃんとの子供は早く欲しいけど、お兄ちゃんの事だから色々考えてるんでしょ?」


「流石最愛の嫁、俺の性格を完璧に把握してるな」


「そうだよー、お兄ちゃんの事はお兄ちゃん以上に理解してるかもね」


「まだ二人とも若いしな。子供を急ぐ必要も無いし、子供にエリナを取られると嫉妬するかもしれん」


「お兄ちゃんが私を子供に取られて嫉妬!」


「クレアがミコトを可愛がるようにされたら俺を相手にしてくれなさそうだしな」


「クレアはねー、もうミコトちゃんのお母さんだよね」


「ま、孤児院の収入を増やす為の資金はあのアマから貰った金があるし、色々考えてみるわ」


「よろしくねお兄ちゃん!」


「ああ、エリナも孤児院の連中もまとめて俺が幸せにしてやる!」


「私の旦那様がかっこいい!」



 一生に一度の場だし、と少しだけ勇気を出して宣言をする。

 もう俺の居場所だからな孤児院は。

 というか結婚したら孤児院は出ていく必要があるのかと思ったが、元々孤児院は、宿泊施設としても使って良い許可が出ていて、婆さんは、俺達が孤児院に入れてる金の一部を、宿泊客からの収益として国に申請していたそうだ。

 エリナは冒険者登録した時点で、既に婆さんの庇護下からは外れているので俺と一緒に宿泊客扱いなんだと。


 ただ今日結婚申請をする時に市民登録の申請もしたから、後日血液登録に行く必要がある。

 預金も銀行に移す予定だが、市民登録したら宿泊客から孤児院の職員として登録をするらしい。

 給金は皆無だが、この公的な肩書はありがたい。


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― 新着の感想 ―
[一言] この世界で生きてゆく上で必要な事はやっておかなくちゃね。 それでこそ大黒柱! よっ!ヘタレ勇者!
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