王様の企み。
幾分腹の虫が収まっていた浩二は、城門の様に破壊はせずにごく普通に扉を開く。
結果としてそれは正解だった。
「……何だよ…コレは。」
誰に言った訳でも無く、自分に言い聞かせる様に呟いた浩二。
扉を開いて最初に目に入ったのは、玉座の間を埋め尽くさんばかりの全裸の女性達だった。
当然の様にその瞳には何も映っていない。
もし、浩二が扉を破壊していたならば…彼女達も恐らくただではすまなかっただろう。
ソレを踏まえた上での布陣なのだ。
彼女達の利用価値は、結城の中ではもう既に壁でしか無い。
いや、自分と彼女達を天秤に掛けた上での結論なのだろう。
「…………」
浩二はそれが分かってしまった。
故に…
爆発的に高まる浩二の殺気。
怒りが理性を塗り潰す。
それを表すように身体中から溢れ出す青く輝く炎。
ユラユラと揺らめき陽炎のように浩二の姿が揺れる。
その姿を見て尚、奴は口を開いた。
「何だよぉ~っ!派手に壁を壊してくれりゃぁ~肉壁共のステータス貰えたのになぁ。」
ブチッ!
何かが切れた音がした。
只でさえボヤけていた視界が赤く染まる。
そして、次の瞬間には目の前に結城のニヤケ面があった。
「死ね…下衆が。」
浩二は振り上げた拳を振り下ろす。
手加減など一切排除した「殺害」する為の拳を。
〈この時を待っていた。〉
ふと声が聞こえる。
〈貴様なら挑発すれば簡単に乗って来ると思っておったが…馬鹿め。〉
続いた言葉と同時に結城の姿がボロボロのローブを着た骸骨に姿を変えた。
そして、空を切った浩二の拳を見送りその肩に手を置く。
〈貴様の生命力…頂くぞ。〉
肩に置かれたリッチーの手から、浩二の生命力がグングン吸い取られてゆく。
「く…っ!」
身体に力を入れ耐える浩二。
〈無駄な事よ…死者の王たる我のドレイン、そう易々と耐えられるものか。〉
勝利を確信したリッチーは骸骨ながら笑っているようにも見える。
「ぐあ…っ!…結城は…結城はどうしたっ!」
〈中々生きが良いな…奴なら既に虫の息よ!後は貴様の生命力を得た後、奴の身体を頂くだけだ。〉
「最初から…っ!それが…くっ!…狙いか…っ!」
〈その通りよ…奴の勇者としての身体を頂き、後は王女さえ手に入れればこの国は我の物よ!我の牧場として末永く飼ってやるわ!ハッハッハッハッ!〉
リッチーは、床に膝を付き苦しそうに喘ぐ浩二を高笑いしながら見詰め、これが最期と言わんばかりに生命力を吸い上げる力を高めた。
□■□■
リッチーが封印されていたのは人族の城から北へ5キロ程離れた渓谷の底にある洞窟の中だった。
封印されてから数百年。
長い時間を掛け大地から力を吸い上げ、死体や死霊を使い獲物を集め更にそれ等を死体に変え使役する。
この場所に封印した勇者は、輝聖石という聖なる力を発する鉱石を使いリッチーを封印した。
この鉱石は定期的に聖なる力を注がなけれは劣化し、やがては只の石と変わらなくなる。
しかし、流石は勇者。
彼が行った『聖石封印』のスキルは、道端の石コロですら輝聖石に変え『闇』の属性を持つ存在ならばほぼ脱出不能の檻になる。
劣化もせず、ほぼ永遠に封印出来るのだ。
しかし、穴はある。
元々この輝聖石、硬度はあまり無く風雨に晒されると容赦なく風化する。
だから勇者は洞窟を選んだ。
人気の無い、生物もあまり生息しないこの洞窟を。
しかし、数百年と言う年月は輝聖石にとってあまり歓迎できる年月では無く…劣化により封印の力は弱まり、リッチーの力が漏れ出す結果となった。
更に「勇者の力で封印した」という事実が、何もしなくても永遠に封印出来ると言う勘違いに拍車をかけた。
『闇』は『闇』を好む。
リッチーの瘴気に惹かれ、アンデッド達が集まり出し…やがて討伐をしに来た兵士や冒険者が新たな仲間に加わる。
いつの間にかこの洞窟は人族にとって無視出来ないほどの「アンデッドの巣窟」に姿を変えた。
そして再び月日が流れ…
リッチーは、パワーレベリングに訪れた一人の勇者に出会う。
勇者の名は『結城真』
リッチーである彼が驚く程の『闇』の持ち主であった。
今考えれば、結城もリッチーの瘴気に惹かれた『闇』だったのかも知れない。
リッチーは観察した。
今回の勇者達のスキルを。
人間関係や性格を。
短所や長所、好き嫌いを。
そして、結城のスキルの中に『強奪』を見つけた時…アンデッドでありながら天にすら感謝した。
そこからは慎重に事を進めた。
既に数百年もの年月封印されて来たのだ…今更何を焦る。
結城の『闇』につけ込み巧みに操り、勇者達から主要スキルを奪わせた。
そして遂に…
アンデッドでは破壊不可能な輝聖石を勇者である結城に破壊させる事に成功した。
後は…
後の勇者に対抗すべく出来る限りのスキルを集め…そして…
結城の身体を奪うだけだ。
□■□■
計画が今やっと成就する。
リッチーは浩二の生命力を全て吸い尽くすべく力を込める。
〈フフフッ…貴様の生命力…有効に使わせて貰うぞ。〉
勝利と計画の成就を確信したリッチーは、最後の言葉と言わんばかりに浩二に向けて手向けの言葉を投げ掛けた。
ガシッ!
その時、精神体であり触れられない筈のリッチーの腕を誰かがガッチリと掴む。
その場を去ろうと背後を向いていたリッチーは慌てて振り返る。
「そんなもんで良いのか…?」
〈なっ!?〉
「いやぁ、色々教えてくれてありがとうな。」
〈き、貴様っ!?何故っ!〉
「名演技だったろ?」
リッチーに向かいニカッと笑う浩二。
目は笑っていないが…
〈馬鹿なっ!?我のエナジードレインを受けて…何故生きていられるっ!?〉
「何故だろうな…?でも、サキュバスさん達の方が数万倍強力で気持ちも良いぞ?」
〈サキュバス…だと!?〉
「まぁ、いっか。んじゃまー、たっぷり召し上がれ。」
浩二がそう告げると、リッチーの腕を掴む手に再び青く輝く靄が立ち上り始めた。
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