薬剤師ギルド <エリナさんの解説コーナー ヨモギ編>
孤児院の扉を出るとエリナが手をつないで、早く早くと急かしてくる。
「お兄ちゃん! いっぱい取れると良いね!」
「ああ、そうだな。でもその前に冒険者ギルドへ寄って薬草採取の件を確認してからだな」
「わかった!」
孤児院から歩いて五分もかからずに冒険者ギルドに到着する。
冒険者ギルドの左隣が暗殺ギルドで右隣が盗賊ギルドなのな。
クズゾーンと名付けよう。
扉を開けると、例の事務員以外は誰も居なかった。
良かった、酔っ払いなんていなかったんだよ。
「おはようございます!」
「おはようございますエリナさん、トーマさん。本日はどのようなご用件でしょう?」
「ヨモギなんだがな、こちらで加工した場合の買い取りって可能なのか?」
「申し訳ありません。加工品の買取はしていないのです。採取依頼に出てる薬草は国内での需要が多いので、冒険者ギルドでも補助金を受けて薬剤師ギルドよりも高値で買取できますが、加工品や依頼以外の薬草は薬剤師ギルドで買い取って頂けると思います。門の近くにありますので、採取から戻られたときに薬剤師ギルドで買取したあと、こちらの買取価格が高いものだけを持ってきて頂くのが効率が良いと思われます」
「そうか、わかった。ありがとう」
「気を付けて行ってらっしゃいませ」
「エリナ、ここで採取依頼が出てる薬草覚えられるか? できれば金額も」
「そういうの得意だから大丈夫!」
「ならメモ帳使わなくて良いか。頼むぞエリナ」
「任せて!」
エリナは掲示板に駆け寄ると、ふんふんと薬草の種類と金額を真剣な表情で見ている。
少しの時間で「お兄ちゃん覚えたよ!」というので、冒険者ギルドを出る。
「じゃあ次は薬剤師ギルドだな。ペニシリンの製造方法が売れるかも知りたいし」
「門の近くなんだよね?」
「ああ、事務員から聞いた。門からすぐ見える場所にあるってさ」
「じゃあ行こう! お兄ちゃん!」
エリナがまた俺の手を握って歩き出す。
もう手をつないで歩くのが当たり前になってきたな。
「薬草の種類覚えるの随分早かったな」
「五種類しか無かったからね。全部知ってたからあとはどれだけ持って行けばいくらになるか覚えるだけだったよ」
「エリナは頼りになるな」
「私がお兄ちゃんを食べさせてあげるからね!」
「ヒモはなー。まぁ今はあのアマから貰った金で生活してるからまさにヒモなんだが」
「ひも? ひもって何? お兄ちゃん」
「ヒモと紐がきっちり区別されてる変換機能すげえな。この世界にはヒモという存在が無いのか、エリナが綺麗な心のままなのか」
「綺麗? お兄ちゃん私綺麗?」
「綺麗だぞ。ずっと綺麗なままのエリナでいてくれ」
「お兄ちゃん……」
エリナはつないだ手を離すと俺の腕にしがみついてくる。
胸甲が当たって痛い。
あれ?
俺天然ジゴロ?
ヘタレなのに?
そんな事を考えてる間に門までたどり着く。
周囲を見渡すとすぐにお目当ての薬剤師ギルドが見つかった。
大きさは訓練場が併設されている冒険者ギルドより一回り小さい感じだけど清潔感溢れて綺麗な建物だな。
中に入ると、いらっしゃいませと受付の女性から声を掛けられる。
飲食スペースが無いせいか扉から受付カウンターの距離が近い。
「すまん、ペニシリンの製造方法って売れるか? 一応異世界の知識なんだが」
そう言ってペニシリンの製造方法をいくつか書き写した紙を事務員に見せる。
事務員はその紙を一瞥すると
「こちらに書かれているペニシリンの製造方法は全てこちらに伝わっておりますね。製造自体はいくつか実用されている程度ですので、安価に純度の高いものを大量生産できる薬剤や機材があれば別なのですが。どうしても治癒魔法で代替できますので、現状の製造コストだとなかなか一般流通は難しいですからね」
「そうか、なら薬草について聞きたいのだが」
「はい、買取の件でしょうか」
「それと、加工品の買取についてもだな」
コトリと干したヨモギを入れた箱を事務員の女性の前に置く。
事務員は「失礼します」とふたを開けると、葉を数枚取り出し確認し始めた。
「どうだ? 買取できそうか?」
「かなり品質が良いですね。これでしたらグラム当たり銅貨十枚で買い取りさせて頂きます。六十二グラムありますので。銅貨六百二十枚ですね」
「かなりの高額だな」
「薬として買い取るなら五分の一程度なのですが、これは葉の大きさも厚さもほぼ均一で揃っていますし、貴族向けのハーブティー用の茶葉として買取可能ですので」
「そうか、すまんがこれは知り合いの物なので勝手に売れないんだ。これから採取に行くから、今後はヨモギをここへ持ってくるよ」
「かしこまりました。これから採取に向かわれるのでしたらこちらのパンフレットをお持ちください。買取可能な薬草の一覧になります。季節ごと、採取可能な場所など纏めてありますので是非参考になさってください。中には一般には毒草として認知されている物もありますのでご注意ください」
「助かるよ。ちなみにギルド登録すると買取価格が上がるって事はあるのか?」
「いえ、買取価格は一般でもギルド員でも変わりません。ギルド登録はハーブティーなど一般で流通しているもの以外の、取り扱いの難しい薬草の取り扱い資格と販売許可資格ですので。また先程のヨモギのように質が良ければ加工品の方が高く買い取れますが、一部の薬草は登録証が無いと加工できませんのでご注意ください。パンフレットにもそのあたりの注意事項が記載してありますので確認をお願いします」
「じゃあ今の所登録の必要は無いか。ちなみに登録証の名前欄のバイト数は?」
「十二バイトです」
「あっそ。じゃあまた来るわ」
「お待ちしております」
薬剤師ギルドの登録に全く興味を無くした俺は、おとなしく待っていたエリナと一緒に薬剤師ギルドを出る。
「ヨモギは加工して売るとかなり効率良いな」
「院長先生はシスターだったから魔法と薬関係が得意なのかもね」
「ガキんちょ共も手伝えれば内職より効率が良いしな。いっぱいヨモギ採取しよう。案内頼むぞエリナ」
「任せてお兄ちゃん!」
「あれ? 俺ってエリナがいないと何もできない?」
「そんなことないよお兄ちゃん! えっと、えっと、そうだ! ごはんが美味しいよ!」
「妹の優しさが心に沁みるな」
「ガンバレ! お兄ちゃん!」
妹に励まされながら門を抜け、南の森とよばれる採取地に向かう。
この世界での初めての仕事になるのか。
こいつらの為に頑張るか。
俺の手を引くエリナを見ながらそう思うのだった。




