半減の呪い。
「へー…結構城壁ギリギリまで森が迫ってるんだなぁ。」
浩二は10m以上はあろうかという城壁を見上げながら呟く。
ソフィアに「魔物と戦いたいなら見回りの兵士と一緒に城壁の警戒について行けば良いわ。」と勧められた浩二は、只今見回りの兵士さん一行と外回り中。
デカい城門の脇にある兵士用の出入口から出て城壁伝いに30分程歩いた辺りにいた。
「本当はもっと城壁と森は距離を開けた方が良いんだが…何せこの森はいくら伐採しても、あっという間にこの状態に戻っちまうんだわ。」
浩二の呟きを聞いた兵士さんが疑問に答えてくれる。
「一応伐採はしてみたんだ?」
「あぁ、この城に初めて配属された時にな。でも、ものの数週間で元通りになってしまってな。でだ、結局もののついでとか何とか言ってエルフの里の『魔導の魔王』シルビア様が城に結界を張るついでに城壁から5mの範囲に新たに結界を張って下さったんだ。」
「ついでとか…」
「いや、実際片手間の様にあっという間に城壁から5mの範囲の植物を伐採して、更には結界でこちらに植物を入れなくしてしまった。」
「なんと言うか…流石『魔王』としか言えないな。…ん?植物?」
浩二は兵士の話を聞いて、城壁の結界が植物限定な事に気付く。
「そうさ。城壁の外の結界は『植物限定』なんだ。だからこうして『植物以外の魔物』が城壁に悪さしないように毎日見回りしてる訳さ。」
「成程な。所で、どんな魔物が悪さをしに来るんだ?」
「そうだなぁ…キラーエイプって言うデカい猿とか、後はマッドブルって言うデカい牛とか、ジャイアントボアって言うデカい猪とか…空を飛ぶ奴なら稀にワイバーンって言う空飛ぶデカいトカゲとかが来るよ。」
「…基本デカいんだな…」
「あぁ、しかもデカいだけじゃなくレベルも低くて50辺りだからな。だから、基本的に見回りは小隊単位で行われるんだ。とは言っても、そう頻繁に来る訳じゃないんだ。あくまで警戒さ。」
「そっか。必ず来る訳じゃないのか…」
「なんでそんなに残念そうなんだよ…良いじゃねーか、来ないなら来ないで平和だろ?」
「そりゃそーだ。」
「でも、ここ暫く魔物も静かだからそろそろ来るかもな。」
なんてフラグじみた事を言う兵士さん。
「隊長っ!マッドブルですっ!しかも5体っ!!」
「なっ!?5体だと!?」
ほら、回収された。
「なぁ、5体ってそんなに凄いか?」
「何言って…ってコージの旦那か。なら知らねーよな。見た方が早えーよ。ほら…」
浩二が兵士の指差す方向に視線を移すと…そこには体長5mはあろうかという立派な角を湛えた巨大な赤茶色の牛が執拗に城壁へと突進を繰り返していた。
「いくら頑強な城壁とは言え、あのままじゃ不味いな…良しっ!総員戦闘準備っ!良いかお前らっ!突進は必ず避けろ!食らったら一溜りもないからなっ!」
「「「オォーーーッ!!」」」
隊長の指示に声を上げて己を奮い立たせる兵士達。
そんな中、浩二は隊長の元へ歩み寄り何とも気の抜けた感じで口を開く。
「あの…隊長さん。ちょっと俺に先行させて貰えます?ちょっと試したい事があるんで…」
「何をっ!こ…これはコージ殿。しかし…先行と言われましても…」
「多分大丈夫だからさ。少しでも兵士さん達の負担が減った方が良いでしょ?んじゃ、行ってくるね。」
浩二は近所のコンビニにでも行くような気楽さで隊長に告げると、駆け足で一番近くのマッドブルに向かう。
「さて…半減の呪いだけど、これにも操気術乗るかな…?」
等と考えながら両拳に半減の呪いを発動する。
一度丹田で気と練り合わせることも忘れない。
すると、浩二の両拳が禍々しい赤黒い靄に覆われ、見たことも無い文字の様なもので出来た二本の輪が不規則に拳の周りを回っていた。
「うわぁ…これはまた、いかにもな感じで来たなぁ…ま!効きそうだからいっか!」
そう口にした途端、浩二の姿がその場から掻き消える。
驚く兵士達。
それはそうだろう。
いきなり両手に禍々しい何かを纏ったと思えば、いきなり姿が消えたのだから。
次に浩二が現れたのは突進中のマッドブルの後ろ足付近だった。
「まぁ、これでも食らっとけ!」
力む様子もなく赤黒い靄を纏った拳で後ろ足を殴りつける。
その瞬間、拳の周りを回っていた解読不能の文字の輪が大きく広がり、マッドブルの胴体に巻き付くように移動すると急激に縮まりジュウッと焼き付く様な音を立てる
「ブオォォーーッ!!」
痛いのか熱いのかは知らないが、明らかにダメージを受けた様子で鳴き声を上げるマッドブル。
「良し!次々行くかっ!」
又もやその場から瞬動により掻き消えた浩二は次々とマッドブルに焼印を刻んでゆく。
そして、5体全てに呪いを刻んだ浩二は瞬動で再び兵士達の前にいきなり現れる。
「うおっ!」
「あぁ、驚かせてすみません。とりあえず呪いを刻んで来たので、少しは戦いが楽になるんじゃ無いでしょうか?」
「の、呪い?」
「はい。『半減の呪い』って言って、ステータスとスキル能力を半減させる呪いです。って言っても見習いなんで半分って訳にはいきませんが。」
「そうか…でもよ…アレ…何か苦しんでねーか?」
「へ?」
素っ頓狂な声を上げて浩二がマッドブルを見ると、数分おきに焼印らしき文字が光り、やはりその度に痛みなのか分からないが声を上げて苦しんでいた。
「…すみません…理由は分かりませんが…何やらダメージ受けてるみたいですね…」
「…旦那…」
「あ!昨日『鑑定』のレベル上がったから、見たら分かるかも!」
バツの悪さを誤魔化すように、浩二は昨晩上がった『鑑定(見習い)』LV9を使いマッドブルを鑑定する。
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名前 未設定
種族 マッドブルLV51
状態 火傷 呪い
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名前 未設定
種族 マッドブルLV52
状態 火傷 呪い
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名前 未設定
種族 マッドブルLV50
状態 火傷 呪い
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名前 未設定
種族 マッドブルLV50
状態 火傷 呪い
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名前 未設定
種族 グレートブルLV61
状態 火傷 呪い
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「あぁ…何故か火傷になってますね。」
「…自分でやっといて何故かって…」
兵士達の呆れた様な驚いた様な声が苦しむマッドブルの声に混じって響いた。
「あ、あと1体グレートブルっての混じってますね。レベル61の。」
「「「何ぃっ!?」」」
さらに追い討ちをかけるように言った浩二の言葉に、兵士は目を剥いた。




