表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
第一章 ドワーフは魔族!?
8/405

訓練という名のリンチ。


「看守長だ。」


「し、しかしっ!自分達を逃がす為に兵隊長はっ!」



何やら必死に食い下がる兵士A。



「良いんだよ…もう、ずっと昔に俺は看守長になったんだ。」



自分に言い聞かせる様に、それでも前を向いて二人の兵士に言い放つ。



「それよりも…だ。」



スミスは区切るように言葉にして先程の冷たい瞳に戻り、こちらに歩み寄ると



「もし、その兵隊長とやらの下に付いて頑張っていた奴らなら…こんな下らないことしてんじゃねーよ…。」



冷めた瞳を何処か悲しげに色付かせながら、諭すように、叱るように。

そのまま詰所に戻ってしまった。




「魔族とはいえ…済まなかった…。」


「いや、良いんだ。」



何処に向かうか分からない中、無言で連行されたのは変わらなかったが、やがてポツリと呟くように言葉を零した兵士に、そんな言葉しか返せなかった。


でも、心做しか歩く速度が遅くなった気がした。



□■□■



「何がどうなってこうなった?」



だだっ広い広場…いや、広場なんだから広い訳だが。

踏み固められた土。

遠巻きに見える兵士達同士の戦い…違う、アレは訓練か。

と言うことは…



「ここは訓練所か。」



頭の整理が追い付かないものの、自分の置かれた状況を何とか理解しようとする。

訓練所なのは何となく理解出来た。


でも、何で俺が此処に?

冷静を装い頭をフル回転させていると、



「おい!さっさとこっちに来いっ!」



いきなり声が掛かる。



「全く…コレだから魔族は…。」



呆れられた。

なにか?

この世界には説明って物が無いのか?


転びそうになりながらも、手を引かれ訓練所の中央付近に近づいた頃、遠巻きに何やら高そうな装備を身に纏った集団が見えた。



「勇者共か…?」


「貴様っ!何たる口のきき方っ!勇者様達に失礼だろうがっ!」



ゴッという音を立てて頭が痛覚を伴い揺れた。

殴られた。



「ほら立て!これから勇者様達との訓練なんだからな。」



自分で殴り飛ばしておいてまぁ、何を言ってるのか。

ん?訓練?



「訓練って?」


「良いからお前はただ勇者様にボコボコにされてれば良いんだよ。」


「は?」


「物分かりの悪いヤツだな…お前が勇者様の相手をするんだよ。良いか?間違っても攻撃するなよ?」


「……………。」



言葉も無かった。


つまり…だ、ひたすら勇者様の攻撃を受け続けろ…と?

こちらのやり取りに興味が無いのか、いつの間にか軽装になった勇者様達が、木剣を片手に並んでいた。


パッと見30人弱か…。



(よーし!分かったよ!やりゃイイんだろっ!)



□■□■



「あ"~〜っ!痛てぇっ!クソっ!手加減しろよ勇者様っ!」



牢の中へと帰還した浩二は大の字にな半ばヤケになりながら叫ぶ。

身体中アチコチ青アザと擦り傷だらけ。

身体を動かすのもキツい。


アレから訓練…ならぬリンチが始まった。


一言で言えば亀。

浩二はひたすらガードした。


頭を覆う様に腕を上げ、頭だけは死守した。

それでも勢いをつけた木剣の上段振り下ろしを何度か喰らい意識を失いかけた。

身体は言わずもがな。

下っ腹に力を入れてひたすら耐えた。


勇者一人頭五分として、約3時間弱。

38人全員いなかった事が救い…になってねぇ…。



「いやはや…あそこまで全部食らってやること無いのによぉ…。」



だるい身体を動かさず首だけ牢の外に向けると、そこには呆れ顔のスミスがいた。



「なんで避けねーんだよ。」


「避け……。」



全く頭に無かった。

うわぁ…恥ずかしい。



「あ"~〜っ!失敗したっ!そうだよ!避ければ良いんだよっ!」



ジタバタしながら恥ずかしさを誤魔化すように痛い体に鞭打って駄々っ子のように暴れる。



「全く…頭に無かったのか?」


「そうですよっ!悪いですかっ!」


「いや、悪かねーよ、痛いのお前だし。」


「あ"~〜っ!明日は全部避けてやるっ!」


「おう!頑張れよ!」



何処か楽しそうに激励の言葉を残し、スミスは詰所に戻っていった。

牢の前に薄い青色の液体が入った小瓶を置いて。



「薬…?」



スミスの方を見ると、コチラを振り返りニヤリとする。



「ありがとうございますっ!頑張ります!」



浩二の言葉を聞いたスミスは、こちらを見ずに片手を上げ掌をヒラヒラと振りながら歩き出す。


小瓶の蓋を開けて中身を一気に煽る。



「うわぁっ!マっズっ!!」



遠くでガハハハハとスミスさんの笑い声が聞こえた。



□■□■



明くる日の朝。


青アザは多少残っていたものの、擦り傷などは残らず消えていた。



「あの薬…変な副作用とか無いよな…?」



寝起きで胡座をかきながら呟くと



「んなモンねーよ。失礼な。」


「うおっ!?」



当然背後から非難の声が上がる。



「アレは安物のポーションだよ。それなりに効くだろ?」


「あ、おはようございます、スミスさん。ええ…怖いぐらい効きましたよ。」


「そりゃ良かった。アレであの味さえ無ければなぁ…。」


「あぁ…アレは酷かった…。」



二人揃って苦々しい顔を見合わせる。



「さて、今日もだろ?」



気を取り直すように、スミスは何かを期待したような目を向け切り出す。



「はい。今日は全部避けます!」


「本気でか?全員避けんの?」


「はい。全員避けます。」


「………。」



腕を組んで考え込むスミス。



「毎日やってるアレと関係あるのか?」


「まぁ、多少は。」



ふむ。…と唸りながら眉を顰める。



「よし、決めた!今日は見学しよう!」


「は?」


「いや、だからコージの晴れ舞台をだな…」


「止めて下さいよ…恥ずかしい。」


「良いじゃねーか、昨日のも見てんだし。」


「それはそれ、これはこれです。」


「ガハハハハ!まぁ、それはそれとしてだ。あの動きにどんな意味があんのか気になるんだよ。」



浩二の言葉を軽く流しながらも、何処か真剣な雰囲気を漂わせながら言った。



「…分かりました。でも、変な野次とか飛ばさないで下さいよ?」


「馬鹿言え…」



そう言って一拍置くと



「飛ばすに決まってんじゃねーか!」


「来んなよ!」



ガハハハハと豪快に笑うスミス。

この人は何処まで本気なんだか。


まぁ、恥ずかしい姿を晒さないよう予習でもしましょうかね。

浩二はスッと立ち上がると、何時もの日課を始めた。


何時もより念入りに。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ