再会と出会い。
師匠の事を思い出しながらも、立禅を続ける浩二。
そして、ここ最近のことへと思考が移動する。
牢に入れられてから早二週間。
色々なことがあった。
まずはナオ。
あれから二日程して一人の女生徒が面会に来た。
元気になったナオを連れて。
ナオは俺を見た途端、彼女から飛び降り俺に飛び付いてきた。
俺に纏わりつき、何度も俺を見て鳴いた。
顎や耳の後を優しく撫でてやると、目を細めて気持ち良さそうにするも、やっぱりこちらを見て鳴く。
まるで「大丈夫?大丈夫?」って言ってるみたいに。
お前の方が大丈夫かよ…無茶をして…。
滲みそうになる涙を堪えながら、ナオの体に巻いてある包帯にそっと触れる。
「もう傷は完全に塞がっていますが、一応念のためです。」
自分に声が掛けられてハッとする。
そうだっ!お礼を!と視線を女生徒へと向ける。
肩口まである綺麗な黒髪。
前髪は少し長めで、俯き加減の彼女の顔が良く見えない。
目を細めて良く見ようと牢ごしに少しだけ彼女に近づく。
「あ、あのっ!私、猫を飼ってて!それで、ナオちゃんが酷い目にあってるのを見てられなくて…!そのっ!丁度ステータス見たら回復系の魔法が使えるみたいだったから…あの…怒って…ます…?」
「へ?」
変な声が出た。
怒る?
そんな訳は無い。
それどころか、感謝してもし切れないぐらいだ。
なぜ彼女はそんな…事をと思ったところで自分が彼女の顔を見るために眉を顰めていることに気付いた。
そこからは早かった。
電光石火の勢いで土下座。
それはもう綺麗な土下座。
「済まない!本当に済まない!そしてありがとう!ナオを助けてくれて、本当にありがとう!」
土下座をした瞬間にビクッとした彼女だったが、浩二の口から出た言葉にホッとしたようで、「いいえ。」と一言だけ、でも優しさを込めて言った。
「さっきの…その…顰めっ面は…君の顔を良く見ようと…済まない!怒っていた訳じゃないんだ…実際…感謝しかない…。」
浩二は顔を上げて彼女を見ながらそう言い放った。
途端、ボッと音がするかと思うぐらい彼女の顔が見る見るうちに赤くなっていく。
「!?あんまり見ないでください!…その…恥ずかしい…ですから…。」
先程よりも更に俯きながら彼女は口にした。
どうやら、あまり人付き合いが得意な方では無いらしい。
浩二は土下座をやめ、佇まいを直し正座したまま、改めて彼女を真っ直ぐ見て口を開く。
「済まない。不躾だった。改めてお礼を言わせてくれ。本当にありがとう。あのままだったら、きっとナオは…本当にありがとう!」
真剣な浩二の表情に前髪の隙間からチラチラこちらを見ながらも小さく頷いてくれた。
「俺の名前は岩谷浩二、君の名前を教えてくれないかな?
ナオの命の恩人の名前を知りたいんだ。」
「……新堂…舞…です。」
「新堂さんか…本当にありがとう。ほら、ナオもお礼を言って。」
浩二が自分の横に並んで座るナオにそう声をかけると
「ナァーーォ」
本当に鳴いた。
まるでお礼を言っているかのように。
驚いた様に目を見開いた後、舞はゆっくりと牢へと近付き鉄格子の間から手を差し入れナオの頭をそっと優しく撫でる。
「ナオちゃんは…本当に賢いですね…。治療した後も、鳴いたら追い出されちゃうかもしれない…って言ったら、全然鳴かなくなって。」
「そうなのか?」
「はい。兵士さん達は「魔獣に治療など必要ない!」なんて言い出して…。私の部屋に連れて行こうとした時も猛反対されたんですよ?こんなに…可愛いのに…ね?ナオちゃん。」
顎を撫でられて気持ち良さそうに目を細めるナオ。
「苦労かけて済まない。」
「そんな…良いんですよ。あの場で回復出来るのは私だけのようでしたし…珍しいんですって回復魔法。だから、尚更人間以外に使うことに抵抗があったんじゃないかって王女様が言ってました。」
「そうなのか…って王女様?」
「あぁ、はい。王女様が口添えをしてくれて…部屋にナオちゃんを連れていけたのも、ここに来る許可を出してくれたのも王女様なんですよ。」
「そうか…王女様ってあの王様の隣にいた?」
「はい、彼女がそうです。第三王女のリリィ様です。」
「いつかお礼しなきゃな…。」
「ふふっ、そうですね。リリィ様も…その…岩谷さんの事心配してましたし。」
「そっか。」
「あ、そろそろ私戻りますね。そうだ…えーと…岩谷さん。」
「ん?何?」
「その…ナオちゃんなんですが…まだ暫く預かっていても良いでしょうか?」
彼女は何やら申し訳なさそうに浩二に告げる。
「王女様が言っていたのですが…その…岩谷さんと一緒にしてしまうと、ナオちゃんまで何をされるか分からないから…と。」
すみません。と何故か謝りながら提案してくれる。
確かに彼女や王女様、スミスさん辺りなら心配ないが他の兵士達が相手なら確かに心配だ。
奴等はナオを魔獣と言って警戒していたし。
「お願いしてもいいの?」
素直にそう思った。
きっと今の状態なら自分といるよりきっと安全だと。
「はい!任せてください!…あ…ちゃんと治療も続けますし…それに…」
元気に了承してくれた彼女だったが、すぐに表情を曇らせ少し俯いてしまう。
どうしたのかと思い聞いてみる。
「それに?」
「その…ナオちゃんといると…不思議と安心するんです。
」
成程、確かに彼女は人付き合いが苦手そうだしな。
きっとこっちに来てから不安だったんだろう。
なら、
「ナオ…怪我がちゃんと治るまで新堂さんと一緒にいてくれるか?」
そうナオに話し掛けた。
ナオならきっと分かってくれると。
「ナァーォ」
彼女は浩二の肩に飛び乗り頬を軽く舐めた後、新堂さんに向かい少し歩いた後こちらを振り返って一鳴きした。
「俺は大丈夫だ。心配いらないよ。」
その俺の言葉を聞いたナオはそのまま新堂さんに歩み寄りトンッと軽々跳躍して彼女の肩に飛び乗る。
「それじゃ、ナオの事頼むね。」
「はい!またナオちゃん連れて此処に来ます!」
浩二とナオのやり取りを目を見開き見ていた舞も、浩二の言葉を聞いて顔を綻ばせて元気に返事をすると、そのまま足早に地下牢を後にした。
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