勇者ご乱心。
「ソフィア、落ち着いて詳しく聞かせてくれるか?」
「…あ、えぇそうね。」
ソフィアは目を閉じるとゆっくり深呼吸する。
繰り返すこと数回。
やがて目を開けたソフィアは先程よりも落ち着いて見える。
「取り乱してごめんねコージ。」
「いや、良いんだ。スミスさんの事があるから急いで来てくれたんだよな?」
「えぇ、それもあるわ。」
「それも?」
何やら思っていたより複雑な話のようだ。
「勇者の一人…名前は結城だったかしら…彼がスキルを使って勇者達のスキルを奪い始めたの。」
「結城…あれ?なんか…聞いたことがあるような…」
「知ってるの?知り合い?」
「いや………あっ!思い出したっ!この世界に来て初めて話し掛けてきた男子生徒の名前だ!イケメンでモテそうな感じの。」
やっと結城の事を思い出した浩二。
ナオと二人でこの世界に来てすぐに俺を気遣い話し掛けてくれた男子生徒。
その彼がどうして…
「一応怪しいスキル持ってたから監視はしてたのよ。そしたらある日突然そのスキルが消えて無くなってしまったの。」
「スキルが消える?そんな事あるのか?」
「可能性はあるわ。まぁ、彼の怪しいスキルありきの話なんだけどね…」
「そのスキルってそんなにヤバいのか?」
「えぇ、使い方によってはかなり。名前は『強奪』」
名前を聞いただけなのに、あんまり良いイメージが湧かない。
そして、何と無くスキルの効果も当たりがつく。
「もしかして…スキルを『強奪』するのか?」
「ご名答。で、話は最初に戻るけど…多分、誰かの『隠蔽』ってスキルを強奪してスキルを隠蔽したんだと思うわ。もしその場合、今後彼自身の意思以外では彼のステータスは見られなくなった…って事よ。」
「つまり…今後彼がどれだけ強奪してスキルを得ても、確認ができないって事か。」
「そういう事になるわね。」
勇者達のスキルを根こそぎ手に入れていたら…一体どれだけの事が出来るようになるんだろう…
まぁ、少なくとも『人族領の城を乗っ取る』ぐらいの事は出来るみたいだが。
しかし既に乗っ取られた以上、あまり悠長にしている訳にもいかない。
「取り敢えず、ソフィアはもう少し詳しく城の様子を伺ってくれるかな?…例えば、スキルを取られた勇者や城の兵士とか王族の現状とかさ。」
「分かったわ…調べてみる。…コージ?いい?先走って単独突入だけはしちゃダメよ?」
「大丈夫だよソフィア。いくら俺が馬鹿でもそこまで無謀じゃないさ。」
「…なら良いわ。それじゃ調べて来るわね…それじゃまた後で。」
「あぁ、よろしく頼む。」
ソフィアは浩二に向かい小さく頷くと、足早に部屋を出て行った。
その姿を見送った浩二は一人小部屋で話しかける。
「女神様、今の話聞いてました?」
《うん、ちゃんと聞いてたよ。》
「幾つか質問があるんですが良いですか?」
《良いよー!ドンと来い!》
「あ、ありがとうございます。」
いつも通りの高めのテンションに調子が狂う浩二。
しかし、お陰で少し落ち着いた。
さっきまでは、ソフィアに言われなければ即『転送』で人族領に向かうところだったから。
ソフィアもソフィアで流石、分かってらっしゃる。
「『強奪』のスキルに関してですが…奪われたスキルは取り返せますか?」
《んー…奪った本人なら戻せると思うよ?》
「やっぱりか…」
《全く…君も人が良いね。奪われたスキルを返してやろうなんてさ。》
「…意味もなくただ奪われたってのが気に入らないだけです…『見様見真似』を持ってる俺が言うのも何ですが…」
《『見様見真似』と『強奪』は違うよ。前者は文字通り見て覚える。でも後者は奪うんだ。後には何も残らない。それに君はいつだって覚えたスキルを大切にしてるじゃないか。》
浩二は気にしていた。
自分の持つ『見様見真似』というスキルが他人のスキルを無断でコピーしているだけじゃないか。
狡い…方法じゃないか…と。
しかし、女神様は言った。
見て覚える…と。
確かに見様見真似には見習い期間がある。
きっとこれはそのスキルをただ使えるようにするのではなく、身をもって覚えさせる為じゃないのか。
このスキルは『強奪』しているのではない。
見て使って覚えているのだ…と。
「ありがとうございます…女神様。」
《何の事だい?…全く君は真面目だねぇ。覚えちゃった!ラッキー!ぐらいでいいのに。》
「性格ですから。」
《ふふっ、そんな君も好感が持てるよ。そんな君にサービスだ!》
「…サービス?」
《そう。実は君が『強奪』を覚えさえすれば、『強奪』を使って奪われたスキルを持ち主に返すことが出来る。》
「本当ですか!?」
《あぁ、本当さ。ただし!奪われたスキルを今度は全て彼から君が奪う必要がある。》
「…成程。」
《出来るかい?》
「…やります。全て奪い返して勇者達に返してやります。」
《そっか。ふふっ、頑張って!私がちゃんと見守ってるよ。》
「はい。ありがとうございます。」
この世界の女神様が見守ってくれてるんだ…きっと上手く行く。
我ながら損な性格だとは思うが…気に入らないものは仕方が無い。
浩二は自らに気合を入れ、ソフィアの報告を待つ事にした。
□■□■
(これはまた…趣味が悪いわね…)
ソフィアは使い魔を通して見ている城内の光景に顔を顰めた。
浩二達が初めて王と顔合わせしたあの部屋。
そこには、防具も付けずに真剣で切合う二人の勇者の姿があった。
そして、玉座には…当たり前の様に脚を組み堂々と腰を下ろし、その光景を嫌らしい笑みで見下ろしている結城がいた。
《やぁ、やっと来たね魔族さん。》
(!?)
突然の事に声も出ないソフィア。
それはそうだろう。
使い魔がいることに気付き、尚且つ念話で話かけてきたのだから。
《えーと、そっちに行った岩谷さんに伝言を頼むよ。「早く来ないと勇者が全滅しちゃうよ?」ってね。》
(…貴方は…一体…)
《あ!後、俺の新堂さんをちゃんと連れて来い…ってね。》
そこまで言うと、結城はソフィアの返事を待たずに指を一振する。
その瞬間、目に見えない何かが使い魔を襲い…あっと言う間にその場から消滅した。
ソフィアは視界を失い呆然としていた。
「これは…どう伝えたものかしら…」
彼女は浩二に話さなければならない内容を考え頭を抱えるのだった。
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