ツインテール <エリナⅠの挿絵あり>
「でもどうして同じリボンを二本買ったの? 一本はお兄ちゃんが使うの? だったらお揃いだね!」
先程から超絶ご機嫌なエリナが聞いてくる。
お揃いは嫌だ。
「エリナがポニーテールを気に入らなかったらツインテールにしようと思ってたんだよ。どっちにしろ採取の時は気に入らなくてもポニーテールを強制してたけどな」
「ついんてーる?」
「エリナみたいに細い子ならポニーテールよりもツインテールの方がボリュームが出て似合うんだよ。俺の好みだから一般的にはどうかわからんがな」
「ついんてーるの方がお兄ちゃんの好みなの?」
「俺の好みというか、エリナにはツインテールの方が似合うんじゃないかってだけだけどな」
「じゃあついんてーるにして!」
「でも採取の時はポニーテールだぞ。下手したら剣や魔法が髪に当たるかも知れないし、採取でかがんで下を見るとお前の長さじゃ垂れ下がって邪魔になるし」
「ぽにーてーるも可愛いから好きだけど、ついんてーるも見てみたい!」
「わかったわかった」
ポニーテールを解き、ツインテールにする。
櫛があれば綺麗なラインが出るんだけど、まぁ手櫛でやろう。
ポニーテールの時と同じように、リボンは大きな蝶々結びにする。
「出来たけど鏡がないな」
「どこかのお店に置いてあると思うよ!」
そういってまた腕にしがみつくエリナ。
今度はツインテールの片方が体に当たってくすぐったい。
「ここだよお兄ちゃん!」
「ここに念願のホースが。早速入るぞ」
「うん!」
ぱっと見普通の建物で、ガラス戸などではなく安定の鎧戸だ。
高級店じゃないと判断して安心して店に入る。
「ホースを探しているのだが」
店員のおっさんに話しかける。
着ている服は庶民の物だから安心して話しかけられた。
「ほーす?」
「皮を使った水を通す管だ。口径十五センチで三メートルほど欲しいんだが。あとは口を固定する針金みたいな物もあれば頼む」
「はいはい、革製の水管ですね。揚水ポンプに取り付けるのですか? 耐水の加工と補強をしたもので、一メートルあたり銀貨一枚になりますがよろしいですか?」
「結構するな。でも背に腹は代えられないから頼む。あとホーンラビットが三体くらい入る革袋一個と、硬貨なんかを入れる丈夫で長い紐が付いた革袋を二個、あと頑丈な二十七センチの靴を二足、片方はブーツタイプの奴も一緒に欲しいんだが」
「わかりました。今持ってきますね」
「良かったね! お兄ちゃん!」
「ほんとだよ。毎日百回も魔法使うの考えたらかなり助かったよ」
「私なら二十回だけどね」
「優秀な妹がいて嬉しいよ」
「ヘタレなお兄ちゃんでも嬉しいよ?」
「うーん、ヘタレは治したいんだけどな。治癒でも治らないし」
「いつか私の魔法でヘタレを治してあげるよ!」
「ヘタレじゃなくなったら俺って消えそうな気がする」
「えっ! じゃあ治さない!」
「まぁ自分でなんとかするよ。まずは登録証の職業の表示からだな」
「お待たせいたしました」
ヘタレ談義をしていたら店員が三メートルでカットしたらしいホースと大小の革袋、短靴とブーツを持って戻ってきた。
「水管が銀貨三枚、大きい革袋が銅貨八百枚、小さい革袋が二個で銅貨二百枚、短靴が銅貨五百枚、ブーツが銅貨八百枚で合計銀貨五枚と銅貨三百枚になります。あとこちら、ポンプと水管を固定する金属製の固定具はサービスさせて頂きますね」
「ありがとう、助かるよ。マジで」
あの水溜め作業から解放される喜びに震えながら、カウンターに銀貨五枚と銅貨の束三本を置き、ホースと大きい革袋、試し履きで問題が無かった靴二足を籠に入れ、小さな革袋の一つをエリナに渡す。
「エリナ、これには硬貨とか大事なものを入れておけ」
「あ、お兄ちゃん、自分の分は出すよ」
「いいよついでだし。遠慮は無しだぞエリナ」
「わかった! ありがとうお兄ちゃん! あとおじさん、鏡はありますか? 少し借りたいんですけど」
「ありますよ。ちょっと持ってきますね」
待っている間にエリナは硬貨を革袋に入れ、ベルトに縛り付けている。
鎧の下に着る厚手の服のままだからベルトはしたままだけど、普段はどうするかな。
長い紐が付いてるし首から下げるのかな?
とりあえず俺もエリナと同じように硬貨をしまい、ベルトに縛り付ける。
「どうぞ、手鏡ですが」
「ありがとうございます!」
店員から手鏡を受け取ると、待ちきれないとばかりにのぞき込むエリナ。
「うわあ! うわあ! ついんてーるすごく可愛い! お兄ちゃんありがとう!!」
またがしっとエリナに抱き着かれる。
エリナから手鏡を取り戻し、店員に返す。
「はいはい、エリナ次はスコップとロープを売ってる店に案内してくれ」
「うん!」
エリナに案内され、無事スコップ二個とロープ十メートルを手に入れる。
古いけど孤児院にもあるとの事だったが、安い物だしまあいいだろう。
その間ずっとご機嫌なエリナだった。
「エリナ、ポニーテールとツインテールどっちが気に入ったんだ?」
「んーと、ぽにーてーるも可愛いけど、ついんてーるの方が好きかな!」
「じゃあ胸甲を着ける時はポニーテールで、それ以外はツインテールにするか。風呂上がりは縛ったら駄目だぞ。多分変な癖がついちゃうと思うから」
「わかった!」
「じゃあ次は絵本な! グロくない奴!」
「お兄ちゃんのヘタレ!」
「カルルに読んであげたいんだよ。人や動物が死なない平和な絵本を」
「シンデレラだって誰も死なないじゃん」
「つま先やかかとを切り落としたり、鳩に両目をくりぬかれる話のどこが平和なんだよ!」
「でもちょっとはざまぁって思うでしょ?」
「いやそこまでは」
「お兄ちゃんのヘタレー」
「まぁ動物を解体できるエリナには何も言えない。今後はお世話になるだろうし」
「お兄ちゃんはヘタレだなー。でも大丈夫! 私がヘタレなお兄ちゃんを助けてあげるから!」
キャッキャと兄妹で話が盛り上がりつつ中古本屋に向かって歩いていく。
鏡でツインテールを見てからエリナはずっとご機嫌だ。「えへへ!」、「てへへ!」と何度もツインテを触っては俺に笑顔を向ける。
孤児院はおしゃれに気を使えるような状況じゃなかったからな。
趣味って訳じゃないけど、何か楽しんでくれるような事も探してやらないとな。
絵本も娯楽に勉強にと大事なものだから良い絵本あると良いな。
グロくない奴。




