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本屋 <エリナと紙選び の挿絵あり>


 エリナと歩きながら首から下げた登録証を取り出して見る。

 この登録証はその人の深層意識を表示するって言ってたな。

 俺はヘタレじゃないと強く念じればひょっとしたら……。


 登録証を握って強く思う。

 俺はヘタレじゃない、いくら社会を恨んでたからと言って自殺なんかアホらしいし、他人を傷つけたりしたって意味が無いだろう。

 俺はヘタレじゃない。

 たしかに俺は一旦は憎んでる社会の歯車になろうとした。

 だがそれは更なる飛躍の為だ。

 決してへタレだたからじゃない。

 妥協じゃないぞ! 俺は決してヘタレじゃない。



「お兄ちゃん大丈夫?」



 エリナがものすごく心配した顔で聞いてくる。

 しまった、つい本気で自己弁護をしてしまった。



「いやな、登録証の職業を変えられないかと思って。結局ここに表示される情報って、自分の深層意識にある情報な訳だし」


「どういうこと?」


「つまり人を殺しても、俺は人なんか殺してないと思い込めば殺人者とは表示されないんじゃないかと」


「思い込んじゃえばそのまま表示されちゃうって事?」


「そうそう、エリナもやってみれば? 自分のなりたいものを強く思えば孤児から変わるかもしれないぞ」


「うん、やってみる!」



 というとエリナは登録証を握り込み、足を止め、目を瞑ってぶつぶつ言いだす。

 十秒ほど時間が経つと、登録証が光り出した。



「おお、エリナ、光ってる光ってる」


「わわわっ! ほんとだ!」


「情報が書き換えられたんじゃないのか?」



 と言って登録証をのぞき込むと



 名前:エリナ


 年齢:15


 血液型:A


 職業:お兄ちゃんのお嫁さん


 健康状態:やや不良


 レベル:5


 体力:58%


 魔力:100%


 冒険者ランク:F



 たしかに好意は感じていたけど、妹が兄に懐くようなものだと思っていた。

 出逢ってまだ一日だしまぁその内感情も落ち着くだろ。

 あれだな、高校の時、教育実習生の女子大生が来た時の男子高校生の心境みたいなもんだ。

 うむ、やっぱ俺ってヘタレだな。



「ち、違うの! これはそういうんじゃなくて! 適当に思っただけだから!」



 そういうとまた登録証を握り込み、強く念じるエリナ。再び登録証が光り出すと職業表示は孤児に戻っていた。



「あのさ、これってこんなにぽんぽん変わってたらいくらでも詐称が可能なんじゃね? 深層意識ってこんなにチョロいの? あの事務員は魂に刻まれたーとか凄いこと言ってたけど」


「さー、私にはよくわかんない」


「まぁその辺は後にでも聞くとして、とりあえず紙が欲しいんだよな」



 面接帰りだったのでペンはあるが、手帳は小さいしページ数も怪しい。

 予定はほぼスマホで管理してたんだが、今は電源を切ってある。

 太陽光充電機能付のモバイルバッテリーはただいま孤児院で絶賛太陽光を浴びてるはずだ。

 紙を買ったらペニシリンの生成方法や日本刀、黒色火薬の作り方、蒸気機関なんかをメモって各ギルドに売り込みに行く予定だ。

 ついでにどのあたりまで技術が進んでるのか、どういった知識なら売れるのかを調査するつもりだ。



「羊皮紙? 植物紙?」


「長期保存とか考えてないし、安い方で構わないんだが」


「じゃあ植物紙だね! こっちだよお兄ちゃん!」



 エリナが俺の手を取って引っ張る。

 エリナの耳が真っ赤なのはスルーだ。

 何せ俺はヘタレだしな。

 というか好意を向けられた経験なんか皆無だしどういう風に対応すれば良いのかわからん。

 十五歳の女の子の恋心なんか麻疹みたいなものかもしれないし。


 植物紙を売ってる店にたどり着く。


 屋台みたいな露店ではなく、ちゃんとした建物の店だ。

 インクやペンなんかも売ってるんだな。

 とりあえず一番安い紙を二十枚ほど買う。

 銅貨二百枚だ。

 意外と安いのかな? そこそこ流通してるのかね。



「そういやエリナたちは文字とかどうやって書いて勉強してるんだ?」


「ろう板っていうのに木筆で書いてるよ」


「蝋板か、黒板はあるのか?」


「大きいのが一個。院長先生がそれに色々書いてみんなで見られるくらいの大きさのがあるよ」


「一応一通り揃ってるわけか。じゃあ次は中古本屋かな。近くにありそうだし」


「じゃあこっち!」



 がしっと俺の手をつかんで早足で歩いていくエリナ。

 こいつのまっすぐな好意は悪い気はしないんだよな、どうやって返していけばいいのやら。

 ヘタレ過ぎだな俺と思いつつエリナの案内で中古本屋に着く。


 値段は子供用の絵本なら銀貨一枚程度で、そこそこ厚めの本でも銀貨五枚くらい。

 専門書みたいな分厚い本はケースに入れられて金貨数枚ってレベルだ。

 絵本なら安いし、今ある絵本じゃ飽きてるだろうし十冊くらい買ってやってもいいか。


「エリナ、孤児院に無い絵本で面白そうなやつを十冊くらい選んでくれるか? あとお前の好きな本を何冊か選んでいいぞ」


「いいの?」


「丁度エリナくらいの年齢が読みたい本が何冊かあれば、今後成長したガキんちょ共にも丁度良いだろ。絵本じゃなくて、もっと厚くて字が多い物語集みたいな本か何かが良いと思うが」


「うん! お兄ちゃんありがとう!」


「選んでる間に俺は他の本を見てるからよろしくな」


「うん! 任せて!」



 本棚を色々見て回る。

 日本で見たようなタイトルの本を見ると詳細は記憶とは違うが、ストーリーやキャラクターはまんまパクられている。

 <転移者>が本の記憶をそのままパクって出版したのか。

 著作権なんか関係無いしな。

 探せば漫画なんかもあるんだろうか。


 そうなると百科事典の情報を売るっていうのも難しいかもな。

 産業革命は起こってないって言ってたけど、魔法技術があるとも言ってたし。

 どこまで科学と置き換わってるのかも調べないといけない。


 む、異世界転生者がチート能力で天下統一とかいう頭が痛くなるような本が特価コーナーにあるな。

 パラパラと中身を見ると、<転生者>が前世の記憶を駆使して異世界で成り上がる物語のようだ。

 そこそこ分厚いのに銅貨五百枚と滅茶苦茶安いしこれは一応買っておくか。


 などと色々見ながら一回りすると、エリナがカウンターに本を乗せてるところだった。



「選べたか?」


「うん! 面白そうな絵本を選べたからあの子たちも喜ぶと思う!」


「そりゃよかった。んでお前の選んだ本は?」


「んーとこれとこれ!」



 と言って見せてきた本は確かに絵本に比べて厚い。

 タイトルを見ると騎士物語と詩集だ。

 ん? カウンターの隅に置かれてる本がある。恋物語か。



「そっちの本は良いのか?」


「んー、高いし二冊で良いの。男の子用と女の子用で選んだし」


「いいよ、三冊でも」


「えっいいの⁉」


「元々エリナの好きな本を選べって言っただろ。男の子用とかそういう配慮は要らなかったのに」


「うん! ありがとうお兄ちゃん!」


「じゃあ買うぞ。すまん、これ全部買いたいんだが」



 一度に大量の本を買うケースは中々無いとの事で喜ぶ本屋。

 孤児院の子ども用にちょくちょく買いに来ると伝えると結構オマケしてくれた。

 絵本十冊にエリナの選んだ本三冊で銀貨二十枚だ。

 異世界転生本は全く売れなかったとの事でタダでくれた。



「よし、じゃあ昼飯食ってギルドに行くか」


「そうだね!」


 エリナが俺の手を握ってくる。

 軽く握り返すと「えへへ!」とエリナの笑顔が弾ける。

 つい俺も笑顔になり、エリナの先導で歩き出すのだった。

挿絵(By みてみん)

エリナと紙選び

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― 新着の感想 ―
[良い点] 結構皮肉っぽい感じが好き。異世界転生本がタダで売れたくだりとか特に。 引き続き楽しく読ませていただきます。
[一言] 名前:エリナ 職業:お兄ちゃんのお嫁さん ↑ 可愛いですな~(#^^#)! 一緒に街を歩いたり 好きな本を買ったりして。 こういうほっこりした回、 大好きです♪
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