捨て子 <クレアの挿絵あり>
孤児院の一部崩れている外壁を見て、やっと直せるんだなと感慨深く見ていると、入り口付近に何か物が置かれているのに気づいた。
「おいエリナ。孤児院の入り口になんか落ちてるぞ?」
「あれ? なんだろ?」
「っておい、あれひょっとしたら捨て子とかじゃないのか⁉」
「‼」
抱き着いていたエリナが素早く俺から離れ、孤児院の前に置かれた物に向かってダッシュする。
俺も一歩遅れて追いかける。
「お兄ちゃん!」
「ああ、捨て子だな。エリナは早く婆さんに伝えて来い。この辺は残雪が無かったとはいえ冬だ。部屋をすぐに暖めて何か温かいものを飲ませないと。この子は俺がリビングに連れていく。院長室に婆さんが居たらリビングに呼んできてくれ」
「わかった!」
エリナが素早く行動して孤児院の中に入っていく。
婆さんの魔法をエリナの魔法で無理やり解除したようだ。
俺は薄い毛布にくるまれて籠に入れられた赤ん坊を籠ごと抱き上げると、すでにエリナが開けた扉をくぐりリビングにダッシュする。
赤ん坊はキャッキャと笑ってるし元気はあるようだが、低体温症にでもなったら大変だ。
「一号! 暖炉の火を強くしろ! あとクレア! 毛布を持ってこい一番良い奴な!」
「わ、わかった! 兄ちゃん!」
「はい! 兄さま!」
「お兄ちゃん院長先生を連れてきた!」
「婆さん、外にこの子が置かれていた。何か飲ませたいが、何を飲ませて良いかわからん」
「少しこの子を見てみますね」
婆さんは抱っこして赤ん坊の口の中などを確認する。
「首は座っていますし、乳歯が生え始めているので生後六ヶ月から七ヶ月でしょうか、これなら離乳食が食べられますね。あとは貰い乳で対応しましょう」
「わかった、婆さんは何かこの子に与えるものを作ってくれるか? エリナはこの子に治癒したら、婆さんに貰い乳できそうな人を聞いて、お願いして連れてきてくれ」
「わかりましたトーマさん。急いで作ってきます」
「お兄ちゃんわかった! 治癒!」
「あとエリナ、俺のマントと胸甲のベルト外してくれ」
「うん!」
「兄さま! 毛布を持ってきました!」
「よし、広げて四回位畳んでくれ」
「はい!」
クレアが毛布を畳んで床に置いてくれる。
俺は胸甲を外し、赤ん坊に巻かれていた古く薄い毛布を解いて、クレアの用意した厚手の毛布に赤ん坊を包み、一号が薪をくべて火力を強くした暖炉に近づくと、少し暖かめの丁度良い温度の場所を探して、暖炉の熱が直接当たらないように背中を向けて座り、赤ん坊を毛布ごと抱きしめる。
ドライヤー魔法で体を温めてて良かったな。
赤ん坊にもドライヤー魔法を使うかと思ったけど、あまり急激に温めるのって良くないんだよな。
風にあたるのも体力を使うし。
クレアは俺とエリナが野外活動を本格化したあたりからやたらと懐き始めたガキんちょだ。
エリナの次に女子の中では年長の九歳なので、エリナが居ない時の女子チームのまとめ役として、委員長と呼んでいたら、「クレアです兄さま!」と怒られて以来、出来るだけ名前で呼んでいる。
一号は、一号とかキャプテンでもちゃんと返事するのに。解せぬ。
あとのガキんちょは懐いては来てるけど自己主張が少ないんだよな。
内向的というか恥ずかしがりやで。
多分嫌われてるようではないから慣れるまではゆっくり付き合って行こう。
養護施設時代もそういう子多かったしな。
無理にコミュニケーション取ろうとしない方が良いケースもあるし。
「あれ、そういやこのガキんちょ黒髪で黒い瞳だな」
「本当です、兄さまと同じですね。いつの間に姉さまと赤ちゃんを作ったんですか?」
「ちゃうわ」
「えっ、まさか姉さま以外の人と……」
「ヘタレにそんな度胸は無いし、第一エリナに殺されるわ。風魔法で切り刻まれる未来が見える。火魔法で一気に楽には殺してくれないだろうし」
「そうですよね、兄さまはヘタレですもんね」
「疑惑が簡単に晴れたのは嬉しいけど、何か納得がいかない」
「でも兄さまみたいな<転移者>じゃなくても黒髪の人はそこそこいますからね」
「……黒髪の人って差別されたりしてないよね?」
「えっ? 大丈夫だと思いますけど」
「防具屋で虐められてるのは黒髪だからじゃないよね?」
「ああ、兄さまの発作がまた。姉さまもいないし」
「よく考えたら本屋でグロ絵本を見せられたのは虐めだったのだろうか?」
「姉さまー! 早く帰って来てー!」
「クレアどうしたんだ?」
「アラン! また兄さまの発作が!」
「またか兄ちゃん。エリナ姉ちゃんはいないし、カルルを連れてくる」
「アラン、よろしくね。テキパキ指示を出していた兄さまはかっこよかったのに……」
「にーちゃーん!」
「おお! カルル! 俺の癒し! どうしたーカルルー」
「そのこだれー?」
「おお、新入りだぞ。カルルの弟? いや妹か? いやその前に孤児院に捨てて行ったんじゃない可能性もあるのか? 思い直して迎えに来るかもしれないからな」
「どっちなのー?」
「うーん、難しいな。クレア、女の子だったら悪いからちょっと確認してもらえるか? 体温も戻って来たようだし、というかさっきからめっちゃ元気に笑ってるからもう安心して良いと思う。暖かいリビングからは出さないけど」
「兄さまが元に戻って良かったです!」
「何かメモとか手紙とか入ってないか見てくれ。あと怪我や何かあればヒールしちゃうから、傷とかが無いかも調べてくれるか?」
「はい兄さま」
クレアが毛布を解いて、赤ん坊の服を改めると何か見つけたようで、俺を困惑した様子で見てくる。
「兄さま、封筒が……。この子はやはり捨て子なのでしょうか?」
「うーん、まぁ婆さんに見せよう。経験豊富だしな」
「はい……」
クレアは封筒を俺に渡し、赤ん坊を脱がせて体を調べ始めると、丁度婆さんが戻ってきた。
「トーマさん、とりあえず牛乳を少し入れた野菜のペーストを作ってきました」
「婆さん丁度良かった、このガキんちょの服に封筒が入っていた」
「まぁ。ではやはり」
「後で良いから中を調べてみてくれ」
「はい」
婆さんに封筒を渡す。
「兄さま、体に傷はありませんでした。あと女の子です」
「そうか、クレアはカルルの食事の面倒を見てたんだっけ? 婆さんと一緒に離乳食を食べさせてやってみてくれ。嫌がったら無理に食わせないでいいからな」
「はい兄さま」
「カルルー、妹だぞー」
「いもうと! かるるのいもうと?」
「そうだぞー、カルルはお兄ちゃんになるんだぞー」
「うん! かるるがんばる!」
「あい! じゃなくなっちゃって兄ちゃんちょっと寂しいよカルル」
「あい!」
「カルルは優しいなー」
「にいちゃんすき!」
「俺も好きだぞカルルー」
カルルと兄弟スキンシップを取っていると、エリナがリビングに飛び込んできた。




