何時迄も沈まない夕陽或は昇らない朝陽
真っ赤な世界だった。
草も木も土も花も海も空も赤かった。
ただ一つだけ、その色に染まらないものがある。
それは白く、所々に窓ガラスが埋め込まれている、立方体の形をした家だ。
一辺の長さは軽く1kmを超えるだろう距離があり、近くで見ると壁としか認識できなかった。
太陽のある方の面に扉が一つある。唯一この建物の内外を繋ぐ扉である。
その扉が開いた。
そこから、黄色い髪の少女が出てくる。
服装は少女の容姿に不釣合いなヨレヨレのスーツ。そしてその上からカラフルに染められた白衣を羽織っていた。
彼女はショボショボした目をギュルギュルと擦り、その手をそのまま上にもっていって背伸びをした。
眩しいのか伸び終えても目を細めたままの彼女は、指をパチンと一つ鳴らした。その指には指輪が一つはめられている。
指の音は空間をゆっくりと伝播し、予想以上に低い音を響かせた。
彼女が一つ瞬きをすると、そこにはカセットコンロとその上に置かれた鉄板。そしてその隣のテーブルには肉がこれでもかと山積みにされていた。
彼女がコンロに火を付けると扉が開き、彼女と同じような白衣を纏った沢山の大人たちが出てきた。中には人に見えないような生物までいる。
それぞれが談笑をしながらガツガツとその焼肉を食べ始めた。
彼女はそれを苦笑と共に見つめていたが、いつの間にか半分ほどの肉が消えている事に気付き、急いでその中に入っていった。
周りの大人たちはそれに気付き、彼女に道を開け、あるいは肉を分けていた。
今日は彼女、タンポポ博士の世界を変えることになるかもしれない論文が完成した日だ。
ドレガン・チェヌシュの問題、つまり、あらゆる事象は各個人の生まれた世界の法則に則る、というものが科学的に解明された事があらゆる世界に公開されるのだ。
そして、その解明に伴って新たな問題が判明していた。詳しくは分かっていないが、世界の均一化がそのうち起こると予想されている。
タンポポ博士の次の研究は「世界の均一化」になりそうだ、と他の研究員は考えていた。
実際にそうなるのだが、この時はまだ知る由もない。
本作は、「ごちゃまぜ:その2」とか、「生徒七不思議」の四話目とかと関係あり。






