魔法Ⅰ
「あ、クズさんお待ちしてました」
冒険者ギルドに入るといきなり罵倒された。
くっそ、わざとやってるだろこの職員。
「頼むから名前で呼んでくれ」
「トーマさん、丁度講師の方がいらっしゃったので今からでもよろしいですか?」
「こちらは問題無いぞ」
「では奥の訓練場へお願いしますね。あと前金ですので」
銀貨二十枚を払って奥にあるという訓練場へ向かうと、爺さんがすでに待ち構えていた。
白い髭が地面につきそうなくらいに長い。
あと高級そうなローブのようなものを着てる。
「儂が今回講義するロイドという者じゃ、お前さん達か? 全属性の<転移者>やら潜在能力が高い平民というのは」
「トーマとエリナという。よろしくな爺さん」
「ク」
「トーマな」
「やるな若造」
「いやさっさと始めてくれ、二時間なんだろ」
〇プカシを見ると十二時四十五分だ。
アホなやり取りの分は勿論延長させる。
「まぁ良い。儂が丁度ここのギルド長に会いに来たタイミングとはおぬしら運が良いぞ」
「事務員も言ってたな。ま、二人ともまったく知識が無いんでそのあたりよろしく頼む」
「まかせろ。何しろ儂は相手の魔力を操作できる技能持ちじゃからな。一番最初の難関もこれで簡単に出来るという訳じゃ」
「ほー、それは本当に運が良かったみたいだな」
「じゃろじゃろ? じゃあ早速始めるぞ」
そういうと爺さんは俺の頭に手をかざす。
「丁度腹の真ん中あたりかの。こう何か今までにないような力を感じぬか?」
「おお、確かに感じる!」
「それが魔力じゃ。ちとその力を操作してみよ。ぐるぐる回してみたり手の方に移動させたりとかじゃな」
言われるままに腹に集まった違和感を操作しようと力を入れてみる。
「腹に力を入れたって駄目じゃ。魔力を操作するのに力は必要ない。意思で動かすのじゃ」
「やってはいるんだけど中々難しいな」
「魔力の励起は終わった。あとは少し試してみると良いぞ。次はお嬢ちゃんじゃな」
「よろしくおねがいします! おじいちゃん!」
「ほっほっ。可愛いのう! 儂の孫には女の子がいないのが残念じゃわい」
「お兄ちゃん聞いた⁉ 私可愛いって!」
「ちょっと待って、今それどころじゃない」
「ぶー!」
「じゃあお嬢ちゃん始めるぞい」
「はい!」
爺さんがエリナの頭に手をかざす。
「おお、お嬢ちゃんは素晴らしい素質を持っておるな」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
「うんうん、礼儀正しい良い子じゃの、ちょっと魔力量が多いから励起に時間がかかるぞい」
爺さんがしばらくエリナの頭に手をかざしていると、エリナが急に騒ぎ出した。
俺の魔力は全然動かない。
「あっおなかが変な感じ!」
「それが魔力じゃ。よし、魔力の励起が終わったぞい。そこのヘタレと同じようにその腹の魔力を色々動かしてみるんじゃ」
「はい!」
「突っ込む余裕が無い」
「あっ! すごいすごい、思い通りにあちこちに動く!」
「ほう、たしかに魔力が移動しておる。お嬢ちゃんは魔力操作の才能もあるんじゃな」
「え、マジで。俺全然動かないわ」
「魔力はイメージじゃ。自分の思い通りに動くものだと認識せねば動かんぞ」
「なるほど。おっ、ちょっと動いた!」
「確かに少し動き出したようじゃな。優秀だと教え甲斐があって良いぞ。よし、じゃあ一旦魔力操作は止めるんじゃ」
「はい!」
「ふう、意外と何とかなるもんだな」
「一度励起した魔力は呪いや魔力封じでもしない限り消えんのでな、常に体のどこかに仕舞っておくイメージで慣れておくんじゃ。そして魔力の発動じゃが、先ほども言ったように魔力はイメージじゃ。これから儂の使える初級魔法を全て実演するから、見てイメージを固めるのじゃぞ」
「まずは照明の魔法じゃ。これは白魔法じゃから二人とも属性があるな。照明」
爺さんは掌を上にした状態で呪文を唱えると、光の玉がほわんと掌の上に現れる。
「これが照明の魔法じゃ。光量、持続時間は込める魔力とイメージで決まる。あとはこういう応用もある」
そういうと爺さんの掌の光の玉が空中を自由自在に飛び回る。
「おじいちゃんすごい!」
「これで初級魔法か」
「ふぉっふぉっふぉ、すごいじゃろう! すごいじゃろう! さぁやってみよ。あと登録証の魔力量を確認して、どの魔法をどの程度の魔力量で使用するとどれだけ減るのかを常に確認するんじゃ」
「照明! わっ! 出た!」
「照明! 出ない……」
「イメージじゃイメージ。照明でなくとも自分のイメージしやすい名前を呼ぶのも一つの方法じゃぞ」
「詠唱の必要はないのか?」
「んなもん無いぞ。慣れれば魔法名を叫ばずとも魔法を発動させることも可能じゃ」
「エロイムエッサイムとか黄昏れよりもとか言わないで良いのか?」
「自分の魔力を行使するのにイメージ以外は必要無い。外部の魔力を使うエルフとかなら違うかもしれんがな」
「エルフいるのか……」
「逢ってみたいんじゃがの、エルフの国は遠い上にエルフ自体が排他主義らしくめったに人の前に姿を現さんのじゃ」
「<ライティング>! おっ! 小さいけど出た! 見てみろエリナ! ほら!」
エリナを見ると、すでに馬鹿でかい光の玉をあちこち超高速で飛ばしまくってた。
「なぁにお兄ちゃん?」
「なんでもない……」
「光の玉を消すのもイメージじゃぞ」
「あっ! 消えた!」
「むぅ、イメージか。なら閃光弾!」
掌に浮かんでた光の球がスマホのフラッシュのように一瞬大きな光を出して弾ける。
「おおおおおお、出来た! オリジナルで出来た!」
「お兄ちゃんすごい! すごい!」
「コツを掴んだようじゃな。なら次はこれじゃ」
爺さんは懐からナイフを取り出し、自身の腕を傷つける。
「でじゃ、治療!」
傷がみるみるふさがっていく。
「失った血は戻らないから傷をふさぐだけのものじゃがな。初級はこれが出来て一人前じゃ。じゃあ次は儂の腕につけた傷を治してみよ。とにかく今見た傷が塞がっていく状態をイメージするのが手っ取り早いのじゃ」
爺さんはそう言ってまた自身の腕に傷をつける。
「おじいちゃん! すぐに治すからね! 治療!」
みるみる傷が塞がっていく。そして爺さんはまた傷をつけた腕を俺に向けてくる。
「治療!」
だが爺さんの傷が治らない。
ちっ駄目か、やはり昔養護施設のガキんちょ共と一緒に見た、再放送していたあのファンタジーアニメのイメージが強いのか。
いや、あの某有名ゲームのイメージもある。
しかしホ〇ミとかケ〇ルって色々まずそうだ。
「<リカバリィ>!」
エリナ程のスピードではないものの、ゆっくりと傷が塞がっていく。
傷も残ってないようだ。
あとちょっと恥ずかしい。
「ほう、優秀じゃのう。この分なら二時間で応用を少し教えられるかもしれんな。では次に攻撃魔法じゃ。二人の持つ火からじゃの」
「炎の矢!」
爺さんが標的に向かって十センチほどの炎の矢を放つ。
「そして込める魔力量によって矢のサイズや本数を増やすこともできる炎の矢!」
次に放たれたのは先程の炎の矢より三倍は大きい矢が十本出現し、全てが標的にささる。
「更に炎の矢を一纏めにした応用編じゃ! 炎の槍!」
長さ五メートル、直系二十センチ程の巨大な炎の槍が標的を吹き飛ばす。
「槍が出せればこれも使えるようになるぞい火球!」
直径一メートル程の火の玉が放物線を描き、隣の標的に着弾すると同時に標的を燃やし尽くす。
「おおおお、やばい! かっこいい!」
「おじいちゃんすごい!」
爺さんはその後各属性の魔法を次々に披露していく。
すっごいノリノリで。
俺とエリナはもう大興奮で爺さんの魔法に目を奪われるのだった。