冒険者登録 <ソフィア (口の悪い冒険者ギルド事務員)の挿絵あり>
酔っ払いを追い払ったあとにカウンターに座る女性事務員に声を掛ける。
顔色が真っ青だが気にしない。
「あーすまん、冒険者ギルドについて聞きたいのだが。あと絡んで来た奴について」
「すみませんすみません、うちのギルド員がすみません」
「もし次にあいつが絡んで来たら殺しちゃっても良いの?」
「すみません、流石に殺すのは……」
「もう絡まないようにギルドの方から言い聞かせることはできるのか?」
「はい、それは上長に報告しておきますので。今回の件でも罰則が適用されると思います」
「なら大丈夫かな? あとこの剣貰っちゃっても良いかな?」
「賠償金代わりとして処理しておきます。情状酌量の材料にもなりますので是非お持ちください」
「お兄ちゃん、儲かっちゃったね!」
「俺はエリナの今後が心配だよ」
「あの……」
「ああすまん。さっきも言ったが冒険者ギルドについて説明して欲しい。俺は<転移者>なんでその辺良くわかっていないんだ」
「<転移者>の方でしたか。では他のギルドにはまだ行かれてないのですか?」
「そうだが? 何か問題でも?」
「いえ、<転移者>の方なら大抵なにか手に職をつけていますので、わざわざここには来ないだろうと思いましたので」
「他のギルドというと商業ギルドくらいしか知らんのでな。商材もないしまずは冒険者ギルドだろうと思ってきたのだが」
「なるほど、では簡単に説明させていただきますね。まず能力のある方は国の組織で働くことになります。経理が得意だったり、農業や畜産の知識があれば文官、武術や兵法学に自信があれば武官、医術や薬学、鍛冶技術や木工技術などがあれば国お抱えの技術者といった感じですね。年に一度、春に採用試験が行われていますので、成績優秀なら採用となります。また、国に採用されなくても、好成績を挙げれば貴族に雇用されることもあります」
「採用試験って単語を異世界でも聞く事になるとは」
「それで国や貴族に採用されなかった者に、得意分野を生かして加盟するギルドという組織が受け皿として用意されています。もちろん採用試験を受けずに直接ギルドに加盟する人も居ますので、落ちこぼればかりが集まるという訳では無いですよ。国や貴族に雇われれば安定はしていますけれど、民間ギルドは自己の才覚でいくらでも稼げますからね。あとは最初から公職やギルドに所属しない方もいらっしゃいますが」
「その辺はまあ日本でもそうかな? 昔ほど民間が良いってわけではないけど」
「ギルドは細かなものや、ほぼ国が管理している貨幣造幣ギルドなど例外もありますが、主要なギルドは、先程おっしゃられた商業ギルド、鍛冶ギルド、木工ギルド、薬剤師ギルド」
「なんとなくそれっぽいな」
「あとは盗賊ギルド」
「ちょっと待て」
「はい?」
「盗賊ギルドって、盗賊を集めてるただの盗賊団じゃないのか?」
「いえ、国が認めたれっきとしたギルドです。いわゆる国の暗部ですね」
「なるほど、わからん」
無理やり納得するならば、国から許可を得て戦時中の敵国の船を襲った私掠船みたいなものだろうか?
「あとは暗殺ギルドくらいですかね」
「捕まえろよ」
「これも国の暗部です」
「暗部って言っておけば良いと思ってるだろ。流石に無理があり過ぎるだろ」
「と言われても国が認めてるわけでして」
「どうやって運営してるんだよ、というか暗殺って看板掲げてる時点で頭おかしいだろ」
「他ギルドの運営内容は流石に解りません。興味があれば直接赴いてお尋ねしてみれば良いと思いますよ。盗賊ギルドと暗殺ギルドはこの隣にありますし」
「アジト判明してるんなら軍隊使ってでも攻め滅ぼせよ。アホかこの国の連中は」
「あ、でも<転移者>の方は盗賊ギルドにも暗殺ギルドにも所属したという話は聞きませんね」
「流石に現代社会の倫理観が働いたか」
「いえ、<転移者>の方はとにかく人畜無害でヘタレだと有名ですので、その辺の性質じゃないんですかね」
「そういやそういう連中だった。俺も含めて」
「で、冒険者ギルドですけれど、それら受け皿にも入れなかったクズが集まるゴミ溜めのようなものでして」
「口悪いな。でも冒険って言ったってどこかに探検しに行ったりするわけじゃないんだろ?」
「人生の正道を見失って、世間の荒波を適当に歩き回って人生の冒険をしてる人達が冒険者なんです」
「上手い事言おうとしてるけど悪口だからなそれ。っていうか冒険者ってそういう意味なのかよ」
「先程の無礼を働いたようなクズを、国がなんとか囲い込んで一纏めにしておく組織ですね。はい終わり」
「すごくわかりやすい説明をありがとう」
「いえいえ、商業ギルドなど大手ギルドはこんな寂れた場所ではなく門の近くにありますので、ここからはちょっと歩きますけどお気をつけて」
「いや、冒険者ギルドに入ろうと思うのだが」
「正気ですか?」
「いや、問題あるのか?」
「<転移者>の方ならヘタレだけれど能力はあるわけですよね? 高度な教育を受けた方ばかりだと聞いていますし」
「あの、ヘタレって言うのやめてくれる? 自覚してる分心が折れそう」
「わざわざ自分はゴミです、クズの組織に所属してますって門を通過するたびに登録証を見せるとかマゾなんですか?」
「もう一度言うけど口悪すぎなあんた。でもギルドは重複して登録できるんだろ?」
「それは可能ですけれど」
「日雇いの仕事があると聞いて来たんでな、クズ相手でいい仕事があるかわからんからそれ次第だが」
「わかりました。ではとりあえず説明させて頂きますね。冒険者登録費用は一人銀貨十枚です。新規登録された冒険者はFランクとして登録されます。実績を積めばFランクからEランク、Dランクへと昇格していって、最上位ランクはA。特別な功績を挙げるとSランクとなれる可能性があります」
「ランクによって受けられる仕事が変わるのか?」
「特にそういう制限はありませんが、護衛依頼なんかは実績が無いと断られます。当たり前ですね、実績や信頼すらないクズに護衛してもらおうなんて商人は存在しませんから。あとは護衛依頼もそうですが、失敗した場合にギルドが一定の補償しなければならないような依頼はギルドの許可が無ければ受けられません。流石にクズ揃いの冒険者ギルドでもCランク以上になれば一定の信用は得られるので、高額な依頼はかなりありますよ」
「なるほど」
「逆に言えば、依頼を受託した冒険者が死んだところで、特にギルドの懐が痛まないような魔物討伐依頼なんかはランク関係無く受けられます。まぁこれも当たり前ですね。むしろ国としては、社会不適合者をさっさと間引きたいのか奨励すらしています」
「社会不適合者って言っちゃったよ」
「そういった理由で国から一定の補助が出てますので、魔物討伐依頼や収集依頼などは、ギルド登録無しで行うよりは報酬額に色がついてます」
「あと魔法適性の判定が出来ると聞いたんだが」
「冒険者ギルド登録証を作る時に、一緒に魔法適性の判定も行いますよ」
「そうか、じゃあどんな依頼があるか見せてもらっていいか?」
「どうぞどうぞ、そこの掲示板に貼られていますのでご自由にご覧ください」
「ありがとう」
掲示板に貼られた依頼を見る、エリナも、んーと背伸びして見ている。
やっぱ背低いよなこいつ。
こいつだけじゃなく孤児院のガキんちょ連中もあまり発育状況はよろしくない。
さっさと運営状況をマシにしてやりたいとは思うが。
百科事典があるから鍛冶ギルドでも薬剤師ギルドでも売れそうな情報はあるかも知れないけど、国はすでに<転移者>の知識を吸い尽くしたって言ってるみたいだし、その辺も調査しないと。
お、薬草採集の依頼がある。わかりやすいように絵も一緒に書かれているがヨモギもあるな。
五十センチ以上のヨモギ十株で銅貨百枚か、これ結構良いんじゃないか? ついでにサルノコシカケ一グラム銅貨一枚みたいな他の薬草も取れれば効率良いだろうし。
「なあエリナ、お前ヨモギとかサルノコシカケなんかの薬草の生えてる場所とかわかるか?」
「院長先生とよく一緒に取りに行ってたから大体わかるよ。サルノコシカケは腐りかかった木に生えるから場所はわからないけど、それっぽい木を見つけたりするのは大丈夫だと思う」
「エリナは市民登録証も無いよな? 門の出入りで銀貨を払ってたのか?」
「私は孤児として国に届け出が出てて院長先生の庇護下にあるからね。院長先生と一緒なら大丈夫だよ」
「まぁそりゃそうだよな。危ない場所とかも教えてもらったか?」
「うん。でも万が一魔物が出ても魔法があるし、めったに襲ってこないから大丈夫だって院長先生が言ってたけどね」
「あーそうか、魔法か。覚えられたら覚えて行った方が良いな」
「魔物討伐の依頼も結構あるよお兄ちゃん」
「薬草採取ついでに魔物を見つけたら狩るって方が効率も良いな」
まあこんなもんかと掲示板から離れてカウンターに戻る。