元女勇者、今世は悪役令嬢?になる?
勢いで書いて、投稿。
ノエリア・ルルーシュ8歳。
初の悪役令嬢に燃えてます!
今だって頑張って意地悪な言葉で姉さまをイジメているの。
「姉さま。侯爵令嬢とあろう者が、こんなことも出来ないとは、資質がないではなくて?」
決まったでしょ!
周りの侍女や使用人も、どう対応してよいのかわからないようで、皆戸惑っている。
そうよね。戸惑うよね。
「そんなことを言わないで、ノア」
姉さまの少し悲しそうな声に少しだけ怯むけれど、前世「勇者」「賢者」「聖女」「精霊の愛し子」とあらゆる特殊な職業をこなしてきたあたしには、こんなことで揺らぎはしない。
抱きしめられて優しく頭を撫でられても、ぎゅっとされておでこにキスをされても・・・、怯まないのだ。
だけどちょっとだけ、ぎゅっとされててあげる。
姉さまの温もりを堪能しながら、過去を思い出す。
あたしの記憶の一番奥にあるものは、日本という国の会社員20歳。高校生でもないのに、男でもないのに、女勇者として召喚された。意味が分からない。
多分、女神もびっくりだったに違いない。憐れんだように、沢山のスキルや技能、加護をつけてくれた。
だからびっくりするほどチート機能を持ったあたしは、簡単に魔獣・魔物をやっつけてしまった。
その時の魔王はあたし好みのイケメン、イケボイス。正直、こんな人が彼氏だったならな。なんて思うほどに、ドストライクでした。
彼も『魔王』なんて役をさっさと降りたがっていたから、瘴気を一気に浄化して、魔力を全て封印すれば、お仕事終了。
彼もただの『狼』となった。
1年足らずで世界を変えてしまった。
それこそこの世界の住人は喜んだが、簡単に生活変化を変えることが出来なかった。そのためにかなりの混乱が生じた。
あたしの扱いにも困ったに違いない。この世界で言う年増だった為に、婚約者どころか力を持つあたしを恐れて、恋人すらできない始末。
山奥でひっそりと魔王だった彼「狼」と小動物相手に癒されながら、この世を去った。
もふもふに囲まれて寿命まで生きることが出来たので、この世界をそこまで恨んではいない。
やりすぎたことを反省した女神は、勇者の時の力を半分以上封印して、この世界の上位ぐらいの人間にと「賢者」の称号を与えた。
小さい時から力の使い方を知っていたあたしは、普通の両親から見れば、化け物を見るようで怖かったに違いない。そうそうに魔術師に託すという名目で、里子に出された。
虐待をされることなく里子に出されたのは、やっぱり加護があったからに違いない。
そこでは力の使い方をしっかりと学べた。それに大人になってからは、それなりのコミュニケーションもとれたので、孤独にはならなかった。そこで親となった師匠と、研究馬鹿として一生を終えたが、もふもふの使い魔がいてくれたので、問題ない。
そして、聖女。始めの勇者から500年後。また瘴気が増え始め、平穏だった世界に混沌が生まれ始めていた。うっかりと癒しの力を使ったら、聖女と認定されて神殿に。
なんてこった・・・。
だけど、もふもふの聖獣様たちといちゃこらしながら癒しの旅は、悪くはなかった。
この世に誕生する直前、あたしは決意する。今回こそは普通の生活をする!と。
だから普通に子供として暮らし、普通に勉強して、恋をして、誰かと結婚して子を設けることを目標に、この世界で産声を上げたのだ。
なに、これ?何か見えてるけど・・・。
「精霊たちが祝福をしています。愛し子の誕生です」
・・・・・・。
もふもふの精霊たちに囲まれて暮らしましたけど、それが何か?
やさぐれました。
で、今回はそれなりに普通に暮らしています。侯爵令嬢の次女として。
なのに、何故悪役令嬢かって?
精霊たちが教えてくれたの。どうやら元の世界では乙女ゲームとして、この世界が存在しているらしく、あたしの役どころは悪役令嬢なんだって。
精霊たちは笑うのよ。似合わないって。
あたしでも正直そんな振る舞いをしたことなんてないから、微妙なのはわかってるの。だけど普通を楽しみたいじゃない?だから敢えて、やってみることにしたの、悪役令嬢というやつを。
「でも、姉さまに才能がないのは、確かなのです。ですから、大人しく待っててください」
上目遣いでウルウルさせてみれば、効果覿面!
部屋で大人しくしてくれることになった。
本当に勘弁して。
妹と一緒にお菓子を作りたいとか、わがまま言わないで欲しい。どの世界に王太子妃になることが決まっている侯爵令嬢が、粉塗れになり、火傷を負うとか、ダメでしょ。
さっさと火傷は治したし、粉塗れで白く御婆さんみたいになった髪も、クリーンを掛け綺麗にしたから問題ないけど、冷や冷やする。周りの者たちは強く言えない立場のため、余計に寿命が縮んだに違いない。
愛する姉さまはかなりの天然で可愛いが、その分あたしがハラハラしてばっかりで、大変だ。
みんなのホッと弛緩した空気が漂う。
本当ならば侯爵令嬢の次女たるあたしにも、大人しくしてもらいたいと皆思っていると思うけれど、それは残念ながらできない。
お菓子はまだ?とつぶらな瞳で訴えかけてくる、もふもふ精霊たちが集まってくるからだ。
このもふもふ精霊、とてもあざとい。
普段は姿さえ見せないのに、お菓子の前だけ姿を現して、強請るのだ。
「ノアの作ったお菓子が食べたい」と。
そうなったキッカケは些細なこと。お菓子が作れる環境になったのだから、作ってみたいじゃない?
今まで何百年も前にしていた、普通のことが出来なかったのだ。なんでもやりたいに決まっている。しかも悪役令嬢なのだ。我がままし放題である。
何百年ぶりに作ったケーキ。それを物欲しそうにしているから、ちょっとだけよ、とあげたこと。
これが間違いだった。
「あの子にあげたのなら、あたしにもちょうだい!」
それから毎日、お菓子作りをさせられている。
あたしパティシエにでもなったほうが良くない?
「ノア、庭に水を撒いて、花たちに元気注入してきた。だからご褒美ちょうだい」
「あたしだって、昨日姉さまと王宮に行って、魅惑のボディ、もふもふでみんなを癒してきたわよ」
「僕は森で美味しい果物持って帰ったよ。後で庭にも植えてあげるね」
「僕は温泉見つけたもん」
あ、うん。ありがとう。
悪役令嬢ってなんだろうね。学園にでも通うことになったら、なるのかな?
取り合えず、お菓子作ろう。
お菓子作りに必要な器具は、ばっちり錬金で作っている。
固まったバターもすぐに溶かせるし、卵の泡立てだって魔法で簡単にできる。
粉を振るうときだけ手作業をして、用意したものをサクッと混ぜてしまえば下地は出来上がる。
火加減は火の精が勝手に見てくれるし、番をすることもない。
紅茶を飲みながら焼き上がりを待つばかりだ。
まあ、お菓子は色々他にも知っているけれど、一気にグレードを上げる気はない。このままだと悪役令嬢なんてやる前に、本当にお菓子作りで人生が終ってしまうことになりそうだからだ。
今も仕事をしてきたのだとお菓子を強張る精霊たちに囲まれ、エプロンを付けている。
今日は精霊たちが取ってきたという果物で、ジャムとジュースを作る予定だ。
出来上がった途端に減っていく様子に、やれやれと一休みをしていた。
家族と自分ようにと必死に確保したものが目の前にある。
精霊が住む森にあるのだという珍しい果物を使ったジャムクッキーなので、みんなに分けてあげたかったのだ。
滅多に食べられない物だと、はしゃいだ火の精が少し焦がしたクッキーを見る。
果物は赤み掛かったブルーベリーのような物だったので、見た目は少し茶色になったものの、ほんのりピンクで可愛く仕上がっている。
家族とはいえあげる前に、ちゃんと味見はしておきたい。一枚とって口に入れる。
表面はサクッとしながら、中は果実でしっとり。
中々の出来だと思う。これなら、お父様、お母様、姉さまにも、食べてもらえる。
スキップをしながら廊下を歩いていると、姉さまがやってきた。
「いい匂いをさせてるわね、ノア」
「クッキーを焼いたの。とても美味しいです」
そのまま姉さまと手を繋いで、家族がいる場所に向かう。
これからみんなでお茶をするのだ。
みんな美味しい!と絶賛してくれた。
お父様は果物のことを聞いて、かなりびっくりされていたけれど、何度も頷きながらクッキーを味わっていた。
本当に希少な果物だったようだ。
抱き上げられて、イケメンなお父様に頭を撫でられるのは、うん。悪くない。
「ノアの作ったこのクッキーは本当にすごいね。疲れが飛んで行ったよ」
(これは王宮に献上せねば)
娘を愛する大げさなお父様。そこまで褒めちぎらなくても・・・。
照れるじゃない。
って、思ってました。
お世辞じゃなく、本当に疲れがとれたみたい。
それだけでなく王宮に言った後、お仕事が忙しくて戻ってこれていなかったにもかかわらず、二日後あったお父様は、5歳は若返ったと艶々した肌になっていた。
どうやら、やっちゃった系の事案発生。
・・・。
精霊はなんてものを持ってくるのだ!
そしてお父様の話であたしは、頭を抱えた。やっていいレベルじゃない。
どうやら隣国の第二王子が、予言を得てこの国へとやってきていたというのだ。
その第二王子は、生まれてからすぐに、しゃべることが出来ない奇妙な病気か呪いに侵されているらしく、どの医者や魔術師に見てもらっても、わからないの一点張りだそうだ。
そこで藁にも縋る思いで魔女に予言を請うてみた。すると、意外な予言をしたそうだ。
『隣国で縁を得ることで、第二王子はしゃべることが出来るようになるだろう』と。
そう言われてもこの国でもそのような事例は初めて、どうしようにもなく、口の堅い臣下に何かいい手はないかと、考えさせていたところだった。
架空の果物とまで言われた物で作ったクッキー。忠臣であるお父様は、それを持って行った。
毒身と称して王様が、それをみた王妃様が食べ、その効果を実感すると、すぐに試されることになった。
食べた途端に、第二王子はしゃべった。
「このクッキーを作った者に会いたい」と。
あれよあれよと謁見することになったというわけ。
ドナドナの気分で、王宮に向かう。
あたしの人生、平凡何て言葉どこにもない。この世界に召喚されてからの人生、振り回されっぱなしである。
あ、もしかして、これが悪役令嬢の始まりなのだろうか?
精霊たちにどうなの?って聞いても、ニヤニヤするだけで何も教えてくれないし、いったいなんなのさ。
王宮に入った途端にこちらです、と案内されたのは隣国の第二王子が寝ている客間。
先に王様に謁見してからじゃないんだ。不思議に思いながら、案内されたまま中に入る。ちなみにお父様は、二人きりで会わせられない、付いて中に入ると言い張っていたらしいが、そこは却下されたらしい。
部屋の中に入ってすぐ侍女はいなくなり、本当に二人きりになった。
えーと、声を掛けられたら名乗ればいいのかな?
少しだけ俯いて待っていたが、一向に声がかからない。
ちょっと首が痛くなってきたので、子供だから許してもらおうと顔を上げた。
泣いていた。
なんで?!
号泣だ。
ちょっと待って、あたしが泣かしたみたいじゃないの!これが悪役令嬢なの?!
悪役令嬢ってなんだと思っていたところに、これである。パニックになった。
それでも自分は大人なのだからと、気を取り戻して声を掛けた。
「王子殿下、どうかされましたか?」
「リン、我だ。覚えてないか?」
・・・鈴子と後にも先にも呼んだのは、一人しかいない。あの時皆あたしのことはを「勇者様」と呼んだ。
あの時、名を聞かれて「すずこ」が言えない魔王には、こちらの名前風にリンと名乗ったのだ。
「魔王?」
「そうだ。覚えておったか」
「え、本当に、あのアドニスなの?」
「ああ」
「あの、もふもふのフェンリルだった、アドニス?」
「ああ」
「どういうこと?!」
『それは、私からお話ししましょう』
突然精霊たちを従えてやってきたのは、女神。勇者として召喚されてきたのを申し訳なさそうに、死なないようにしてくれた女神だった。
『あなたはこの世界に十分貢献してくれました。魂を地球に戻すことは出来ない代わりに、この世界で幸せになってほしかったのですが、始めに渡した加護が強すぎて、それからも平凡とは呼べない人生となってしまった。やっとここに来て、あなたの望む人生を与えられそうです』
「あれから我も転生を繰り返した。魔王の役が終り、平凡な人生を歩もうと思ってきたが、中々難しかった」
でしょうね。あたしもだし。
「我はリンとの再会を願ったが、輪廻転生には流石の女神も関与できない為、ずっと待っていた」
まっすぐに目を見られて、ドキドキする。
あの時の魔王に面影が重なる。
なに、これ。
『あなたは望みました。普通に子供として暮らし、普通に勉強して、恋をして、誰かと結婚して子を設けることを目標にすると』
え、あ、はい。
前世ですね。今それを言いますか?
何百年も恋をしていないとしても、流石にこう熱く見られたら、わかってしまう。そしてそれが嬉しいと思っていることも。
だからこそ、本人目の前で言わないで!
あたしの目の前で、膝をついた元魔王アドニスと目が合った。
「我、アドニス改め、クラウディオ・フローレスは、ノエリア・ルルーシュを妻にと望む」
王子、降臨!
「リン、これからずっと一緒にいてくれないか。魔王だったことは仕方ないと思っている。そうでなければリンとは出会わなかった。だけど、まさかフェンリルになろうとは思わなかった。温かな毛でお前を包むことは出来ても、抱きしめられなかったことを悔やんだ。何故、同じ種族ではないのかと」
ここで魔王降臨?!
イケボイスで耳元で囁かないで!
あ、王子に戻った。
「ノア、って呼んでいいか?」
「勿論、よ。ティオって呼んでもいい?」
「勿論、呼んでくれ」
この色気駄々洩れの第二王子、ティオ。これで12歳とか、絶対にヤバくない?
一歩踏み外したら、悪役令嬢に本当になりそうなんだけど。
『それは、ない、ない』
精霊が顔を頷きながら、手を横に振る。
『ヒロインも真っ青』
『逃げ出すレベルの加護もちー』
女神も強いって言ってたもんね。
『魔王の執着は女神も真っ青』
『逃げたくなったら、お菓子くれたら逃がしてあげるよ~』
なんだか不吉なワードを聞きながらも、今を受けれた。
「その時は、お願い」
『いいよー』
困った顔のティオを見ながら決意する。
『悪役令嬢』になる時が来たら、その時考えたらいい。
その時がくれば、堂々と立ち向かってきましょう!
『女勇者』『賢者』『聖女』『精霊の愛し子』
どれをとっても、『ヒロイン』になんて負ける気がしない。
「ノアには一生勝てる気がしないよ」
・・・ティオがヤンデレにだけにはしないように、頑張るよ。
読んで頂き、ありがとうございました。