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闇に消ゆ  作者: 如月 恭二
2/5

切っ掛け

前書きとか言ってね、ネタは無いのよね(ヾノ・∀・`)

強いて言うなら、取っ掛かりを書くから結局長くなるってことくらいですか……。

 「あ~、もう! 全っ然伸びて無いじゃないの!?」


 明るめに染めたブラウンの髪を振って、岡田陽子はパソコンを前に喚いた。ディスプレイには、動画投稿サイト。YouTubeが開かれており、彼女は自作した廃墟探索の動画を確認していたのだ。

 心なしか荒い手付きでクリックすれば、剽軽(ひょうきん)な調子で説明を始める自身が映った。再生回数は良くて三桁程度、有り体に言って間抜けにしか見えない。


 「そんなこと言っても、要は面白くなかったんだろ? 話としてはこれ以上無い、分りやすい構図だ。ほら、よく言うだろ『客の目は正直』ってな」


 「──敏君、うるさい!」


 ミステリー研究会の部屋に、自棄(やけ)っぱちな陽子の声が響いた。モデル顔負けの容貌をしかめ、読書を楽しむ彼氏──佐伯敏彦に詰め寄る。髪はオールバックの黒。眼鏡を掛けており、切れ長の眼に映えて怜悧(れいり)な印象だ。

 あぁ、またいつもの惚気(のろけ)話か。誰かが言った言葉に、陽子の顔が赤くなった。


 「大体、貴方のカメラワークも悪いのよ! 手ぶれが酷いじゃない。こんなんじゃ、視聴者も逃げちゃうわよ」


 「仕方無いだろ、元々俺は剣道部。カメラだのなんだのは門外漢でしかない。そこまで言うんなら陽、今からでも鞍替えするかい──映研に?」


 「……馬鹿ッ」


 馬鹿はどっちだと、周りの視線が陽子に集中した。無鉄砲な上に廃墟マニアで、大のオカルト好き。最初はお持ち帰りを企んだ好き者連中も、彼女の変人ぶりに閉口するしかなかったようだ。今では言い寄る者はおろか、ミステリー研究会の面々でさえ白い目を向ける始末だった。

 ましてや、ユーチューバーとして活動するなどと誰が想像出来ただろうか。更には恋人にカメラマンをさせるという暴挙に及ぶ、謎の行動力の発揮。

 ──黙ってさえ居れば美人。

 本人の与り知らぬところで、そんな不名誉極まりない認識がされていた。

 その事実を敏彦は知っていたのだが。何より、陽子は美人だ。幼馴染で恋人でもあるからか、彼に対するやっかみも数知れなかった。

 聞こえよがしに彼は溜め息をひとつ。それでも、陽子はヒートアップする一方だ。


 「なあ、もうやめないか? お前、夜も俺と一緒じゃなきゃ怖いって言うだろうが」


 「……なっ!?」


 「危険なことは止してくれ……もう、あんなのは沢山なんだよ」


 陽子は、束の間黙り込む。廃墟に探検ごっこと称して遊びに行った幼少期、陽子は古釘を踏み抜き、一人取り残されたことがあったからだ。探検に飽きてかくれんぼをしていたせいで、姿を見せない彼女に他の子供が痺れを切らすのはすぐだった。陽子が既に帰ったものとして、置いてきぼりを食ったのだ。

 たまたま敏彦が、其処に向かうということを伝え聞いており事なきを得たのだが、大人達の手によって助け出された陽子は発熱し恐怖で震えていた。後で聞いた話だが、まるでうわごとのように暗い、怖いと連呼していたらしい。古釘が元で激痛は走り、傷口は化膿して腫れ上がっていた。

 年上の子供も喧嘩で捩じ伏せる程きかん坊だった佐伯が、泣きじゃくって目を覚ました陽子にしがみつく。

 そんな過去の光景がフラッシュバックした。


 「でも、ごめんね。これはあたしの性分だから」


 「……そうか」


 諦め交じりに、陽子は言った。場の空気が一瞬、凍りつく。

 ところがすぐに、


 「『好奇心猫を殺す』、知らないの?」


 「黒魔術の歴史は結構古くてな……」


 「黒魔術って言うと、秘密結社だよな。イルミナティが有名だけど、どうなんだ?」


 非難の言葉を投げ掛けたり、思い思いの蘊蓄(うんちく)を語りだした。

 眉根を寄せ、頭を掻きむしりながらネットサーフィンを始めた陽子は、ある廃ホテルの記事に目を留める。彼女が声をあげたことで、読書を再開した佐伯が「またか」とぼやく。


 「なになに? あぁこれ、登高ホテルじゃない。林檎(りんご)園の向こう……通りで林檎園は何もない訳だわ。本命はホテルの方じゃないの」


 陽子が何気なく言い放った単語に、皆が硬直した。


 「……陽子あんた、まさか登高ホテルに行くっての?」


 「え、行くけど?」


 「止せ止せ、あそこだけは本当にヤバいから」


 登高ホテルとは、数年前に建立された施設だ。

 県境で山間部に在り、その景観を売りに経営を始めた。そこまでは順調だったのだが、ある日を境に赤字経営となる。

 崖が近いことも手伝い、自殺者が現れたのだ。昔ながらの吊り橋が掛かる下には清流もある。小洒落(こじゃれ)た宿泊施設は一転、自殺の名所となった。無論、最初は興味本位で訪れた客も居たが、やがて誰も訪れなくなったのだ。

 更に、半年程前には自殺志願者が強姦殺人に遭うなど、陰惨な事件も起きてしまった。

 背景から察するに、夜の林檎園が不気味という書き込みに上塗りされ、登高ホテルの事件があまり取り沙汰されなくなったらしい。情報が混在しているが為に、陽子はそこまで知らなかったようだ。何より、ここから数十キロは離れている。だからこそ、無理もなかった。


 「へぇー、そうなんだ! もうちょっと詳しくお願い」


 彼女の探求心に火が付いたと、敏彦は痛感した。


 「なんでも、俺の先輩がそこで人形を拾ったらしい。何日かして無くしたんだが……そこで肝試ししてた奴が、その人形をそこ(・・)で見たってんだよ。馬鹿馬鹿しいと思うかも知れねえが、その先輩は嘘や冗談を言う人じゃなかったんだよ」


 「興味深いわね──ね、敏君?」


 「お前だけだろ、いい加減にしろ」


 「肝試しに行った高校生の内、一人が消えたって聞いたことがある。何人かあそこで失踪しているとかいう噂もあるわ」


 冷や水を掛けるように、ある女子が言った。

 公にはなっていない、地元だけの噂だ。警察としても、「心霊スポットで行方不明者」などとは言いづらいだろう。再三にもわたる捜索を行って尚、彼女──失踪したのは女子学生だった──の所持品しか見付かって居ないということを風の便りで知っている。事件というのも案外記憶に残らないものだ。ああでもない、こうでもないと騒ぎ立てるのがいい証拠である。

 警察では誘拐、ないし何らかの事件に巻き込まれたものとして捜査を開始したものの、手掛かりひとつ見付けられていない。

 怪現象も頻発することから、一ヶ月後に取り壊しが決定されている。

 そんな不可解な話にも、陽子は目を輝かせた。


 「凄い。何て言うか、本当に凄いわ! さぁ敏君、準備をするわよ!?」


 「人の話を聞け」


 「再生回数、五桁(ごけた)は固いかもね! また敏君と二人きりだよ。あたし楽しみ~」


 「──聞けよ、オイ」


 敏彦が低音で釘を刺そうとするが、彼女は止まらなかった。助けを求めて周りの人間に目を向けると、誰もこちらに関心を寄せていない事に気付く。


 「よし、善は急げだ。安全靴に、革手袋。応急キットも用意しなきゃだね!」


 「もう好きにしろよ。引っ張るな……服が伸びるだろ」


 押しの強い陽子に、引っ張られながらも敏彦はまんざらでも無さそうに抗議する。しかし、火事場の馬鹿力か、彼をずるずると引きずって退室して行った。

 騒がしいのが居なくなったと、室内にそんな雰囲気が漂い始めた、その時だ。


 「うちの従兄弟も、登高ホテル(あそこ)で行方不明になってるんだよね……」


 不穏な話を上塗りするように、一人が言った。


 「……行ったら、暫くはまた静かになるだろ。なんだかんだ言って、すぐ帰るのは何時もの事さ。行方不明って言ったって、家出とかあるだろ。大喧嘩しても、ほとぼりが冷めたら皆戻って来るもんだよ」


 その言葉を皮切りに、また普段の談笑が戻る。従兄弟の話を切り出した女子は、「何も無ければいいけど」と(ささや)いた。

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