第1話~崩壊~
第1話になります。
ここから物語がスタートになります(汗)
~西暦2049年07月~
かつて日本と呼ばれた島国、その主要都市であったが、今は見る影もない瓦礫の山と化した廃都市に、俺とマナは訪れていた。
2人が腰を下ろすその廃墟は、在りし頃はショッピングモールとして、人々で賑わっていただろう。
その面影を僅かに残しつつも荒れ果てて朽ち果てている。
鉄骨が露出しているものの頑丈な柱に支えられて、辛うじて建物は守られている状態だ。
そのモール内にはそこら中にショッピングカートや買い物カゴが散乱し、販売されていたであろう商品も無造作に転がっている。
だが使えそうなものは見当たらない。
食料や衣類などは、少なくとも見える範囲には既に無かった。
···。
「···ねえユウト、この世界に神様っているのかな?」
手に持った小枝をペシッとへし折り、それを焚き火に放り込みながらマナは言った。
宇津木マナ。
【以前】から仲が良く、家族ぐるみで付き合いがあった。
約7年前(もう詳しい日時は分からない)に、[人狩り]によってお互いの両親が殺害された時のショックで、その顔からは表情が消えてしまった。
それまでは表情豊かで、良く笑う元気なヤツだったのに···。
今は辛うじて話は出来るが、未だに笑顔は見せてくれない。
「···さあな。···もしいたとしてもこんな薄情なカミサマなんか祈る価値なんかねぇよ」
少し皮肉混じりに俺はいう。
「···そうだね、どんなに祈っても私たちを助けてくれない···きっと神様はいないんだ。···私たちを苦しめた【魔王】様ならいるのにね」
~9年前~
西暦2040年07月。
この日は午前中にマナと一緒に夏休みの宿題をしていた···というよりかは殆どマナに宿題を手伝ってもらっていた。
遊んでばかりの俺とは違い、マナは「意外」と頭が良い(本人に言ったら絶対に殴られる)
午後からは俺の父さんとマナと一緒に遊びに出掛けた。
「水族館なんて久しぶり、楽しみだな!」
「うん、楽しみだね!」
そんな他愛のない会話をしつつ水族館に胸をワクワクさせていた。
夏休みに入ったら連れて行ってくれるという父さんとの約束だった。
もちろん家の手伝いをするという条件付きで。
···しかし水族館に行く事は無かった。
それは突然だった。
「···え?···い、痛い···痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃ!!」
最寄り駅に向かう途中、突然物凄い頭痛に襲われた。
それは俺だけじゃない。
父さんも、マナも、周りの通行人も。
頭だけじゃない···両耳と、眼球の奥からも。今までに感じたことのない激痛だ。
耳には巣潜りしてるときに掛かる水圧のような···両目からは、まるで眼球の裏側に小さな人間がいて、眼球を全力で殴られているかと錯覚するような激痛だ。
暫くすると痛みは嘘のように引いていった。
実際にはそんなに長い時間ではなかったのだろうけど、少なくとも当時の俺は永遠に続くかのように長く感じた。
痛みで泣き叫ぶ俺とマナ、それをフラフラしながらも宥めてくれる父さん。
「···おい、なんだあれは!」
そんな中、周りの誰かが上空を指差して叫んでいた。
その先には、近くのビルよりも遥か上空に巨大な空間が歪んで形成された球状のものが見えた。
巨大な液体の球にも見えるが、液体にしては透明すぎる。
次第に表面が水滴を得た水面のように波紋が広がっていき、その波紋が激しくなっていった。
《···聞こえるか人類よ》
声が聞こえる。
まるで頭の中から響いてくるような不思議な声だ。
男なのか女なのか、子供なのか年寄りなのか···分からない。
不気味であり崇高でもある。
上空の球状体を見上げた。
まだ緩やかに波紋が走るものの、その中心にはっきりと人間の姿が映し出されていた。
顔にはノイズの様なものが走り、良く見えない。
若いのか年寄りなのか···。
髪型は短髪の黒髪、身体は肩までしか見えない為、体格などは分からない。
その直後、父さんの携帯端末から激しい着信音が流れた、母さんからの連絡だった。
「あなた大丈夫!?これ一体何なの!?」
「分からない、お前こそ大丈夫か!?」
周りの人も誰かに連絡する人もいれば、携帯端末でネットに繋いで、ニュース速報を見てる人もいる。
俺も自分の子供用携帯端末を起動した。
真っ先に速報が入り、開いてみるとニュースキャスターが焦りを隠すことなく、慌てた口調で原稿を読み上げている。
そのニュースキャスターの背後のモニターには、俺たちが見ている球状体が映されていた。
この球状体はこの場だけじゃなく、他の地域···いや全世界中で発生しているようだ。
まるで映画やアニメの世界のような光景だ。
《···君たちに審判を下す為に私はここに来た》
表情は分からないが、球状の中の【彼】は心なしか笑ってるようだ。
《君たちはこの星が好きかい?私は好きだよ、この星が。···だが君たちはこの星を貪りすぎたようだ。だから処理する為に私はここに来た》
処理をする?
何を言ってるのか当時は分からなかった。
···いやこの状況下、この意味を理解できる人なんかいなかっただろう。
《···何を処理するだって?···フフフ、決まってるだろ?···君たち人類だよ》
人間を処理する。
その言葉に俺たちを含め、周りの全員が固まった···「処理をする」そのタンパクな言葉に含まれる暴力性に、恐怖に···。
《···信じていないようだね。···では手始めに1つ、大陸を消してやろう》
そう【彼】が言うと同時に凄まじい音と同時に激しく揺れ始めた。
少なくとも俺が生まれて初めて体験する大地震だ。
瞬く間に携帯端末に災害速報が流れる。
だが流れた速報は地震だけではなかった。
携帯端末に流れた文章に、皆が戦慄を覚えた。
[アフリカ大陸・消滅]
《君たちの世界の、大きな大陸の1つを消してやった。相当な数の人類を含む生物がいたようだな》
悪びれる様子もなく【彼】は淡々と話す。
ニュースの映像には、人工衛星からの映像も流れていた。
アフリカ大陸が、まるで瞬時に蒸発したかのように消えていた。しかも大陸が根こそぎ消えた為に、その跡地に海水が流れ込み世界中の水位が急激に下がっているようだ。
《これで理解できたかな?私は本気だよ。君たちが生息する全ての大陸、島々を消してやろう》
これを自らがやった、と【彼】は言う。そして全ての陸地を消し去ると言う。
どうやって大陸を消したのか?映像を見る限り爆発などしていない、文字通り「消えた」のだ。
《···だが私は慈悲深い。君たちに新たな生息地になる大陸を与えよう》
再び激しい音と地震が発生する。
鳴りっぱなしの携帯端末の一番新しい情報が流れた。
[太平洋上に新大陸出現]
そのニュースには先程と同じく、人工衛星からの映像も添付されており、その映像が流れた。
太平洋のど真ん中に、見たことのない大陸が写し出されていた。
他に表現しようがない···まるで今までそこに存在していたかのように···。
だが見たことの無い巨大な大陸だ。
形は全く違うものの、大きさはちょうどアフリカ大陸と同じくらいか。
その大陸の面積内には小さな島々があった筈だが···それらはどうなったのだろうか。
《大陸の名は···そうだな、【シャンバラ】とでも名付けよう。君たちの新たな生息地に相応しい名前ではないか。···ただし》
《当然だが、全ての人類が住める訳ではない。人数は···1億人にしよう。誰が生き残り、誰が死ぬかは君たちで話し合ってくれ。》
《それと、猶予は今から数えて10年だ。10年後に【シャンバラ】を残し、全ての大陸と島々を消し去ることにする》
そう話ながら、【彼】を映す球状が、再び波紋が激しくなり歪んでいく。
《···そうだ、まだ名乗っていなかったね···私は【魔王】、世界を破壊するものだ》
《ではまた10年後に会おう、再び会う日を楽しみにしているよ》
そう言い終わる頃には、もう人影が確認できないほどに球状が波紋によって歪みきっており、やがて上空の景色に溶けていくかのように消えていった。
長い時間では無かったが、世界が崩壊するきっかけには十分な内容だった。
突然の事態に当然だが世界中が混乱状態に陥った。
テレビやネットも連日、この「【魔王】の宣言」の報道が続いた。
あまりにも非現実的な自体に、何かしらの組織の大規模なイタズラだとの意見も飛んだが、アフリカ大陸が消失し、太平洋上に現れた新大陸の事実がある以上、【彼】···いや【魔王】が話した内容を事実と認めざるを得ない。
何よりアフリカ大陸の消失。
それによってアフリカ大陸内の多くの国々、人々、動物、資源···多くのものが一瞬で失った。
しかしそれを悲しんでいる余裕が人類には無かった。
10年。
長いようで短い時間。この10年の間に世界中の殆どの人類は命を落とすことになる。
そう新大陸【シャンバラ】に住める人口は【魔王】により定められた1億人。
【魔王】は話し合って決めろ、と言っていたが···当然だが無理な話だ。
世界各国は最初のうちは話し合いを始めていたようだが、次第に穏やかじゃない情勢になり···気が付けば武力衝突に発展していた。
国家間だけの話ではない。
民間人も次第にモラルが低下していった。
1億人の席に着く為に···生き残る為に。
生き残る、生き残る、生き残る···。
その為に人々がやることなど1つ、それは「暴力」だ。
暴力による犯罪が爆発した。···いや秩序が崩壊している以上、暴力は犯罪ではない···生き残るための立派な手段になってしまっていた。
そしてその暴力が支配するまま、大規模な暴徒と化していった。
そこには【以前】までに築き上げた社会的地位や財産など無意味だ。
生き残るという本能のもとでは、人々は平等だ。
社会的地位を利用しようとするものや、金にものを言わせる手段を取ろうとするものなどは、真っ先に物理的に潰された。
こういう時に人の本性がでる、その背景には成功者への嫉妬心なども少なからずあったのかもしれない。
少しでも人口が減れば、それだけ助かる可能性が上がる。
それが人々を暴徒化させた起爆剤だ。
それまで仲が良かった友人、隣人だった人たち···今では自らの生存を脅かす敵と認知するものたちもいる。
また【以前】より心の内に秘めた暴力性や殺人願望を爆発させて殺戮を楽しむ人々、[人狩り]と呼ばれるものも現れた。
これが世界規模でおこり、さらに国同士の争いもあり···【魔王】の宣言から世界中が廃墟になるまで5年も掛からなかった。
···。
そして今。
俺とマナ···互いの両親を失ってから、ずっと2人で生きてきた。
周りの人間などは信用できない、子供だからといって遠慮してくれるような優しい世界ではない。
甘い言葉で寄ってくる大人ほど、俺とマナが背負っているリュックサックの中の物資、食料しか見ていない···殺されて奪われるだけだ。
こんな地獄の中の唯一の希望が【シャンバラ】だ。
どんなことをしてでも生き延びて、必ず【シャンバラ】にたどり着くんだ。
俺自身もそうだけど、何よりもマナだ。
マナを幸せにしたい、そう俺は再び···マナの笑顔が見たい。
「そろそろ寝よう」
夜も更けてきた、夜は危険が多い。
寝込みを襲われることも考えて、念入りに周辺は確認してあるが、油断は出来ない。
「うん、わかった」
俺は焚き火を消した。
暗闇がモール内を支配する。
次第に瞼が重くなり俺たちは眠りについた···。
駄文で読みにくい中、読んで頂きありがとうございました!!
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