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闇に消ゆ  作者: 如月 恭二
1/5

籠の鳥

ホラー企画参戦用の作品。

遅筆で間に合いませんでしたら申し訳ありません。


 最初は、軽い気持ちだった。

 何処に行っても、殆んどが同じ──ただ雰囲気がそれっぽいという、安っぽいレッテルに浮わついていた。

 心霊スポットなど、見かけ倒し。岡田陽子は、そうやって決めつけていた。実際に見たものは信じることが出来ても、そこに無いものを信じろという者の気が知れなかったのだ。

 ──少なくとも、それ(・・)を見るまでは。


 「待て、陽子!」


 恋人の制止を振り切って、彼女は廃ホテルの通路を走る。散乱した瓦礫(がれき)や廃材に足を取られそうになりつつ、それでも前を目指した。

 目に浮かぶのは、敏彦と訪れた崖の事だ。

 日付けが変わる頃、自殺の名所と名高いそこへ足を運んだ二人は、そこで信じられないものを目撃した。

 ──幽霊である。

 それには足がないなどと誰が宣ったのだろうか。覚束無い足取りに最初は自殺志願者と思い、声を掛けた。だが、彼女は意に介する事なく歩を進め──身投げしたのだ。

 下を確認し、ふと顔を前に向けると、そこには崖の下に消えていったはずの女の姿が在った。

 ほんの一間もない距離に、重力に逆らい浮遊している姿が──。

 彼らは直感する。

 長い黒髪の向こうには、柘榴(ざくろ)のように砕けてひしゃげた顔が覗いているのだと。そして、彼女はきっと仲間が欲しいのだと言うことだ。


 ──彼女の口の端が(いびつ)につり上がる。


 そこから二人は一も二もなく逃げ出した。

 客室のある通路を抜け、エントランスホールに出たところで、陽子はようやく我に返る。湿った空気と(カビ)、セメントの香りが鼻をつく。まるでここに到着したばかりであるかのようだ。いっそのことそうであるならどれだけ楽だろうかと、そこまで考えたところで彼女は愕然(がくぜん)とした。

 振り返って辺りを見渡しても、彼の姿が何処にも無かったからだ。うっすらと記憶しているのは、逃げる時に陽子を呼ぶ声が後ろからしていることだった。


 「敏彦……?」


 恋人の名を呼ぶ声が、虚空に響く。

 背筋を冷たい汗が伝うのが分かる。最も忌むべき想像が為された。それは敏彦が戻ってこないという事態だ。先程のモノ(・・)と共に彼岸へと引き摺り込まれたのではないか、と──。

 どうしようもなく喉が渇き、握った拳が震えた。


 (すぐに、戻って来るよね……?)


 「敏彦~、何処なの!? 早くしないと置いて行っちゃうわよ?」


 明るく振る舞おうとする声が僅かに上擦る。言い知れぬ不安と恐怖が、彼女の心に暗雲をもたらしていることの証左だった。

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