家族のカタチ
「なぁエリナ、この前の話だけどどうするか」
「西の平原で魔物狩りするって話?」
「そう。南の森は雪に埋まって薬草採取がもうほとんど出来ない状態だしな。ホーンラビットでも稼げるけど、魔物狩りだけで稼ぐなら、もうちょっと強くても大丈夫じゃないかなぁとも思うんだよ。西の平原なら南の森と同じ位の距離だし、午前中だけ狩りをして午後には町に戻れるしな」
「そうだねぇ。お金が足りないって訳でもないし、無理する必要は無いとも思うんだけど」
どうしようかーとか話してると街道に出る。
もちろん馬車が通る時には「えへへー」と言いながら抱き着いてくるのは変わらない。
特に今は雪が解けて泥状態になってるから、馬車が通る時には水溜まりに注意しながらエリナをマントで汚れないように守る。
一度防御魔法使えば良いんじゃね? と提案したら魔力が勿体ないよ! と否定された。
マントを洗う方が手間だし単に抱き着きたいだけだろ。
まぁ俺も嬉しいから良いけど。
「お兄ちゃんいつもありがとうね」
「エリナが汚れてて俺が綺麗なままだと、町の連中に滅茶苦茶怒られるからな。なんでみんなエリナの応援をしてるんだよ」
「いつも皆に『エリナちゃんはヘタレに惚れちゃって大変ねー』って言われるんだよ」
「いくらヘタレでも追い詰めると何をするか分からないんだぞって教えたろ?」
「私はお兄ちゃんの事、ちゃんとわかってるから追い詰めるなんて事しないし、ずっと待っていられるんだけれどね。一年間安定して稼げるかってお兄ちゃんはいつも気にしてるから、まずはそこの不安が解消しないとヘタレなお兄ちゃんは前に進めないでしょ?」
「流石、俺の最愛の妹。俺を理解し過ぎてるな」
「そうだよ。だから最愛のお兄ちゃんの気持ちもちゃんと理解してるつもりなんだけどなー」
「追い詰めてるじゃねーか」
「そんなことないよー!」
キャッキャといつものように兄妹トークをしながら町に入る。
いつもの門番とのやり取りはスルーだスルー。
「この時間ならあの子達と一緒にごはん食べられるね」
「なんか毎回弁当持って行くのがアホくさいよな」
「結局孤児院で食べる事が多いからね」
「とは言え食料無しで森に入るのは嫌なんだよな」
「一回お弁当があって助かった事があったしね」
「ホーンラビットも見つからなかったから、弁当以外に本当に食うものが無かったからな。あと草」
「お兄ちゃんが急に豚の鳴き声がする! とか言って発作を起こして森の中を走り回って遭難しちゃったからね」
「ごめんなエリナ、お兄ちゃんちょっと豚の鳴き声がトラウマになっちゃってたんだよ」
「やっと孤児院に戻ったら、あの子たち凄く泣いてたしね」
「二日も帰らなきゃそりゃそうだろうな」
「ま、だから平原でも良いかなって思うんだよ。ダッシュエミューいるだろ? あれ一匹狩ればホーンラビット十匹分くらい稼げるし。あとブーブー鳴く動物もいないし」
「凄く速く走るから、魔法使えない人にとっては弓矢か銃を使わないと狩れないから競争相手は少ないんだよね」
「そうそう。毎日一匹狩れればそれだけで贅沢な飯食いながら暮らしていけるからな」
「一回狩りに行ってみるのも有りかもねお兄ちゃん!」
「そうだな」
狩場トークをしているうちに、冒険者ギルドにたどり着く。
早速受付に獲物を渡し換金した。
今回の二人の稼ぎは銀貨十五枚。
普段は二、三匹なので結構いい方だ。
狩れない日もあるしな。
エリナの仕留めたホーンラビットは首の頸動脈を綺麗に斬って高額査定だけど、俺の仕留めたホーンラビットは傷口は無いけどちょっと焦げる分毛皮の価格が下がって肉代がほぼゼロなんだよな。
それでも一般冒険者よりも高額査定なんだけど。
よく出来た妹でお兄ちゃん嬉しいよ。
いつものルーティンとして、何か割りの良い依頼は無いかなーとチェックしてみる。
民間の依頼なんかだと珠に魔法が使えるならかなり時間単価の良い依頼があったりするのだ。
この前はゴミを埋める為の穴掘り銅貨400枚とかあったな。
土魔法で一瞬にして稼げたし、近所だったから時間もかからずかなり美味しかった。
だが今日は特に美味しい依頼は無さそうだ。
「お兄ちゃん孤児院に帰ろう!」
「おう、じゃあこれ孤児院とエリナの分な」
と言って銀貨十二枚を渡す。
「じゃあ私も今日は孤児院に銀貨二枚出すから、院長先生には銀貨九枚渡しておくね」
「頼む。俺からだと遠慮するんだよな婆さん」
「まぁ最近は当日の収益の全額をちょっとぼかして伝えてるからね。院長先生はちゃんと三等分で端数が孤児院に来てると思ってるよ」
「騙してる感じがして嫌だけど、そうしないと受け取らないからな婆さんは」
えへへーと俺の腕に絡みついてたエリナが抱き着いてくる。
「相変わらずお礼を言われるのが苦手なんだね、お兄ちゃんは」
「俺だって婆さんやガキんちょ共には世話になってるんだ。お互い様なんだから必要以上に畏まる必要なんか無いんだよ。それにもう俺達は家族だろ? 遠慮なんか必要ないんだよ。ガキんちょ共を見ろよ。飯ガツガツ食いまくっておかわり頂戴の大合唱だぞ。あれを食いたいこれを食いたいって我儘言い放題だ。ああいう感じで良いんだよ家族なんか」
「ふふふっ結局照れてるんだよね。そういえばそろそろ孤児院の改修資金が貯まるって院長先生が言ってたよ」
「壁とか崩れたままで危ないからな。つーか俺がこの世界に<転移>してきた時に貰った金を使ってくれたら、さっさとリフォーム出来たんけどな」
「それはお兄ちゃんがいざという時に使いなよ」
「なんか気分悪いんだよな。自分で稼いだ金じゃないし」
「お兄ちゃんはそういう所気にし過ぎじゃないかな?」
「そうか? まぁでも孤児院で急に金が必要になるかもしれないし。あー何かこれを元手に何か商売を考えるってのも良いかもな、失敗しても痛くないし」
「孤児院で何か売るの?」
「薬草の加工を孤児院でやってただろ? あれをもっと大規模にするとか、何なら食堂や託児所みたいなのも良いかもな」
「その辺はお兄ちゃんに任せるよ。私たちじゃ良くわからないし」
「まぁ考えとくわ。俺達が稼げてる間は良いけど、出来れば孤児院単独である程度の収入を得られるようにしたい。もちろんガキんちょ共の勉強時間なんかは確保しないと駄目だけど」
「お兄ちゃん、いつもあの子たちの事を考えてくれてありがとうね」
「家族だって言ったろ。普通だ普通」
あのアマから貰った金の有効活用法を話してると、「んふふー」とエリナが上半身に抱き着いて来て歩きにくい。
まあ嫌じゃないから良いんだけど。
てくてくと歩いていると、そろそろリフォームされるという孤児院の崩れた壁が見えてきた。




