覚悟。
「あのねぇ…貴方達…」
ソフィアは額を押さえいつものポーズ。
「あ!ソフィアちゃん!迎えに来てくれたの?」
「晩飯かっ!?」
「あんたら…」
確かに時刻は夕暮れ時。
晩飯時と言えば晩飯時だが。
その時、ソフィアの両肩にポンと手が置かれる。
振り向くとそこには、酸っぱい顔をした舞と栞が首を振っていた。
この二人は言うなれば巻き込まれ組だ。
やんちゃな二人の後先考えない行動をひたすら回復でフォローしていたのだから。
「…お察しするわ…」
「…ありがとうございます…」
「…酸っぱいよ~…」
ソフィアは二人の肩にポンと手を置いた。
□■□■
「コージはもっと控え目に訓練出来ないの?」
「そんな事言われても…控え目に訓練したんじゃ、訓練じゃ無いじゃないか。」
「訓練よ。」
「いや、でもさ…」
「コージ。」
「…はい。」
「あの訓練所の有様見たでしょ?穴ボコだらけじゃない!」
「あー…はい。」
「後で直しておく事。いい?」
「…はい。」
「お兄さんっ!頑張って!」
「蓮、あんたもよ。」
「えーーっ!」
「「えーーっ!」じゃないわ。それとも、オヤツ抜きが良いかしら?」
「やります!頑張ります!」
「よろしい。」
「えーと…ソフィア?俺、オヤツ貰った事ないけど…」
「コージは良いのよ。」
「マジか…」
そんなこんなで夕食後の雑談という名の説教も終わり、浩二と蓮の二人は訓練所へ向かう為にと重い腰を上げる。
やがて訓練所へと辿り着いた二人が見たものは、せっせと訓練所の地均しをする兵士達だった。
「おーっ!浩二の旦那に蓮の嬢ちゃん!どうした?」
スコップを片手に二人を見つけた兵士の一人が声を掛けてくる。
「俺達も手伝いに来ました。…ってよりも、これは俺達がやらなきゃならない仕事ですし…」
「そうだよー!後は二人でやるよ!」
「何言ってんだ!あんなに凄い試合見せて貰ってこっちこそ礼が言いたいんだよ、なぁ?」
兵士が周りに同意を求めると、皆一様に「凄かったなぁ!」とか「今度はこっちが教わらなきゃ!」とか「二人がいればこの城も安心だな!」等と言いながら、まるで当たり前の様にスコップで穴を埋めたり地均ししたりしている。
泥だらけになりながら。
「やっぱり手伝います!」
「私もーっ!」
二人は手近にあったスコップを持つと、物凄い勢いで穴を埋めていく。
「おぉ!やっぱり戦闘が凄いと、こういう作業も凄いんだなぁ!」
「皆さん!ありがとうございますっ!」
「ありがとーっ!」
「へへっ…おう!」
兵士は照れくさそうに笑うと、作業を再開する。
もう、すっかり暗くなった篝火の明かりが照らすだけの訓練所。
優しい兵士さん達に囲まれ、暫くの間笑い声が木霊するのだった。
□■□■
名前 岩谷浩二
年齢 26
種族 ドワーフLV1
職業 人形師 氣法師
筋力 410
頑強 400
器用 350
敏捷 420
魔力 330
スキル
『黄昏の人形師』LV1
『黄昏の傀儡師』LV8
『魔核作成』LV7
『操気術』LV10
『火魔法』LV1
『風魔法』LV1
『パワースラッシュ』LV1
『パワースラスト』LV1
『瞬動』LV1
『剛力「鉱物」』LV--
『転送』LV--
『見様見真似』LV--
『鑑定(見習い)』LV8
『半減の呪い(見習い)』LV7
□■□■
「やっぱり上がり切らなかったかぁ…」
ステータスプレートに映る見習いのままの半減の呪いを見て、ベットに寝転がりながら呟く浩二。
「これは、いよいよ魔物を相手にしなきゃ駄目かな…」
浩二の表情は暗い。
実は浩二、魔物を相手にする事自体は実は前から思いついてはいた。
しかし、いくら自分の為とはいえ生き物を殺す事に抵抗があったのだ。
単純に言えば『怖い』のである。
負けるのが怖いのでは無い。
寧ろ、負ける程の相手と戦えることは浩二にとっては喜びに近いだろう…そこに命のやり取りさえ無ければ…だが。
しかし、いつかはやらなければならない。
それも分かっていた。
この世界では『魔物』とは、一般人の脅威として認識されている。
日に少なく無い数の人が魔物によって殺されている。
ならば、その場面に出くわした時、躊躇無く命を奪えねばならない。
「誰かが言ってたなぁ…『殺していいのは殺される覚悟のあるヤツだけだ』…だったかな?」
実際、死ぬのは怖い。
浩二はどちらかと言えば臆病な部類に入る。
しかし、自分が大切にしている人が危機に陥ったならば…迷わず助けるだろう。
自らの身を顧みず。
それが分かっているから…
「…少しでも強くなっておかなきゃな…」
死ぬのは怖い。
でも、死なれるのはもっと怖い。
誰かが自分を庇い…その結果…死なれてしまったら…
自分の力不足のせいで…目の前で死なれてしまったら…
「…きっと立ち直れないな…」
そうならないように。
自分の身は自分で守れるように。
大切な人達を…守れるように。
「…良しっ!…決めた!」
浩二は決心した。
強くなろうと。
そして、夜は更けていった。
浩二の悩みを覆い隠す様に。
□■□■
「と、言う訳でソフィア。魔物と戦いたい。」
「…何が「と、言う訳」かは分からないけど、良いんじゃない?やっとコージもレベル上げる気になったみたいだし。」
「…レベル…上…げ…?」
完全に忘れていた。
コージの中でステータスをアップさせる方法は迷うこと無く『訓練』一択だった。
「まさか…本当に忘れていた訳じゃないわよね…?」
「ははは、まさか!」
視線をソフィアから逸らす。
「そうよね!流石のコージでもそれは無いわよね!」
「そうだよソフィア!はははっ!」
目が泳ぎまくる。
「……コージ。本当は忘れたでしょ?」
「……はい。今の今まで失念しておりました。」
「…全く…やっぱりコージはコージね。」
「返す言葉もございませんです…はい。」
言葉は落ち込んでいるが、浩二の胸には熱いものが漲り始めていた。
まだまだ強くなれる。
もっともっと強く…強く!
ソフィアは浩二の瞳にそれを感じ取ったのか、優しい笑みで彼を見つめるのだった。
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