お土産
「お兄ちゃん、わざわざ高いシャンプーを買ってよかったの? あとブラシも」
「女の子連中はピンクの壺のシャンプーを使うんだぞ。男連中は安い茶色の壺に入った奴で十分だ。あとエリナが毎日女の子連中の髪を梳かしてやるんだぞ」
「うん!」
「あの店員わざわざ六本のヘアブラシの柄の色を変えてくれたから、それぞれ一本ずつ自分の物にして良いからな」
「ありがとうお兄ちゃん!」
「男どもにはどうすっかなー。エリナなんか良いアイデア無いか?」
「んー、遊び道具が少ないから玩具とか?」
「それだ、よし玩具屋へ連れてってくれ」
「玩具屋かー、どこだっけ」
二人で地図を見ながらうろうろしてそれっぽい店を見つけた。
ボールやら小さな木彫りの馬に車輪がついたものなど色々買った。
「ケンカにならないか?」
「良い子達だから大丈夫だよ。結局みんなで遊ぶようになるんじゃないかな? 女の子にも遊ばせてあげると思うよ」
「ほー、そりゃ良い子達だ」
「ほとんど手がかからないし、アランも男の子の年長で頑張ってるしね」
「そっか、ガキんちょ一号は確かに素直だったな」
「一号じゃないよ、アランだよ」
「じゃあ良い子にお留守番してるアラン達が喜ぶような飯を作ってやるか」
「うん!」
昼に食べた屋台の本業の肉屋でソーセージとベーコンを多めに買う。
丁度屋台を閉めたのか、昼に会った親父が対応してくれて、またおまけしてもらった。
他にも野菜やら小麦粉やら油などを買い足す。
あとトマトソースがあったのはありがたい、値段も安かったし。
肉屋の親父に聞いたパン屋でふくらし粉ってものもあったけどちょっと高いな。
でもパンと一緒に購入する。
買い物を終えてチ〇カシを見るとすでに防具屋を出てから三十分をとっくに過ぎていた。
またあそこに戻るのか……。
でも良い店ではあるんだよな。
「時間過ぎたから防具屋に行くか。ちょっと嫌だけど」
「じゃあこっちだね! ヘタレなお兄ちゃん!」
ご機嫌なエリナが腕を組んできて先導する。
「ク、トーマ様、防具の調整終わっておりますよ」
「ねえ、またクズって言おうとしたよね……」
「こちらになります。お手入れの道具などもサービスでお付けしましたのでお持ちください」
「サービス満点の超優良店じゃねぇか。悔しいけどまた来ちゃう」
「またお待ちしております」
凄くにこやかな笑顔でそういわれた俺は、またとぼとぼと防具屋を出る。
背負い籠にはもう入らないので、防具等が包まれている布を両手で抱える。
ちゃんと持ちやすいように頑丈な布で包んでくれた気遣いが嬉しくて悔しい。
最高の店だけど最低の店だったな。また来るけど。
「じゃあ帰るか」
「うん!」
俺の両手が塞がっているのを見て、先程と同じようにエリナが腕を組んでくる。
ふんふんふーんとご機嫌なエリナと一緒に帰り道を急ぐ。
段々周囲の雰囲気が悪くなっていくのももう慣れた。
一応注意は怠らないが。
そうだ、魔法を使ってみるか。
探査魔法は薄く伸ばしたバリアだったよな?
ならば
「<ウインディシールド>!」
「お、出た」
「お兄ちゃんなんの魔法を使ったの?」
「防御魔法だけど探査魔法っていうか、ま、用心のためだな。俺の魔力じゃ防御力は期待できないだろうけど、不意に近づこうとする奴くらいはわかるかもしれないし」
「じゃあ私も使ってみて良い?」
「いや、エリナは魔力回復が十分じゃないからやめておこう。あとで風呂を沸かすときにお願いするかもしれないし」
「わかった!」
「なあエリナ」
「なあに? お兄ちゃん」
「まだ魔法は一人の時に使っちゃ駄目だぞ。俺が返事できない状態だったりする緊急時には仕方が無いけど、緊急時以外に使う時は俺に確認する事」
「はい!」
「あと一人で孤児院から勝手に出たりするなよ。ガキんちょどもにもちゃんと言っておいてくれ」
「院長先生から言われてるし大丈夫だよ」
「あと扉も不用意に開けるなよ。俺が初めて孤児院に来た時はガキんちょどもが扉を開けた途端群がってきたぞ」
「あれは院長先生が魔法で戸締りしてたからね。あの子たちは扉が開いた時点で院長先生が帰ってきたってわかったんじゃないかな?」
「そんな魔法もあるのか」
「だから孤児院の中は安心なんだって院長先生が言ってたよ。一応敷地全部に防御魔法張ってあるみたいだし」
「そうか、じゃあ病気を治す治癒魔法はそれだけ魔力を使うのか」
「傷を治すよりかなり魔力が必要みたいだからね」
「確かに病原菌を除去するなり弱った内蔵なんかを治すのって複雑そうだしな。だからこそ薬草に価値があるんだろうけど」
二人でそんな事を話しながら歩いていると孤児院にたどり着く。
エリナが「院長先生戻りました」と声を掛けると、ガチャリと小さな音がする。
たしかにこれなら安心かな。
そういやガキんちょ一号も挨拶してたな。
俺の腕からするりと自分の腕を抜いたエリナが扉を開けてくれ、中に入るとガキんちょどもが群がって迎えに来る。
婆さんも一緒だ。
酔っ払いのおっさんに絡まれなくて良かったな。
てっきり帰り道にでも襲われるんじゃないかと思ったけど、冒険者ギルドの手際が良いのかも知れない。
「婆さんもう大丈夫なのか?」
「ええ、もうだいぶ痛みは無くなりました」
「なんだ、まだ少しでも痛むのなら横になっててくれ。あとは俺がガキんちょどもの世話をするから」
「ありがとうございます。ではそうさせて頂きますね。エリナ、トーマさんのお手伝いをよろしくね」
「はい! 院長先生!」
「じゃあ荷物を降ろしたらエリナはガキんちょどもにお土産を渡してくれるか? あ、婆さんにはこれね」
「うん!」
婆さんにはガキんちょどもには一番不人気であろう紫色をチョイスして渡す。
「まあ、お婆ちゃんにこんな素敵なものを」
「高い物じゃないから気にしないでくれ」
「トーマさんありがとうございます」
「あとスマン、婆さんに相談無くエリナを冒険者ギルドに所属させてしまった。でも一人で勝手な事はさせないし面倒は俺が見るから許可してやってくれないか? 魔法の才能がかなり高いんだよ。俺としても採取などの作業を手伝って貰うと助かるんだが」
「エリナが望んだことなら構いませんよ」
「院長先生ありがとうございます!」
「トーマさんのいう事を良く聞くのですよ」
「はい!」
「トーマさん、エリナをよろしくお願いいたします。あといつも色々とありがとうございます」
「ああ、任せてくれ。じゃあ話も済んだし、台所に行くぞエリナ」
「お兄ちゃん照れてるよね?」
「はいはい、行くぞ」
「ヘタレだねお兄ちゃん」
「うっさい」
台所に行き食材を置くと、リビングに背負い籠と防具を持っていく。
本と玩具とヘアブラシとシャンプー、試供品の石鹸をエリナに渡し、ガキんちょどもに使い方を説明させる。
男連中は新しい玩具に声を上げて喜んでるし、女連中は自分のブラシを持てて嬉しいのか、いっちょ前に早速髪を梳かしだした。
そういえば頭皮マッサージも良いんだよな。
俺はハゲてないけど。
好評なら男連中のブラシも買ってくるか。ハゲてないよ?
「じゃあちょっと晩飯の仕込みをしちゃうからエリナはガキんちょどもを見ててくれ」
「お兄ちゃん私も手伝うよ!」
「パン生地を仕込むだけだから一人で大丈夫だよ」
「わかった!」
台所に戻り早速パン生地を仕込む。
強力粉と薄力粉の区別がつかなかったが、パン用の小麦で買ってきたから大丈夫かな。
季節も<転移>前と同じ初夏だ。
一時間くらい発酵させれば十分だろ。
そういえば昼飯は足りたんだろうか? 食べた後の食器やシチューの入った鍋などは全て綺麗に洗われていた。
本当に良く出来たガキんちょどもだな。
つい笑顔が出てしまうが今は俺一人だ。
気持ち悪がられることも無い。
さあ、次は良く出来たガキんちょどもの為に風呂の準備をしてやるか。
俺はんーと腕を上げて伸びをすると、台所を出てリビングに向かう。