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孤児院 <トーマ君の持ち物 の挿絵あり>


 婆さんを背負ったまま門の前までたどり着くと、町の門番に誰何されたが、婆さんが自分の首に下げた身分証のようなものを見せるとともに、俺の身分保証をしてくれたおかげで、入町税として銀貨一枚を支払って無事に入ることが出来た。

 商業区域の片隅にあるという孤児院を目指して歩く。門の近くと違って、奥に向かって進んでいくと、段々と空気が淀んだ感じになっていく。

 しばらく歩いていくと、あまり綺麗ではない建物の中でもひと際ボロボロの平屋の建物が見えてくる。

 一応石造りみたいだが、壁の一部が崩落してたり、苔むしていたりして見た目が悪い。

 こちらの文字でイザベラ孤児院とこれまたボロボロの木製の看板がかかっていた。



「アレ……かな?」


「そうですね、多分」


「いやいや、アレだろ明らかに」


「すみませんすみません、ボロ屋ですみません」


「いや別に良いんだけれども」



 入口に近づくとぶつぶつ婆さんが何か言っているが、「これで大丈夫ですので扉を開けて貰っていいですか?」と言われたので言われた通り、古いが頑丈そうな鉄の補強が入った木製の扉を開けると、ガキんちょたちが群がってくる。



「おかえりいんちょーせんせー! あれ? どうしたの! だれ?」


「いんちょーせんせーけがしたのー?」


「私は大丈夫ですよ」


「はいはいお前ら、この婆さんの部屋まで案内してくれ」


「おっちゃんだれ?」


「おっちゃんじゃないぞ、お兄さんだぞ」


「おっちゃん、いんちょーせんせーどうしたの」


「心配すんな、腰を痛めただけだよ。あとお兄さんな」


「おっちゃんこっちだよ」


「おう。あとお兄さんな」


「騒がしくてすみませんね」


「元気があって良いじゃないか。ただ痩せてる子が多いな」


「そうですね、私が至らないばかりに子供たちに苦労させてしまっています」



 茶髪の八歳くらいの男の子に案内され、入口からすぐ近くだった院長室に入り、ベッドに婆さんを寝かせる。

 院長室と言っても八畳くらいの広さに、かろうじて応接セットと呼べそうなソファーとテーブルが置かれ、ベッドとサイドテーブル、それに小さな本棚とタンス、机が置かれかなり狭い印象だ。



「どうだ?」


「ええ、だいぶ楽になりました。ありがとうございます」


「で、薬草というかヨモギを取りにあの場所に居たって事は病人がいるのか?」


「エリナという娘が寒気を訴えて寝込んでしまったのです」


「煎じ方は?」


「干した方が良いのですが時間が無いので、若い葉を十枚位細かく刻んで、二百ミリリットルの水で十分ほど煮込んだ後に、漉せば出来上がります」


「お、単位なんかも変わらないのな。上手いこと言語と込みで変換されてるのかもしれないけど。


おいそこのガキんちょ、台所まで案内してくれ」


「わかったおっちゃん」


「お兄さんだっての」



 ガキんちょに案内されて早速薬草を煎じる。飲用水になる井戸も手押しポンプ付きであると言ってたし、トイレも風呂もちゃんとあるらしいし、消し壺の中に火種はあったし想像した以上には暮らしやすそうだな。

 石造りの家か、外観は酷かったけど中はそれほどでもないし綺麗にしてるっぽいし。

 小さな鍋に水と刻んだヨモギを入れ、左手首につけているチ〇カシで十分を計測して薬を煎じる。やっぱ最高だなチプ〇シは。安いし。

 その間男女十人くらいのガキんちょ共が台所に入り込み俺に付きまとう。年齢的には俺を案内してくれた茶髪のガキんちょが一番の年長であとは五歳前後ってところか。



「ねーおっちゃん、なにしてるの」



 五歳くらいの赤髪の男の子が俺のワイシャツを引っ張りながら聞いてくる。脱げちゃうからやめて。



「薬を作ってるんだよ。火を使ってて危ないから離れてろよ。あとお兄さんな」



 薬って言ってもハーブティーみたいなもんだけどな。でも漢方薬って料理に使える素材多いんだよな。



「それおいしーの?」



 四歳くらいの灰色の髪でボブカットにした女の子が俺の足にしがみつきながら話しかけてくる。



「どうかな? 香りは良いだろうけど、味はちょっと苦いかもな」


「じゃーいらなーい」



 苦いと言われて興味を失ったのかどこかへ行くガキんちょ。やっとうっとおしいのが居なくなったとほっとすると同時にちょっと寂しい思いもしつつ、何だかんだとガキんちょ共の相手をしてる間に十分経った。

 アラーム機能があれば便利だったんだが、アナログタイプの方が筆記試験や面接でも問題無く持ち込めて便利だったんだよな。特売で七百円だったし。百円ショップの時計を買うかと死ぬほど悩んだが、勇気を出してチプカ〇を買って良かった。百円ショップで電池と交換工具買えば長く使えるという事に思い付いた俺万歳。そういや鞄に入れっぱなしだったな、二個入りの電池と交換用工具。異世界でも後十年は時間を確認するのに困らないんじゃないか? 九百円でこれだぞ。凄い。


 などとアホな事を考えながら薬を漉していたら薬というかハーブティーが出来上がった。

挿絵(By みてみん)

トーマ君の持ち物

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