悪足掻き。
握られた腕から流れ込む生命力に満ち溢れた奔流が一気にリッチーの全身へと行き渡る。
〈ぐあぁあっ!!〉
その奔流は楽々とリッチーの許容限界を超え、苦しみながら必死に浩二の腕を引き剥がそうとする…も、それは叶わない。
〈貴様ぁっ!何をしたぁっ!ぐっ!〉
「何って…生命力の譲渡だけど?…欲しかったんだろ?俺の生命力。」
〈馬鹿なっ!?我が…ぐっ…取り込みきれない等と…〉
「あー…言っとくけど、これで三割弱だからな?」
〈なっ!?〉
リッチーに見開く目があれば恐らくは目を剥いて驚いていただろう。
この世に存在し始めて数千年。
自らの存在を脅かす者など時の勇者唯一人。
その勇者でさえ、滅ぼす事は叶わず封印するに留まったのだ。
なのに…
目の前のこの存在は一体何者だ?
〈貴様っ!一体何者だっ!〉
リッチーは浩二に対して二度目になる質問をする。
「だから、ドワーフだと言ったろうに。」
浩二はそのまま前回と同じ答えを返す。
「巫山戯るなぁっ!!」
「おっ?何怒ってんだよ…そんなに信じられんなら、鑑定で見りゃ良いじゃねーか。」
浩二の言葉にリッチーは軋む身体に鞭打ちながら鑑定をして…
〈こんな馬鹿な話があるかっ!〉
逆ギレした。
「な?だから言ったろ?」
〈ぐあっ…有り得ん…有り得ん…だが…致し方ない…っ!〉
「ん?」
納得がいかないのか、ブツブツ何かを言っていたかと思えば、突然浩二の手を振り解こうとしていたリッチーの抵抗が弱まる。
次の瞬間、リッチーは掴まれていた片腕を切断し一目散に逃げ出した。
「あっ!」
〈肉壁共っ!時間を稼げっ!〉
咄嗟に追いすがろうとした浩二へと全裸の女性達が押し寄せる。
「くそっ!」
流石の浩二も、無抵抗無防備な女性を跳ね除けたり出来る筈も無く、あっさりとリッチーを逃がしてしまう。
「あーあ…まぁ、行き先は一つだろうけど…」
恐らくは結城の所だろう。
万が一違っても、探し出して滅ぼすだけだ。
等と多少物騒な事を考えていると…
「コージっ!」
「ん?ソフィア!?」
名を呼ばれ振り向くと、そこにはソフィアと…
「…………」
今まで見た事の無い冷たい目をしたミラルダさんがいた。
すると突然ミラルダが浩二に向かい歩き出し、その横を通り過ぎると全裸の女性達に向かい掌を向ける。
「……これは悪い夢…今は…ゆっくりお休みなさい…」
とても澄んだ…慈愛に満ちた声を女性達に掛けると、紫の靄が玉座の間一面に広がり全ての女性達を包み込む。
やがて靄が晴れるとそこに立っている者は一人もいなかった。
ミラルダは、一番近くの女性の頬に触れ
「…屑は私がちゃんと始末するから安心してね…」
と、ゾクリとする程の殺気を放ちつつ優しく撫でるとすぐに立ち上がり浩二の方を向く。
「コージ君。お願い、彼女達を一度シュレイド城に送って貰えるかしら?」
「…場所は?」
「訓練所で良いわ。サキュバス達が準備してる筈だから。」
「分かりました。」
浩二は倒れている女性達を務めて優しく城へと転送する。
やがて、最後の女性を送り終えた浩二はミラルダの方へと視線を送る。
「ありがとうコージ君。私じゃあの人数は送れないから…」
「いいえ。彼女達の意識を奪って貰えて助かりました。流石に力技って理由には行きませんでしたから。」
「そうね。それじゃ、屑を仕留めに行きましょう。場所は私が分かるから案内するわ。」
気配を探り居場所が分かるらしく、ミラルダが案内役を申し出てくれた。
案内理由が物騒だが。
いつもの間延びした言葉遣いから一転して綺麗な話し方をしているのは…恐らくかなりお怒りだからだろう。
不謹慎かもしれないが…真面目な顔で綺麗な言葉遣いをしているせいか…普段より数倍魅力的だ。
でも…
「俺はいつものミラルダさんの方が好きだなぁ。」
「…何言ってるのよ…」
ソフィアが呆れた顔で浩二を見る。
「…サキュバスはね…色んな種族の女性達から蔑んだ目で見られてきたの。でも、当のサキュバス達はそんな事なんてお構い無しにこう言い放ったわ。「女性の敵はサキュバスの敵だ」ってね。」
「………」
「女性しかいないサキュバスらしいわよね。だから、彼女達と身近な酒場や娼婦の女性達からは絶大な信頼を得てるのよ。サキュバス達がいる店は間違いが起きない…ってね。」
「…そっか。」
「だから、今回の事は本当に許せなかったんでしょうね…女性の意思も尊厳も踏み躙る結城の行動が。」
成程…同じ女性だからこそ許せないんだな…
浩二は少し考える素振りを見せると、小走りで先を歩くミラルダに追いつき彼女に話し掛ける。
「ミラルダさん。結城の処理は任せます。リッチーの方は俺に任せて下さい。」
「…コージ君……ありがとう。」
お礼を言ったミラルダの表情はとても柔らかく、そして綺麗だった。
□■□■
ミラルダに案内されてたどり着いた場所は…
「懐かしいな…この場所…」
人族の城にある訓練所だった。
そして、そのほぼ中央に結城真がいた。
中身は恐らくリッチーだろうが。
身体からはドス黒い瘴気を放ち、顔は嫌らしい笑を浮かべている。
「やっと来たか、待ちくたびれたぞ?」
「は?逃げておいて何言ってんだよ…」
「う、五月蝿いっ!こ奴と同化した我ならば貴様など取るに足らんわ。」
「ふーん…ミラルダさん…お先に失礼しますね。」
「えぇ、頑張ってコージ君。」
浩二は笑って頷きリッチーに向き直ると、再び濃紺の鎧を身に纏う。
「さて、取り敢えずはぶん殴るか。」
作戦も糞もない。
ただあのニヤケ面に一発入れる。
結城との距離は十数m…その距離が一瞬で縮まった。
ぶん殴ると口にしてから一秒と経たないうちに結城の顔面にめり込む浩二の拳。
しかし…
「…こんなものか?」
ニヤケ面のまま顔で浩二の拳を受け止めたリッチーは、自信に満ちた声で言い放った。
読んでいただきありがとうございます。




