お金を稼ごう <エリナ胸部装甲の挿絵あり>
<どっぱん>という音で目が覚めると、朝からうるさいのが飛び込んできた。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
「お前、朝からほんとうるさいのな」
「お前じゃなくてエリナ! そんなことよりお兄ちゃん見てこれ!」
「まだそのキャラ続けるの? めんどくさいからやめようぜ?」
「お兄ちゃんいいからこれみて! これ!」
尋常じゃないくらいのハイテンションで登録証を見せてくるエリナ。
「一体なんだってんだ……」
首にかけたまま見せてきたせいでエリナの顔が近いが気にしない。
んーどれどれと、まだ完全に睡眠から覚醒してないまま登録証をのぞき込む
名前:エリナ
年齢:15
血液型:A
職業:孤児
健康状態:良好
レベル:8
体力:100%
魔力:100%
冒険者ランク:F
「お、レベル上がってるじゃん。風呂の準備で上がったのかな? 治癒魔法覚えられたのか?」
「ちがうって! その上! 上!」
「んー……。おお! エリナお前健康になったんだな!」
「そうだよお兄ちゃん! 私健康になったんだよ!」
「そっか! 良かったな!」
「うん! お兄ちゃんのおかげだよ! ありがとう!」
感極まったのか、がばっと抱き着いて来るエリナ。
俺は優しく抱きとめると、エリナの髪を優しくなでる。
「良かったなエリナ、何かの病気かもって少し心配してたけど、食事改善で良くなったんだな。本当に良かった」
「うん! うん!」
「他のガキんちょ共も健康になってるのかな。だったら良いんだけど」
「って! お兄ちゃん! なんで下着一枚だけなの!?」
がばっと俺の胸から体を起こしたエリナが叫ぶ。
「へ? いや俺他に服を持ってないからな、寝汗かいたら大変だから脱いで寝た」
「早く何か着て!」
顔を真っ赤にして背を向けてきたので、仕方がなく部屋の片隅に放置しておいた防具の中から厚手の服を取り出して着る。
「服を着たぞエリナ」
「もう、お兄ちゃん、女の子の前でそんな恰好をしちゃ駄目じゃない!」
「いや、お前が勝手に入ってきたんだろ」
「ぶー」
「それよりエリナ、お前治癒魔法覚えられたのか?」
「覚えられたよ! 院長先生の腰痛も治った!」
「マジか! お前すげぇな! 健康状態が良好になったのも自分で治癒魔法使ったのか?」
「院長先生の腰痛が治った後に自分で使ってみたけど治らなかったの。でも朝起きて登録証を見たら良好に変わってたんだよ。あとお兄ちゃんごめんなさい。院長先生の部屋で魔法を使っちゃった」
「ちゃんと謝れるエリナは偉いけど、婆さんの許可があれば俺の許可は要らないぞ。でもやっぱ栄養失調は治癒じゃ治らないんだな」
こいつ昨日読んだ異世界転生本で出てきた<転生者>なんじゃねーの?
本の主人公は記憶持ったまま<転生>したけど、<転生の間>からの<転生>なら記憶を失うわけだし。
いやでも健康体と中流家庭以上の恵まれた家に産まれるんだっけ?
なら違うのか?
そういえば<転生の間>から<転生>してもチートは貰えないか。
魔法の才能はあるけど、飽くまでも貴族並みって話だったしな。
まぁ良いか。
エリナがたとえ<転生者>だったとしても何かが変わるわけじゃないしな。
「すごいでしょ! でもごめんね。院長先生に聞いたらお兄ちゃんのヘタレは治らないんだって」
「病気じゃねーよ! あと相談するな!」
「あ、でもハゲなら治る場合もあるんだって! 良かったねお兄ちゃん!」
「ハゲてねーよ! 良く見ろよおら!」
頭を突き出すと、お兄ちゃんは良い子だねーとなでられた。
なんか和んだ。
「まあいいや。治癒覚えたのならガキんちょどもにかけて回った方が良いな」
「そうだね! じゃあ朝ごはん食べたら早速魔法使って良い?」
「ちゃんと俺に許可を取るエリナは偉いけど、それは夜にするか。せっかくエリナが健康になったのなら午前中に薬草採取をしたい。というか金を稼ぐ方法を見つけないと貰った金が目減りするだけだし、さっさと自立したいし」
「わかった!」
「そういえば初日に採取したヨモギってどうなってる?」
「院長先生が残りの葉っぱを干してたよ?」
「じゃあその干した奴が売れるかも確認しよう。採取してそのまま売るより、加工した方が高く売れるなら内職より効率良く稼げるかも知れん。外に出る時に婆さんから一応あるだけ預かってきてもらえるか?」
「わかった! お兄ちゃん頭良いね!」
「良いぞ妹。もっと誉めて俺のモチベーションを上げるんだ」
「もちべーしょん? よくわからないけどわかった!」
「んで午後は買い物だな」
「ほーすとぶいよん!」
「そうそれ、偉いぞエリナ。あと俺の服。特にパンツの四日目着用はなんとしても回避したい」
「お兄ちゃん……」
心なしかエリナが俺から距離を取った気がした。
そっか、お前らって風呂は一週間に一度だったけど、服は毎日変えてたんだよな。
体を拭くくらいは毎日してただろうし。
「あとできればグロくない絵本を買いたい。カルルにまともな絵本を読んであげたいから」
「お兄ちゃんのヘタレ」
「俺のモチベーションを上げろっつてんだろ!」
「お兄ちゃんはハゲてないよ!」
「俺はハゲてないけどもういいよ……。まぁそういう事だからエリナの分の防具は自分の部屋に持ってってくれ」
「わかった!」
そう言って防具を分けようとすると、手紙が入っていた。
えーと、マントもサービスしておきました。だと?
くっそ、極上の店じゃねーか。
そうか、防具を包んでた布がマントだったんだな。
「エリナ、マントもサービスしてくれたみたいだぞ、あの防具屋」
「凄く良いお店だね」
「クズに対して辛辣じゃなきゃもっと良いんだけどな。ってことでエリナの分はエリナのマントで包んでおいたからさっさとこれを部屋に置いて台所に来い。飯作るぞ飯」
「うん! お兄ちゃん!」
防具セットを受け取ると、どたばたと自室に戻るエリナ。
相変わらず騒がしいな。
まぁでも健康になって良かったよ。
さて朝食の献立はどうするかなと考えながら台所に向かう。
昨日の残りのピザは一人一ピース分はあるから、とりあえず温めて一緒にパンと具材たっぷりスープを出しておけばいいか。
そろそろ料理のレパートリーが枯渇するな。
元々適当な料理しかしてこなかったし。
「おまたせお兄ちゃん!」
「よし、エリナにはスープ係を命じる。具材たっぷりでベーコンやらソーセージが大量に入った奴な。俺の作った出汁もどきも全部使って良いぞ。俺はピザの温めなおしと昼飯の方の準備をしちゃうから」
「はーい!」
昼用にはソーセージを大量に茹でてホットドッグとベーコンレタストマトサンドを大量に作るか。
俺とエリナの分を持って行けば昼食代も浮くしな。
耳は揚げて砂糖をまぶしてあいつらのおやつにしよう。
ふんふんふーんとご機嫌で鍋に色々ぶち込んでるエリナ。
煮込み料理って楽だよな、あいつらなんでも良く食うし。
一人あたりホットドッグ二個とBLTサンド四切れで足りるかな?
俺ならBLTサンド四切れだけでも足りるけどあいつらすげぇ食うからな。
フライパンに油を多めに入れてパンの耳を揚げる。
パチパチ跳ねる油にビビってるとエリナにヘタレと言われた。
お兄ちゃんのモチベーションが上がるどころか下がってるぞ妹よ。
揚がったパンの耳に砂糖をまぶしていると、エリナのスープが完成する。
「じゃあ持っていくぞ。エリナはピザとパンを頼む。俺はまた鍋ごと持って行くから」
「わかった!」
リビングまで鍋をえっちらおっちらと運ぶ。
途中一号が何か手伝うと言ってきたので食器を持ってこさせる。
エリナも一号もこのスタイルに大分慣れてきたな。
「よーし、お前ら食って良いぞー」
「「「いただきまーす」」」
「これ現地語でなんて言ってんのか気になる」
「おにーさん。きょうのごはんもおいしーよ」
「おう、実はお前が一番飯を食べてるんじゃないか疑惑が発生してるぞ。いいぞもっと食え」
「兄ちゃんピザって一人一切れなの?」
「一号、お前昨日あれだけ食ってまだ食いたいのかよ。ピザはもういいやって言う奴出てくるかと思ってたんだが」
「これ美味いからな!」
「そうか、またつくってやるからな。今日はとりあえず俺の分をやるから我慢しろ」
「ありがとな兄ちゃん!」
用意した朝食があっという間になくなる。
あれじゃ足りないのか?
明日からもっと増やすか?
食器はあとでみんなで洗っておくからという一号に甘えて、俺とエリナは出かける準備をする。
「よし、じゃあエリナは装備品の準備をして来い。胸甲とマントは俺が着けてやるから」
「はーい!」
「一号」
「なに兄ちゃん」
「エリナが外に出ちゃうから大変だと思うけど、留守の間こいつらの事頼んだぞ」
「任せとけって兄ちゃん!」
「婆さん、今日は薬草採取してくるからまたエリナを借りるな」
「はい、エリナの事をよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ。じゃあ俺も準備してくるかな」
背負い籠の中に俺とエリナの弁当を入れる。
部屋に戻りロングソードを左腰に佩き、胸甲とマントを持ってリビングに戻るとすでにエリナが準備を終えて待っていた。
「お兄ちゃん遅い!」
「お前が早いんだよ。さぁこっちこい、胸甲着けてやるから」
「はーい。あとこれヨモギを干した奴」
「ありがとな。背負い籠に入れておいてくれ」
「うん!」
ヨモギを背負い籠に入れたエリナから胸甲を受け取る。
裏を確認すると緩衝材はしっかり詰まっているようだ。
胸甲を着け、ベルトを締め、マントを着ける。
ちゃんとマントを取り付ける加工もしてあって至れり尽くせりだ。
「よし出来たぞ、じゃあ次は俺のを頼む」
胸甲を自分でつけ、エリナに背中を向けると、ベルトを締めてマントを着けてくれた。
一人でも胸甲は着けられるようになってるけどめんどくさいんだよな。
「はい、出来たよお兄ちゃん!」
「よし、じゃあ行ってくるか。お前らの昼飯とおやつは台所に置いてあるからな。絶対に今食べるなよ! 絶対だからな!」
「「「はーい」」」
「いい返事だぞ弟妹ども。じゃあ行ってくる!」
「行ってきまーす!」
「「「いってらっしゃーい!」」」
俺はガキんちょどもの元気いっぱいの声を受けて一歩踏み出すのだった。




