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ギャップ萌え


 無事謝罪が終わったので部屋から出て晩飯の支度だ。

 エリナは早速「紙と鉛筆と綴じ糸を買ってくる!」と孤児院を飛び出していく。

 嫁に落ち着きが無いな。可愛いから良いけど。


 エリナとクレアが仕込みを終わらせておいてくれたので、ちゃちゃっと俺も加わって料理を仕上げる。

 駄姉妹は戦力外なのでガキんちょどもの世話だ。

 駄妹もポンコツだが駄姉も同じようにポンコツだった。

 まあ包丁を使ったことが無いみたいだし仕方がないか。

 伯爵令嬢ってお姫様みたいなもんだしな


 無事料理も完成し、賑やかな食事となる。

 領主となったおかげで、託児所も基本晩飯まで提供する方針にできるのは良かった。

 ただ流石に毎食コスト無視ってのは後々問題になりそうだから週一ハンバーグ以外は少し質素にしていくか。

 晩飯の費用も加算しなきゃいけなくなるし。


 今日の風呂タイムでは女子風呂がやたら騒がしかったがどうせクレアのせいだろう。

 気にしたら負けだ。



「なあ駄姉」



 預かってきたガキんちょを自宅に送り届けて帰って来た駄姉に声を掛ける。

 が、何故か駄姉は手に持つ何かを眺めて泣いていた。

 えっなにこれどうしたん?



「どうしたんだ?」


「あ、申し訳ありません、旦那様。先程アンナちゃんを送り届けた時にこれを頂いて」



 俺に見せてきたのは手のひらサイズの白いバラを模したコサージュだ。

 家にある一番上等な布を使ったのか、貧困家庭では不釣り合いな布で作られたそれはとても輝いて見えた。



「アンナは駄姉に良く懐いていたからな」


「アンナちゃんとお母さんの二人で昨日の夜に作ったものなのだそうです。大変な生活を送っていてとても厳しい状況なのに……こんな良い布をわたくしの為に……とても素敵なものを頂いて、わたくしとても嬉しくて……」



 駄姉をそっと抱きしめる。

 


「普段からお前ら姉妹を見てれば、どれだけ子供たちのために頑張ってくれてるかはわかるし、多分その気持ちがアンナにも伝わったんだろうな。父親がいないせいかここに来てすぐの時は、俺は勿論男には近寄れない子だったんだが、クリスのお陰ですごく明るい子になったんだぞ」



 コサージュを両手で大事そうに抱えたまま俺の胸に顔を埋めるクリスがこくこくと頷く。

 しばらくして、「旦那様失礼いたしました」と、真っ赤に腫らした目はそのままでいつものクリスに戻ったので、本題に入る。



「学校って制度わかるか?」


「はい、存じています。旦那様はこの町で学校制度を導入したいのですか?」


「すぐにってわけじゃないんだけどな、まずは託児所の規模を大きくしなきゃいけないし。とりあえず施政者としての駄姉の意見を聞きたい」


「現在この国は絶対王政です。旦那様はこの体制自体を破壊したいのでしょう?」


「まあ立憲君主制か共和制あたりに落ち着くのが良いとは思うけど、民主主義化して国民投票をやるほどはまだ成熟してないから百年単位の未来の話だけどな」


「なるほど、でしたら王を弑逆しましょう」


「お前に相談した俺が馬鹿だった」


「せっかく領主となったのに、国王を弑逆するくらいの覚悟がない旦那様はヘタレですわね」


「ヘタレじゃなければすぐ革命起こすみたいな言い方はやめろ」


「でも殿方っていうのは常にそういう野望を抱くものでしょう?」


「そんなわけあるか。お前実は英雄物語とか騎士物語に影響されまくってるだろ」


「どうでしょうか? 国に不満が無ければそういった願望は持たなかったのではと思いますが」


「まずはこの町からだ。市民の知識水準の向上や子供を日中預ける事で生産力が増加するとか、安心して子供を産み育てていける環境を作って人口増加に繋げるとかそういう足元を固める政策が必要なんだよ。多分」


「<転移者>は高度な教育を受けているとは聞きましたが、なるほど素晴らしいですわ旦那様」


「受け売りだけどな。この町の評判が良くなって人口流入でも起きれば他の領地も無視できなくなるだろ」


「ここは王都に近い土地ですしね。旧グライスナー家に血筋的に近い周辺の小領地も、評判を聞けば同じような政策を取ってくるかもしれません」


「近い将来的には無償で預かる義務教育って感じにはしたいが、しばらくは収入に応じて負担のかからない程度の料金で、託児所の規模を大きくしたい。あとは教育にも力を入れたいんで、ある程度余裕が出来ればその辺りの得意な文官なんかもここで教師として仕事をさせたい」


「それに加えて雇用対策ですね。子供を預けて仕事が出来る環境づくりには同時進行で行う必要がありますし」


「新規事業やら新規開拓になるのかな? その辺りは駄姉に任せる」


「お任せくださいませ。必ずや旦那様のご希望に沿った結果をお出しして見せますわ」


「お前は過激思想が無ければほんと有能な良い女なんだけどなー」



 見た目もまさに高貴な淑女って感じで滅茶苦茶美人な上に、先程見せた子供から貰ったプレゼントで涙するくらい優しいのに、時折出る危険な発言で全て台無しだ。



「ふふふっ。殿方はこういったぎゃっぷもえというのがお好きなのでしょう?」


「本に影響され過ぎだ。それも良くない方向のな。それにギャップ萌えだったらさっきのコサージュ見て泣いていたお前に感じてたけど全て台無しだぞ」



 ポンコツって単語も知ってたし俺の世界の本を読み過ぎだろコイツ。

 まあ良い知識もちゃんと吸収してるようだし俺としても助かってるんだがな。



「あら、それは残念でしたわね」



 ふふふっと笑顔を見せる駄姉。

 ちょっとドキッとしたのは内緒だ。

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