ナオ。
「ちょ、ちょっと!?何よその魔核!?」
浩二が掌で転がす出来たてホヤホヤの魔核を見てソフィアが目を剥く。
「え?何って、自前の魔核だけど…」
「前に見た時と違うじゃない!」
「あぁ、エルダードワーフになってから作れる魔核の純度が上がったみたいなんだ。」
「聞いてないわよ!…まさか…ミラルダにあげた魔核って…」
「あぁ、うん。この魔核に生命力を限界まで込めて渡したよ。12、3個。」
「…その純度の魔核を…12、3って…」
ソフィアが額に手を当て力無く首を振る。
「…ソフィア?」
「…前言撤回よ。その魔核なら…数個売れば一生遊んで暮らせるわ…」
「マジで!?」
コレが数個で…!?
浩二は魔核を人差し指と親指で摘みマジマジと見詰める。
「もっと驚くのは…それだけの純度の魔核十数個に限界まで生命力を込めてもピンピンしてる浩二の体力の方よ…」
「いやぁ、そんなに褒めるなよ。」
「褒めてないわよ!呆れてるのよ!」
「ええー…」
「…そりゃ、その魔核数十個使って作れば上位種にもなるわよ…」
「…やり過ぎた…?」
「…間違いなくオーバースペックね…ナオが身体の性能に振り回されなきゃ良いけど…」
「…ナオ…すまん。」
浩二がナオに向けて両手を合わせ詫びを入れていると、眠ってる様に動かなかったナオの瞼がピクリと震えた。
「…ナオ?」
「…うぅ…ん…っ……浩二…?」
ナオの瞼がゆっくりと開き、目の前の浩二の姿を捉えると…
「…浩二…っ…浩二ぃっ!!」
「うおっ!?」
一糸纏わぬ姿で浩二の名を呼びながら、目にも留まらぬスピードで浩二に抱き着く。
そして…そのまま轟音を伴い浩二ごと後ろの壁をブチ抜いた。
「ちょっ!?ナオっ!?」
「浩二ぃっ!浩二ぃっ!!」
パラパラと瓦礫が降る中、力一杯浩二を抱き締め胸に顔を埋めながら何度もその名を呼ぶ。
「…お帰り…ナオ。」
「うん…うんっ!ただいまっ!」
優しく頭を撫でられながら満面の笑みで言葉を返す。
パッと見は感動の再会なのだが…
余りにも衝撃的過ぎて言葉も出ない面々。
壁をブチ抜く勢いで抱き着く方も大概だが、自らで壁をブチ抜きながらも平然と受け止める浩二もどうかと思う。
「…はぁ…ま、取り敢えず…お帰り、ナオ。」
「うん!ただいまっ!ソフィアちゃん!」
やはり一番最初に気を取り直したソフィアがナオを迎える。
浩二に馬乗りになりながら笑顔で応えるナオ。
「それはそれとして、まず服を着なさい!服をっ!」
素っ裸で浩二に馬乗りになっているナオに駆け寄り用意してあったのだろう白いワンピースをズボッと頭から被せる。
「んしょっ…と。ありがとう、ソフィアちゃん。」
袖から腕を出しながらお礼を言うナオ。
浩二に馬乗りのままで。
「良いから、さっさと浩二から退きなさい!」
「えー!」
「えー!じゃない!貴女下着も着けてないのよ?」
「あ、そっか。私、もう猫じゃないんだもんね。」
「まぁ、半分位は猫みたいなもんだけど…後から私の下着を…って…入るかしら…?」
ナオの身体を上から下まで視線で流した後言葉が尻すぼみになる。
明らかにソフィアとは違う体型だ。
「コージの変態っ!」
「え!?俺!?」
自らの身体をチラリと見た後、遣る瀬無さの矛先が浩二に向いた。
そして、壁にポッカリと開いた穴の向こう側の三人の賑やかなやり取りを見ながら、ギャラリーが我に返ったのはもう少し後の事だった。
□■□■
「よーし!行くよーっ!」
訓練所にナオの元気な声が響く。
だが、元気な掛け声とは裏腹に物凄いスピードで浩二へと迫るナオ。
しかし…
「…あれ?」
気付けば浩二の横を通り過ぎ数m離れた所で地面に四つん這いになりながら急ブレーキをかけていた。
「だから言ったろ?少しづつ慣らせって。」
「う〜ん…この身体見た目は凄く好みなんだけど…出力おかしくない?」
やはり完全に身体に振り回されている様だ。
なまじ高性能な身体ゆえ頭で考えた動きが寸分の狂いも無く実行出来てしまう。
しかし中身は元普通の人間だった訳で、最近までは猫だった。
身体は動いても中身がついて行かないのだ。
今の動きも単純に高速で浩二へと迫る予定が、気づいた時には横を通り過ぎていた。
いくらスペックが高くても操縦者のレベルが追い付いていなければ宝の持ち腐れである。
「ゆっくり慣らそう。ちゃんと付き合うからさ。」
「うん。ありがとう浩二。」
「で、やっぱりいきなり組手はハードル高いからさ、取り敢えずその辺を適当に走ろうか。」
「りょーかい!」
浩二とナオは訓練所の壁伝いにゆっくりと走り始めた。
訓練所の外周は大体7、800m位で、そこを二人並んでゆっくりと走る。
すると、走り始めて直ぐに走り寄ってくる二つ影が二人と併走しながら話し掛けてくる。
「兄貴、何やってんだ?走り込みなんて珍しいな。」
「あぁ、ナオの慣らし運転だよ。」
「お兄さん!ナオちゃん!私も一緒に走るー!」
「構わないけど…徐々に速度上げてくからな?」
「蓮ちゃんも一緒に走るの?」
「走るーっ!」
「俺も。行ける所まで着いてくわ。」
こうして、ナオの慣らし運転という名の持久走が始まった。
□■□■
「はぁ…はぁ…はぁ…あぁー…っ!もう走れんわ!」
最初に脱落したのは猛だった。
「猛ーっ!だらしないぞー!」
息も絶え絶え訓練所の地面に座り込んだ猛を追い越しながら後ろを振り向き声を掛ける蓮。
彼女はまだまだ余裕そうだ。
「あー…何でも良い、後は任せた…」
「んー、了解っ!」
蓮は猛に手を振りながら答えると、遅れを取り戻す様に走り出し二人に追いつく。
「蓮も無理しなくていいからな?実際結構走ってるし。」
「そうだよ?蓮ちゃん。」
「大丈夫、大丈夫っ!まだまだ行けるよっ!」
実際は結構なんてレベルでは無い。
あれから一時間弱、ほぼ全力疾走に近いスピードで永遠と走り続けているのだ。
まぁ、あくまで一般的な全力疾走だが…
「そっか。無理はするなよ?」
「分かってるよー!」
「ナオ?大分慣れてきたか?」
「うん。力加減が分かって来たかも。」
「よし!それじゃ、もう少しスピード上げるぞ?」
「うんっ!」
蓮が付いて行けたのはそこまでだった。
明らかに上がるスピード。
最早疾走ですらない。
蓮は「何処が少しだっ!」と突っ込みを入れたくなるのを堪え、猛の隣に腰掛けるのだった。
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