酢飯ってむせるよね?(制服回ⅩⅩⅢ) <エマおしゃれ着の挿絵あり>
「今日のクレア様ご謹製弁当はいつにもまして素晴らしい!」
「いなり寿司というのは初めて食べたが、おにぎりとはまた違う感じの食べ応えがあって良いな」
「うおおおん! 婆さんの作る茶色飯とは違ってこのいなり寿司の艶やかな色合いが素晴らしいですじゃ!」
とりあえず収穫祭に関しての話は終わり、昼食の時間になった。
いつもの三人組がクレアの弁当を食べながら騒ぎ出すのだが、三人目の奥さんは茶色飯ばかりなのか……。養護施設時代の先生の作ってくれた弁当も茶色一色だったなあ。
「二段目のこれは? 海苔が巻かれているのはわかるのだが、細長いお握りか?」
「うむ、私も初めて見るな。形は変わっているが、おにぎりのような味だ。米に酢を使っているのか程よい酸味があって食べやすいぞ」
いつもの三人組のうちのふたりが、クレア特製三段重ねお重弁当の二段目について語っているので説明してやる。
酢飯とか苦手な連中がいるかもしれないしな。今回のいなり寿司の中身は酢を抑えた五目飯風を詰めてあるので、酢飯が苦手でも食べられるようになっているのだ。
「ああ、それは海苔巻きだな。細いのがかんぴょう巻き、玉子焼き巻き、そしてカッパ……じゃなくてキュウリ巻きだ。酢飯を使った寿司という料理のひとつで、太いのが、から揚げを刻んでマヨネーズで和えてレタスと一緒に巻いた太巻きだ」
「閣下、大変美味しゅうございます」
「流石クレア様ですな。この酢の加減とかかなり難しいのでは」
「うおおおん! こんなに美味しいものを食べてしまったら家で婆さんの作る飯が食えなくなってしまいますじゃ!」
「うるさいぞ三人目。黙って食え」
クレア特選三段お重弁当は、一番上がいなり寿司、二段目が細巻きと太巻き、三段目がサラダとデザートという助六セットだ。
これは明日の収穫祭でも販売する予定なのだが、一応この三段重ねお重弁当ひとつで四人家族分を想定してるんだが、流石に魔法適性持ちが多いのか、あっさりと平らげていく。
魔法適性の無いアイリーンも普通に完食しそうな勢いだ。あいつはジ〇リアンだし元々健啖家なのだろうか。
「旦那様、寿司も問題なく受け入れられそうですわね」
先日、晩飯のメニューで初めて手巻き寿司にしたところ、酢飯にハマったクリスが嬉しそうに言って来る。
だが、新鮮な魚介類がない寿司ってのもちょっと寂しい。
缶詰が亜人国家で大量量産されるようになれば煮穴子とかなら入手できるのかね? 穴子が獲れるのかも知らないけど。
「酢飯って意外とこっちでも受け入れられるんだな」
「お兄様! わたくしもお寿司大好きです! ゲホッゲホッ」
細巻きを頬張りながらシルも何故か寿司好きをアピールしてくるが、酢飯にむせているようだ。
「酢でむせてるじゃねーか」
「何故か出てしまうんですが、でも美味しいですよ!」
「俺もすぐむせちゃう方だからわかるけど、あまり一気に寿司を頬張るなよ。むせたら悲惨なことになるからな」
「は、はい」
むせるのだけは制御できなきないからな。
寿司というか酢飯は大好きなんだけど、ちょっと強めに酢が効いてるとすぐむせちゃうんだよな。なんとかならないのかねこの現象。
大人になれば慣れるかと思ったけどそうでもないし。
会議室内を見渡してみると、酢飯は結構好評のようだ。むせてる奴もいないし。
俺とシルがたまにむせている程度だ。
日本人の俺の方が酢に弱いのか。まあこっちではワインビネガーを大量に使った料理とかもあるし、酢飯にはそれほど抵抗が無いのかもしれない。
「ブフッ!」
三段目のサラダを食べていたシルが急にむせる。
なんとか口の中身をまき散らすのは回避したようだが……。
「アホだなシル。一気に口に入れるからそんなことに……ブフッ!」
サラダを口に入れた途端、俺もシルと同じようにむせてしまう。
サラダのドレッシングが酢の効いた和風ドレッシングだったせいなんだけど、油断してしまった……。
「大丈夫ですか旦那様」
隣に座るクリスがハンカチで俺の鼻を拭ってくれる。口から噴き出すことは回避したが、鼻水が出てしまっていたらしい。恥ずい。
「お兄様……」
俺に抗議の目を向けるシル。お前は鼻水も回避してたのか、凄いな俺より酢に強いじゃん。
「今後うちで出す料理は酢の量を控えめにするか。悲惨なことになる可能性があるし」
「そうですね……」
少し申し訳なさそうなシルと話し合って我が家の酢ルールが決まったので、弁当の残りをむせないように注意して平らげる。
三段重ねのお重弁当を食べきれるあたり、俺もなんだかんだこの世界に馴染んでしまったようだ。
「じゃあそろそろ始めるかー」
「「「はっ」」」
女官が各人の弁当箱や湯のみなどを片付け、午後の会議が始まる。
帝国への対策会議なんだが、気が重いな。
戦争になるようなことだけは絶対回避したいんだけど、好戦的な連中が多いから凄く不安だ。




