生命のやり取り。
「そんなに凄いのか?そのグレートブルってのは。」
「…えーとですね、グレートブルってのは、マッドブルの上位種です。」
「へぇ…つまり格が上って事か…」
何故かニヤリと笑を浮かべる浩二に兵士は若干引き気味になる。
そして、浩二はまるで我慢が出来なくなったように隊長の元へ走り出す。
「隊長さん。マッドブル4体の方、任せても平気でしょうか?」
「恐らくは大丈夫だろう。あれだけ弱っているのだから、コレを倒せないと言ったらここに志願した意味が無い!しかし…」
恐らくはグレートブルは無理だと言いたいのだろう。
だから浩二は先に言葉を発する。
「グレートの方は俺に任せて貰えませんか?」
「しかし、いくらコージ殿とは言え上位種を一人で等と…」
「大丈夫です。信じて下さい。」
「……分かりました。グレートブルの方はお願いします!」
真剣な瞳の中に燃える何かを感じたのか、隊長はグレートブルの討伐を浩二に託す。
「任されました!後はお願いします!」
「了解ですっ!ご武運を!」
浩二は隊長の激励を受けニコッと笑い頷くとその場から掻き消えた。
□■□■
隊長の元から瞬動でグレートブルへと向かう浩二。
区別は簡単に付いた。
一体だけ一回り大きい個体。
マッドブルと違い体色も赤黒く、角に至っては一回り以上のサイズである。
他の4体が呪いにより弱体化し突進もままならない中、一番奥にいたその個体は今も尚巨体を激しく城壁へと打ち付け続けていた。
浩二は4体のマッドブルをすり抜けると、立ち止まりこれから突進しようかという様子のグレートブルの目の前に躍り出る。
浩二とグレートブルの距離は10m程。
前足で地面を引っ掻きながら今にも突撃しそうな勢いだ。
しかし、不意にグレートブルの動きが止まる。
浩二をジッと…まるで観察するように…値踏みする様に見詰める。
□■□■
まるで青い靄の様だった。
ダダ漏れの闘気をまるで隠すつもりが無いその男は、深く腰を落とし半歩足を開いた状態で掌をこちらに向けていた。
やがて全ての靄が凝縮したかのように集まり、腰に添えた拳へと吸い込まれた瞬間、眩いほどの青い光を放ち始めた。
「さぁ、始めようか。どうせ、止まれないんだろう?」
男は話し掛けてくる。
そうだ、止まれない。
どんな障害があろうとブチ抜く!…そう決めた。
ならば…する事は一つ。
グレートブルは姿勢を低くし、その鋭利でギラついた二本の角を男に…浩二に向け、前足で地面を蹴り始める。
「来い!真正面から受けてやる。」
(当然だ!真正面からブチ抜く!)
□■□■
浩二の言葉を切っ掛けにグレートブルは全ての力を振り絞るような勢いで突進してくる。
土煙を上げ、地面が揺れるのが分かる。
互いが接触するまで時間にしてほんの数秒。
しかし、浩二はまるで力んだ様子も見せずに素早く左手を引くと、半歩踏み込み眩く青く輝く右拳を突き出す。
そして浩二の右拳がグレートブルの額に触れた瞬間、引き付けた後ろ足が聞いたことの無いような轟音を立て踏みしめられた。
誰もが自らの目を疑った。
グレートブルはまるで絶対に動かない鉄柱にでも激突したかのように空中へと舞い上がったのだ。
そしてその頭部は原型を留めない程ひしゃげ、胴体に食い込んでいた。
時間がゆっくり流れる様に感じられる中、グレートブルの巨体は浩二を飛び越し、丁度真後ろに地響きを伴う大きな音を立てて墜落する。
そのまま数度のバウンドをした後、ピクリとも動かなくなった。
「ふぅ…なんとか勝ったな…」
浩二は今の衝突で痛めたのであろう、右腕を押さえながら呟く。
「…思ったより心は痛まなかったな…まぁ、きっとコイツが覚悟を持って対峙してくれたお陰だろうけど…」
後ろを振り向き、動かなくなったグレートブルを見詰めながら初めて奪った生命に対して軽く瞳を閉じて黙祷した。
□■□■
残ったマッドブルも難無く討伐し終えた浩二達は、先に伝令を走らせていた甲斐もあって、直ぐに援軍兼交代要員の兵士達と入れ替わりで城に戻る事が出来た。
後は浩二達が城に戻ってマッドブルの死体等の後処理をお願いすれば今回の件は終了だ。
「コージっ!!」
すると、城門を潜ってすぐの所で息を荒げたソフィアに呼び止められた。
走って来たのであろう、呼び止めた浩二の目の前で両膝に手を置き肩で息をしている。
「大丈夫か?ソフィア。」
「…っ!アンタはっ!ソレはこっちの台詞よっ!!」
「うぉっ!」
涙目のソフィアに物凄い勢いで怒鳴られる浩二。
「どれだけ心配したと思ってるのよっ!!」
「……ごめんソフィア。」
今にも泣き出しそうなソフィアを見て、浩二は素直に謝る。
今の彼女を見れば、どれだけ心配してくれていたのか馬鹿でも分かる。
「上位種が出たって報告を受けた時、本当に驚いたわ…なのに…報告の続きで…コージが単騎で相手してるって言うじゃない!…馬鹿ぁっ!」
「ごめん。」
「ごめんじゃないわっ!…ごめんじゃ…ないわよ…」
ソフィアは浩二の胸に抱きつき、ついに泣き出してしまう。
「…本当にごめんな…ソフィア…心配かけて。」
「…馬鹿ぁ…死んじゃったらどうしようって…怖かったんだからぁ…」
「…ごめん。」
浩二は泣きじゃくるソフィア胸に抱いて、何度も謝った。
こんなにも心配される嬉しさと申し訳なさをソフィアと一緒に胸に抱いて。
やがて落ち着いたソフィアと一緒に城へ戻り、ソフィアの話を聞いて驚く舞に回復魔法をがけて貰った。
「あ!レベルアップっ!」
ゴタゴタですっかりレベルアップの事など忘れていた浩二は、ソフィアに「そう言えば、コージレベルはどうなったの?」と、聞かれ慌ててステータスプレートを取り出しステータスを確認する。
「…あれ?」
「どうしたの?コージ。」
「いやさ…レベルが1のまんまなんだ…」
「はぁ?何を言ってるのよ…上位種を倒したのよ?」
「いや、だって…ほら。」
浩二はソフィアと舞に自分のステータスを見せる。
そこには前と変わらず『ドワーフLV1』の文字が。
「何でよ…」
「…おかしいですね…」
「な?変わって無いだろ?」
何故か上がらなかったレベルに浩二はステータスプレートを見ながら首を傾げるしか無かった。
その黒髪の一部が銀髪に変わり始めている事に気付かずに。
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