クレア <クレアパンツの挿絵あり>
今、俺とエリナさんは孤児院のリビングで正座をしています。
「良いですか? 兄さまと姉さまが稼いだお金だから別にどう使おうと構わないんです。でもですね、無駄遣いはしちゃ駄目っていつも言っているじゃないですか!」
「でもねクレア、ミコトちゃんが喜びそうだなーって思ったらついね」
「姉さま!」
「ごめんなさい」
玩具を背負い籠いっぱいに買って、ドヤ顔で帰ったらクレアさんが滅茶苦茶お怒りになられました。
たしか俺の想像では、「兄さま! 最高の玩具をありがとうございます!」 とクレアさんにお喜び頂けるはずだったのですが。
「姉さまも姉さまですよ。私言いましたよね? 兄さまは暴走するからしっかり気を付けてくださいと」
「委員長、むしろエリナさんの方が暴走していました」
「兄さま!」
「すみません」
俺達は今、クレアさんに籠の中身を取り出されながら、一つ一つ物的証拠を突き付けられています。
先程から一生懸命ご説明申し上げているのですが、こちらの言い分を一切聞いて頂けません。
孤児院の他の皆様は、俺達から距離を取ってミコトさんと遊んでいらっしゃるようです。
こちらを一切見ようともしません。
無視しないで助けてください。
「こんなに……しかもよく見たら同じ玩具もあるじゃないですか!」
「それ色違いなの。ミコトちゃんは何色が好きかなーって流れで」
「姉さま!」
「ごめんなさい」
ガサガサと持ち物検査をする委員長。ヤバいです。
籠の下の方に行く程、高額商品になっていきます。
先程から椅子に乗って籠の中に上半身を突っ込んで玩具を取り出してるクレアさんに、「パンツ見えてます」と言ったら殺されてしまうと思いますので、言わずにそっと目を背けます。
そういえば最近は安定して稼げるようになったので、前にエリナさんが「女の子はおしゃれしなくちゃ」と、女子チームの皆さんに服を何度かプレゼントしていました。
下着までちゃんと買ってあげていたのですね。
ゴムを使った日本にあってもおかしくないようなデザインで、多分庶民にはちょっとお高そうなパンツです。
エリナさんはアホですけれど、普段は弟妹達には凄く優しい良い姉なのです。
「あっ! 二歳児用とか三歳児用とかも買い込んでます!」
「ミコトさんは賢いから一歳児用だとすぐ飽きちゃうかなと思いまして」
「兄さま!」
「すみません」
「私がこれからミコトちゃん用の玩具を選びます。残りは野菜売りのおばさまの家に差し上げて来て下さい。貰い乳でお世話になりますし、あの家には丁度二歳の子と五ヶ月の子がいますから。良いですね!?」
「「わかりました」」
「それと明らかに高額っぽい箱入りの玩具は開けないでおくのでそのまま返品してきてください。どうみても貴族用じゃないですか」
「……返品ですか?」
「そうですけど? 兄さまそれが何か?」
「何でもございません」
「今後は絶対無駄遣いはしちゃ駄目ですよ! 碌な大人になりませんからね!」
「「申し訳ありませんでした」」
お金の使い方を学ばなければいけないのはガキんちょさん達ではなく、まずは俺達でした。
更に籠の一番底には、ヤバいブツが入っています。
貴族用の玩具が出てきたのでそろそろクレアさんに見つかってしまいます。
手持ちのお金じゃ足りなくて、わざわざ冒険者ギルドに行ってお金を下してきて買った超高額商品です。
俺の隣で正座をしてるエリナさんは、クレアさんのパンツの色のような真っ青な顔でぷるぷる震え出しました。
全く役に立たない妹で、兄としてはとても悲しく思いました。
見つかる前に自白したほうが罪が軽くなるかもしれないと思った俺は、椅子に乗ってほぼパンツ丸出し状態でぶつぶつ文句を仰りながら、玩具を籠の底の方から取り出しているクレアさんに、勇気を出して自白することに致しました。
もちろんパンツのことは指摘しません。怖いので。
「あの、すみませんクレアさん」
「何ですか兄さま」
籠の中から上半身を出し、まるでゴミを見るような視線を向けるクレアさん。
怖いです。でも頑張ります。
「哺乳瓶という非常に素晴らしいアイテムを買ったのですが」
「中に母乳を入れて赤ちゃんにお乳を飲ませる道具の事ですね」
「毎回おばちゃんに来てもらうのも悪いので、朝と夕方の二回、エリナさんに母乳を貰いに行かせれば良いかなーと考えて買った物なのです。ゴムとガラスを使ってるのでちょっとだけ高価だったのですが、それだけはお許し頂けないでしょうか」
「そういうちゃんとした考えをする時の兄さまは、とても頼り甲斐があって好きですよ。でも暴走癖とか変な事を言う癖は治してくださいね」
「ありがとうございます。肝に銘じます」
やりました成功です。
いつもの可愛らしい妹に戻ってにっこり微笑んでくれました。
やはりミコトさんに授乳できるという事で喜んで頂けたのでしょう。
「で、何個買ったんですか?」
「……個です」
「はい?」
「十個です」
「兄さま!!!!!」
結局哺乳瓶は、孤児院で二個、おばちゃんの家に二個プレゼントして、残りは貴族用の玩具と一緒に返品してこいと怒鳴られた俺は泣きながらお店に行き、エリナも半泣き状態で、哺乳瓶とクレアが選ばなかった玩具をおばちゃんの家に届けに行きました。




