買い食い <エリナと買い食い の挿絵あり>
「エリナお勧めの屋台とか食事処とかあるか?」
「あるよ! こっち!」
この町では深夜帯を除き、一時間毎に鐘がなる。
丁度正午の鐘だとエリナが教えてくれたので、愛用のチプカ〇の時間を十二時にセットする。
一日が二十四時間なら良いんだけど、どうなんだろうなこの世界。
エリナに手を引かれてしばらく歩いていると、屋台が大量に並んでる場所に出る。
「ここは色んなお店が出てて、美味しいみたいだよ!」
「おお、縁日みたいでテンション上がるなこれ」
「えんにち?」
「お祭りみたいなもんだ。ここでも収穫祭みたいなのはあるんだろ?」
「あるよ! 収穫祭の時にはもっともっといろんなお店が出るんだよ!」
「それは楽しみだ。って美味しいらしいってあまり食べたことないのか?」
「外食って贅沢だからね」
「よっ、兄ちゃん! 串焼き買ってってよ! 美味しいよ!」
「串焼き食うか?」
「あの子たちに悪いからもっと安いのでいいよ」
銅貨五十枚の値段にエリナはちょっと引き気味だ。
大体五百円くらいか。
中学の時の柔道部の遠征で高速のサービスエリアに立ち寄った時に見たすごく美味そうな牛串が五百円だったのを思い出す。
あの時小遣い三百円しか持ってなくて買えなかったんだよな。
今思い出しても切ない。
「気にすんな。あいつらの今日の晩飯は豪勢にしてやるから」
自分だけ贅沢はできないと言うエリナの頭をなでながら言ってやる。
今日は三百円どころか数百万円相当の金を持ってるしな。
無駄遣いは駄目だがこれくらいは良いだろう。
やばい、銀行とか無いかな。
大金持ってるの自覚したら緊張してきた。
孤児院に帰ったら婆さんに預かってもらうか?
いや大金を置いて強盗とかに狙われてもな……。
何か対策を考えないと。
「ありがとうお兄ちゃん!」
「で、これは何の肉なんだ?」
「猪だよ! ちっと高いけどな、そこいらの豚なんかより断然美味いぜ兄ちゃん」
「良いな、二本くれ」
「あいよ! ありがとな!」
二本受け取り、一本をエリナに渡す。
受け取ったエリナの目が輝いてる。
「さあ食え食え」
「うん!」
かぷっと串にささった肉に可愛く食いつく。予想以上に美味かったのかはむはむと食べ続ける。
「おいふぃー! おふぃーひゃんおいふぃー!」
「わかったから喋らないで食え」
俺もかじりついてみる。塩に僅かな胡椒の味付けだけど美味い。
これは日本でも売れるだろうな。
「エリナはさ、登録証の健康状態がやや不良だったろ? いっぱい食べて早く健康になってくれよ」
「おふぃーひゃん……」
「もちろんガキんちょどもにも同じように食わせてやるから、今後は一切遠慮しない事。わかったか?」
「ふぁい……」
「さぁ次は何食うかなー」
「んく……。じゃあお兄ちゃん! 次はあれ食べたい!」
「早速遠慮しなくなってお兄ちゃんは嬉しいぞ。なんだこれ、ハンバーガーか? サンドイッチか?」
「別嬪さん連れてる兄さん、買ってくかい? これは色んな具材を好きなだけ選んでパンにはさんで食べるんだ」
「お、良いなこういうの楽しそうで。前の世界じゃサブウ〇イって入った事無かったんだよな。エリナも好きなの頼めよ」
「お兄ちゃん! べっぴんさんだって! 私べっぴん?」
「はいはい別嬪別嬪。良いから好きなの頼めって」
「ぶー!」
「俺はどうすっかな、パンはこの長い奴で、レタスと玉ねぎとトマトのスライスと、このハンバーグみたいなやつって何の肉?」
「豚肉と牛肉の合い挽きだよ。うちは良い肉使ってるからな、美味いぞ!」
「じゃあこのハンバーグみたいなのとチーズとピクルスと、ってマヨネーズかこれ?」
「そうだよ、って兄さん<転移者>か?」
「そうだが」
「マヨネーズはもう何十年も前に来た<転移者>が伝えたものらしいんだ。あとテリヤキソースもあるぞ。それを知らない上に珍しい黒髪って事はやっぱり兄さん<転移者>なんだな」
「そっか、すでに商材になりそうなものはすでに広まってるわなぁ」
「あと何の肉かいちいち気にするところもヘタレの<転移者>って感じがしてね」
「えっ何の肉か気にするだけでヘタレなの?」
「お店で売ってるお肉なら値段で大体わかるし、あまり気にしないよお兄ちゃん。極端に安かったり高かったりしたら聞くかもしれないけど」
「そっか、変な混ぜ物とか、変な肉を偽って売ったら登録証に詐欺師って出ちゃうからそういうのは少ないのかな」
「そういうこった。信用商売だからなうちらの店は」
「よし、じゃあ俺のはさっき言った奴にマスタードソースとテリヤキソースを付けてくれ。あと安くて質のいい牛肉を売ってる店を教えて貰えるか?」
「この店の裏の建物だよ。牛肉は質が良い分ちっと高いが、売り物にならない端肉を丁寧に筋取りして挽肉にして安く売ってる店だ。まあうちの本業でやってる店なんだがな」
「親切に悪いな、本業の方も併せてちょいちょい寄らせてもらうよ。エリナはどうする? 遠慮するなよ?」
「うーん、お兄ちゃんと一緒で良い! ソースはケチャップが良いかな」
「あいよ、二個で銅貨六十枚ね」
「随分安いな、こんな良さそうな肉使ってるのに」
「ありがとな兄さん、おまけでベーコンもサービスしとくわ」
「ありがとう! おじさん!」
「よしよし、元気で別嬪なお嬢ちゃんには更にソーセージもつけちゃおう」
「悪いな親父」
「いいって、本業の方でもハムやベーコン、ソーセージなんかの加工肉も扱ってるから良かったら見てやってくれ」
「お兄ちゃん私べっぴん?」
「そうだな、いっぱい食って健康になったら別嬪になるんじゃないか?」
「私いっぱい食べる!」
「出来上がったよ!」
「おお、美味そうだ、はい代金ね」
「まいど」
ハンバーガーらしきものを買い、近くで売ってたジュースも買って、ベンチに腰掛けて食うことにした。
「はむはむっはむはむっ」
「ゆっくり食えって」
「ふぁってひっぱひふぁふぇふぁいと」
「まだ時間はあるしゆっくり食べないと栄養にならないぞ。ほらジュース」
「あふぃふぁと」
「しかし美味いなこれ。食事に関しては心配いらないなこの世界も」
「ごくん……お兄ちゃんのくれたパンも美味しかったよ」
「あれも再現しようと思えば普通に作れそうだぞこの世界」
「私まためろんぱんとくりーむぱんが食べたい!」
「すぐには無理だがそのうち作ってやるよ。ガキんちょどもの分もな」
「うん!」
「しかしお前らは普段どんな飯食ってるんだ?」
「黒パンだけだったりジャガイモだけだったりすることもあるけど、大体は黒パンにマッシュポテトを塗ったものに、具があまり入ってないスープとかかな」
「……それは貧しいな」
「お金少なくて大変みたいだしね……」
「じゃあさっさと魔法を覚えて稼がないとな」
「うん!」
んふふーと上機嫌でハンバーガーらしきものをぱくついているエリナ。
あぁもう口にケチャップがついてるじゃないか。
エリナが食べ終わったのを確認すると、ポケットからハンカチを取り出してエリナの口を拭いてやる。
「あ、お兄ちゃんごめんね。そんな綺麗な布を汚しちゃって」
「気にするな。元々こういう用途なんだよこれは」
「うん、でも私に使うなんてもったいないよ」
「別嬪さんになるんだろ? ならいつも綺麗にしないとな」
「……ありがとうお兄ちゃん。私頑張ってべっぴんさんになるね」
「おう頑張れ頑張れ」
「もう! 私本気なのに!」
「さぁまだちょっと早いけどそろそろ行くか」
立ち上がると同時にエリナに手を差し出す。
「うん! お兄ちゃん!」
笑顔で手を握り返してくるエリナ。
あぁもう情が移っちゃったよ。
孤児院の連中も普通に俺を受け入れてくれたし。
早くこいつらの為になんとかしてやらないとな。
魔法が役に立てばいいんだけど。