まずは武器を買おう <武器屋 の挿絵あり>
中古本屋と同じようにしっかりとした建物の武器屋の扉を開けてエリナと二人で入る。
店主だろうか、ジロリとこちらを見てくる。
店の中は随分と広い。
登録証を見せる前からすでに塩対応じゃないか、と思いつつも店主らしき男に声を掛ける。
「あー武器を見せてもらいたいんだが」
親父はアゴでくいっと武器が並べられている場所を示す。
なんか腹立つけど、別に武器屋はここだけじゃない。
店を変えるかとも思ったが、すでにエリナは目を輝かせて武器を眺めている。
武器の良し悪しはわからんが手入れはしっかりされているみたいだな。
値段の安いものでも刀身に曇りが無い。
この辺りに並べられてるのは中古品なのか、想像してたよりも安い。
ロングソードで一番安いのだと一本銀貨五枚だ。
「エリナ、このあたりはどうだ? 持ってみて重すぎず、手に合うようなものがあれば良いんだが」
エリナは、んーと言いながらナイフなんかを手に持って鞘から抜いて見ている。
「そうだ、魔法を武器に掛けたりするんだから軽くはできるのかな、いやそれだと常に魔力を消費するから効率が悪いか」
「あんたら、魔法を使うのか?」
「ん? そうだが」
「ならちと高いが魔法銀の武器を勧めるぞ。鋼鉄と同程度の硬度で、鋼鉄より魔力との親和性が高く、魔力を纏わせるのに効率が良いんだ」
「良く聞くあのミスリルか……高そうだな」
「こっちのケースに入ってるから見てくれ。言ってくれればケースから出す」
明らかに他の商品とは扱いが違うそのガラスケースの中を見ると、ロングソードで金貨一枚という値段だった。
研ぎ直し済みと書かれたタグが付いている。
「中古なのか?」
「新品なら金貨三枚ってところだ」
「安いんだろうけど、今はそこまで必要はないんだよな。高難易度依頼とかでその内強力な武器が必要になったら、その時には検討するよ」
「そうか、ま、ゆっくり見て行ってくれ」
ミスリル製武器が収まっているガラスケースの品を見ていると、新品コーナーに日本刀のような物がある。
「あれ日本刀か?」
「おっ、あんた<転移者>か。そうだ、ニホントウだ。こちらじゃ刀と呼ぶ奴が多いがな」
「造りもちゃんとした日本刀なのか?」
「鉄鉱石じゃなく砂鉄から取った玉鋼で打った本物だ。複数の硬度の鋼を組み合わせてできている」
「おぉ……」
「折れず、曲がらず、良く斬れる最高の武器だ。代わりに手入れや扱い方、切断方法などかなり特殊だがな」
「金貨十枚か」
「俺が打った業物だからな、これを超える武器はもう高レベルの魔法剣くらいしか存在しないだろう」
「魔法剣、存在するんだ」
「魔力で無理やり強度と切れ味を増した邪道の武器だよあれは」
「なるほど」
「鉄鉱石から採取した鉄で打った習作の刀でも金貨一枚はする。気になるなら色々相談に乗れるぞ」
金になる客と思われたのか日本刀を知ってる<転移者>だからなのか、塩対応から急に饒舌になる。
「そんなに良い腕を持ってるのに、何故王都って所には行かないんだ? ここよりはでかいだろうし、金持ちも多そうだから日本刀にも需要があるんじゃないか?」
「この町の近くに質の良い砂鉄が採れる場所があるんだ」
「十分すぎる理由だな。腕のいい鍛冶師が居てくれて頼もしいよ」
「本業は刀鍛冶なんだがな、趣味で剣を打っているようなもんだ。さっさと刀を買える位稼いで来い」
「追々な。ちなみにこの剣は引き取りに出すとしたらいくらになる?」
酔っ払いから貰ったロングソードを渡すと、親父は鞘から抜いて刀身を眺める。
「こりゃナマクラだな、銅貨百五十枚ってところか。うちで引き取ったら研ぎなおして銅貨三百枚で売る程度だ」
「随分正直なんだな」
「その方がお前さんにとっても話が早いだろう」
「ならこいつの武器を探してるんだが、見立ててもらえるか。もちろんミスリルじゃなくて普通のもので」
エリナの背中を押して親父の前に出す。こいつじゃない! エリナ! とか言ってるが無視だ。
「ふむ、手を見せてくれるか」
はい! と元気よく手を出すエリナ。
返事は良いんだよな返事は。
保護者として礼儀がしっかりしてるからちょっと誇らしい。
ガキっぽいところは難点だが。
親父がエリナの手をじろりと一瞥した後、カウンターの椅子から立ち上がり、陳列棚からダガーを取って持ってくる。
「細身だが、総鋼鉄造りのダガーだ。持ってみろ」
「おー! しっくりきます! 軽いし!」
「諸刃だが、研ぎ方に差をつければ多用途に向く。他のナイフよりは厚く造っていないから強度は期待できないが、刀身は細く、軽量に造ってある。嬢ちゃんには使いやすいだろう」
「いくらだ?」
冒険者登録証を提示する。
もちろん色々いわくつきの銀色だ。
「銀貨一枚と銅貨三百五十枚だ」
ちらっとダガーの置かれていた棚を見ると銀貨一枚と銅貨五百枚のプライスがついていた。一割引きか。
「わかった、買おう」
「装備を更新する時はうちに来い。下取り価格に色を付けてやる」
「ああ、ありがとう」
俺の登録証に親父の金色の商業ギルドの登録証をかざすと一瞬光った。
割引の処理かなんかかな?
ひょっとしたら割引という名目でクズの冒険者の購入履歴を情報化してるのかもしれん。
凶器から犯人を捜す時に便利とか。
考えすぎか。
親父の金色の商業ギルドの登録証の他に、鉛色の鍛冶ギルドの登録証も一緒に鎖についていたが、鍛冶屋として剣や刀を打って、商人として店舗を構えて販売してるのか。
鞘に収まったダガーを抱えてご機嫌なエリナを連れて隣の防具屋に行く。
愛想は悪かったけど実直な感じがして良かったな武器屋の親父。
見立ても良かったし贔屓にするか。