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鷹は寝たい

 あ、ありのままに、今、起きたことを話そうと思う。

 俺は今朝、"()になった"らしい。で、これから"戴冠式・・・と舞踏会が執り行われる"らしい。

 何を言ってるかわからないと思うが俺もわからん。というか解かりたくない。


 俺さ、今日も素敵にのんびり引きこもりな1日を過ごすべく、無事、太陽が空のてっぺんにかかったくらいに起床したんだ。

 そしたら、俺の部下の代表格3人がベット脇で控えてて「陛下、お早うございます」とか言ってきやがったんだ。

 洒落だって思うだろ?『いよっ!お大尽!』とか『ねぇ王さまぁ、わたしもう一本ブドウ酒飲みたいネ』とか、そういう類のだと思うじゃない?

 普通それで自分が国王になったとか、頭のおかしい勘違いしないよな?なんならむしろ遅くまで寝てることに対する嫌味かと思うよな?

 それでさ、俺は寝ぼけてたのもあって、その時は突っ込まなかったんだ。もっかい寝るから起こさないでって言って、そのまま二度寝したよ。

 なのにさ、次に目覚めたら、俺の右腕的立場のやつがさ、床で正座してるわけよ。あ、正座ってわかる?獣人独特の習慣なんだけどね、膝揃えて足畳んだ座り方。畏まった時にしたり、相手を敬ったり、謝意を伝えたり、反省を示しすのにしたり、敵意がないのを伝えるのにしたり、まあ、汎用性の高い意思表示の方法なんだけど。

 寝起きで横見たら、正座して、瞬きもせずにじっとこっち見上げてる奴がいるとか、びびるじゃん?

 そんで「申し訳ありませんでした、陛下」とか言われたら、さすがに今度はスルーできないでしょ?で、聞いたらさ、「二年もかかってしまい……どのような処分でも甘んじて受ける所存です」

 とか今にも切腹しそうな思いつめた表情で言うわけですよ。いやもう慌てるよね。

 普通に理由聞くよね。

 聞いたらさ、俺がいつの間にか国とれって命令したことになってる。

 おかしくない?

 おかしいよ!断じておかしい。

 おかしいけど、うちの部下どもが暴走するのはこれが初めてじゃないから、なんだかんだ慣れてるよ。無駄に優秀なやつらそろったせいで、冗談みたいなこと現実化してきやがるからすげー質悪いんだよ。


 え?俺が誰かって?そ、そうだな。あまりにも突然のことで少々混乱していたようだ。失礼。

 まず自己紹介だな。

 俺はセーシュ・エリウス・ファルケ。ここエウアスト王国の端っこに、猫の額くらいの領地を持ってる貧乏伯爵家の長男。弟と妹がひとりずついる。

 伯爵家って言っても、名前の重みなんて羽のように軽い。

 なんせ莫大な戦費で火の車の台所を備え付けてるうちの国は、金と引き換えに爵位を乱発してて、石を投げれば貴族にぶちあたるって状況なんで。公爵サマなんかは流石に少ない(それでも30人からいる)けど、伯爵なんて数えるのも嫌になるくらいうごめいてる。国民皆貴族なレベル。

 ついでに言うと、国王がエロオヤジだから姫とか王子もわんさかいる。聞いて驚け。王位継承権、第百位とかまで決まってるんだぜ。

 ……うん、俺が国王になるとか意味がわからない。

 ああ、歳は二十ね。一昨年、無事にかったるい貴族(笑)御用達の王立学院を卒業しました。まじで辛かった。何が辛いって、全寮制の寄宿学校とかふざけてるとこだったから、生活全部管理されんの。

 日が昇る前に起きなきゃなんないんだよ。信じられないでしょ。しかも上の学年の連中がやたら偉そう。雑用とかめっちゃ押し付けてくる。一年は強制舎弟だから、兄貴一人選べっていう、死ぬほどウゼェ伝統がある。あと触ってくる手つきがたまに怪しい。俺は全部余裕でかわしたけどね!

 まあ、でも俺も一応、学院在籍中にやっときたいことがあったから、そこはそれなりに頑張ったよ。

 ナンパを!!

 ユーうちの領に来ちゃいなYO!って。

 将来、らくしたいから、適当に優秀なの見つけてはくどいてました。なんせ、田舎領主なもんで、まともな人材探そうにもいないんだよね、地元だと。知識とかは置いといて、地頭もあんまよくなかったりすんのよ。話が噛み合わなくて困る。いちいち全部説明すんのも疲れる。口が。

 さらに言うと、都合の悪いこともいいことも全部、なんとかって神様のせいにして何も考えないんだよ、これはうちの領だけじゃなくてお国柄なんだけど。

 思考がすごく省エネ。

 俺より頭使ってない点は羨ましいと思う。

 あんな、台車持ってこないと運べないレベルで分厚くて大量にある教典(ルールブック)、読む気にならないから、俺にはできない。

 思考放棄という究極のエコロジーを成し遂げた連中は素直に尊敬する。

 人生、若いうちに苦労しろって言うじゃん、年寄り連中は。

 あいつらそれを地でいってるよね。大量のルールブックを苦労して覚えて、あとはそれに従って生きりゃいいんだから、すげぇ楽だと思うわほんと。

 ただ、それはそれとして、さすがに意思疎通できないのは本当に疲れるんで、最低限はなんとかしろって親父に言いました。だってあのままだとあいつら、他国の商人に好き放題カモられて餓死しそうだったんだもん。

 神様はさ、あいつらの心は救ってくれるかもしれないけど、明日生きてくパンもブドウ酒も保障してはくれないからな。ついでに、同じルールブックに従ってプレイしてない他国の商人れんちゅうにルール遵守を求めるとか何言ってんのってなるでしょ。ルールを守るか決めんのは本人で、他人には強制できないんだよ。

 個人レベルではね。国とかは大きめのバックボーンがある権力は別。

 だから領内で対応統一して周知して、適切に処理する必要があったんすよ。


 そのうち解決するんだろう。うちの親父めっちゃ優秀だし。けど、それでも即戦力が致命的に足りんのよ。

 だからワタクシ、中央に出てきているこの機会に、なんとかしようと決意してました。一応跡取りだしな!

 六年間、目ぼしいやつに声かけまくって、うまいこと付いてきてくれる連中も集まった。何人かには条件出されたりもしたけど、そこもうまく処理した。

 財布の関係で雇えなかったけど、最後の方は立候補してくれる人なんかも出てきて、俺の地道な努力も捨てたもんじゃないなーと思えたよね。またやるかは別として。

 そんな感じで引き抜きに成功して、人手も確保できたし、親父はまだ三十代で、あと三十年くらいはピンピンしてるだろうし、執務なんて全て親父と部下どもに丸投げして、俺は夢と希望の食っちゃ寝生活を送る予定だったのに。

 予定だったのに!

 なんだよ国王って。

 とりあえず事情聴取をせねばならない。ああ、だるい。



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