二人並んで。
「いやぁ、ちょっと野暮用で帰って来てみたら、何やら楽しそうな事をしてるからさ…」
後頭部を掻きながら若干バツが悪そうに話す椎名。
「出場すると言って聞かなかったもので…運良く…いえ、運悪く予選エントリー開始時期と重なりまして…」
「それで、偽名と隠蔽ですか?」
「あぁ、この姿かい?よく気付いたね、結構本気の隠蔽だったんだけど。」
そう言ってサッと腕を振るうと、椎名とインキュナの姿がまるで霧が晴れるように元に戻る。
「いや、気付きますよ…気配はモロ神様ですから。」
「あー、そういや君とナオは最上位種を超えてたね、忘れてたよ。そうそう、暁椎名は私が人間だったころの名だよ。」
「俺は『椎名』って苗字だとばかり思ってましたよ。」
「あー、うん。昔は良く言われたよそれ。」
神様と普通に会話をする浩二をジト目で見詰める人族組一同。
とは言え、彼女達も露天風呂にて高確率で龍種の方々とエンカウントし続けた結果、次第に驚きは薄くなっていった。
どちらかと言えば男湯でたった一人、二人の龍種に挟まれる猛の方が精神的に結構苦労したようだが。
「やっぱりお前達もそう思ったよな?」
浩二は彼女達のジト目を別な受け取り方をする。
多分だが…一同の言いたいのはそっちじゃない。
「……アンタ達二人、遂に人間も辞めたのね?」
「違うよ麗子ちゃん、ドワーフとマシナリーだよ。」
「そんなの知ってるわよ!」
「なぁ兄貴、最上位種を超えたってなんだ?」
当回しに嫌味を言った麗子が舞に突っ込みを入れられているのを横目て見ながらストレートに問い掛ける猛。
「二人は既にこの世界の枠から飛び出してしまったんだ。わかりやすく言えば龍種と同等…世界を管理するレベルの存在になったんだ。」
「うん、お兄さんはやっぱり凄いね!」
「だね、蓮ちゃん!」
浩二の代わりにわかりやすく教えてくれた神様。
それを聞いて更にドン引きする三人と何故か興奮する二人。
そんな人族組の反応を他所にナオが神様の元へ走り寄る。
「神様!浩二が旅行に行っても良いって!」
「そうか、丁度いいタイミングだったね。」
「ナオ?」
何故か神様に報告をするナオを見て首を傾げる浩二。
「えーとね、先月初めに偶然白の部屋で神様に会ってお願いしたら、大丈夫だって言うから。」
「大丈夫って…一体何処に行くつもりなんだ?」
いよいよもって分からなくなる浩二にナオはニッコリと笑ってその旅行先を口にした。
「地球だよ!」
□■□■
「どこの世界に新婚旅行で星に行く奴が居るのよ…」
呆れ果てたように呟く麗子。
「いやいや、兄貴とナオだから行けるんだろ?」
「本当に…お似合いというかなんと言うか。」
「…舞。」
「ん?何?蓮ちゃん。」
「んーん、何でもないよ。」
なんの含みも無い舞の言葉に何かを飲み込む蓮。
浩二とナオが結婚を決め、式を挙げる数日前。
舞とナオが二人で遅くまで話していたのを蓮は知っていた。
朝方にナオの部屋を出てきた舞の目には涙の跡が見られたものの、その表情は何処か晴れやかで…
蓮は何も言わずにその場を去って黙って見なかった事にしたのだが…式の数日後、舞が口にした「ナオちゃんって私が思っていたよりずっとお姉さんだったよ。」と言う言葉を聞いて何故か妙に納得してしまった。
去り際に舞がこちらに向かって投げたウインクを受け取り、あの日見ていた事がバレていた事も。
「地球か…お前達も里帰りとかしたいか?」
「……兄貴、流石にそれは俺でもダメだと思うぞ?」
「…猛、浩二にそれは酷よ。」
新婚旅行だというのにほかのメンバーを誘い出した浩二に対して流石にそれは無いと猛が口を出すも、彼の肩にポンと手を置き力無く首を振る麗子。
彼女達は裸の付き合い中に勇者システムについてシイナからざっくりだが話を聞いており、自分達がコピーされたデータから復元された存在だと結構前から知っており、里帰りする意味が無いことも理解しているのだろう。
「あっちの世界から栞が居なくなっちゃってるなら、帰るのも考えるけど…あっちにちゃんと栞が居るなら、向こうの事はあっちの栞に任せるよ。」
「だねー、特に思い残した事も無いし。それに断然こっちの方が楽しいしね!」
結構真面目に答える栞に後ろから抱きついた蓮が同意する。
「俺もだな。向こうの面倒は向こうの俺に任せるよ。」
「あー、私も…正直助かったわ。」
「あー、うん、申し訳ないとは思うけど…アレは私もダメだと思う。」
麗子の発言に舞が激しく同意すると、周りの人族組メンバーも苦笑い気味に頷く。
ここだけの話、麗子には婚約者が居た。
両親の古い知り合い同士で決めた事らしいのだが、乗り気なのは相手方の男の方だけで、麗子自身は生理的に受け付けないレベルのようだ。
俗に言う顔だけが良く、性格が壊滅的にゲス寄りな人物で、偶然舞と蓮と共に下校中にエンカウントした際には、舞のたわわな物に偶然を装い触れようとした挙句、顎を蓮に蹴り上げられると言う微笑ましいエピソードもお持ちだ。
人族組メンバーの地球にあまり執着が無い様子を見て、猛の注意に気付きもしなかった浩二はナオの方を振り返る。
「それでナオ、いつ出発する?」
「んー…」
ナオは後ろの椎名に視線を流し、それを受けた彼女は静かに頷く。
そして振り返ったナオは声も高らかに叫ぶ。
「明日!!」
□■□■
浩二とは違い慣れた様子で宇宙空間を飛び回るナオ。
彼女は浩二が領の整備で走り回っている間に幾度となく白の部屋へと赴き宇宙空間へと身体を慣らす訓練を続けていた。
そして未だ無酸素には慣れない浩二の手を取りニッコリと笑う。
「コツは、他の事で頭を一杯にする事だよ!」
「私みたいにね。」そう言って浩二の身体を強く抱き締める。
厳しい環境である宇宙空間で緩やかに錐揉みしながら抱き合う二人。
温かさが、心音が、香りが、柔らかな声が、未だに不安で揺れる浩二の身体と心に沁みてゆく。
「ありがとう、ナオ。愛してる。」
嘘のように消えた不安や恐怖心、そしてするりと口から出る愛の言葉。
「うん、浩二。私も愛してる。」
当たり前のようにそう返して二人は唇を合わせた。
「……こんな感情は久しぶりだねぇ。一体いつ声を掛ければ良いのやら…」
「私が呼んで来ましょうか?」
「いやいや、それは野暮だよインキュナ。一応新婚旅行中だしね。」
引率の二人はそろそろ前方に地球の姿が見えて来た辺りでイチャつき始めた二人から若干距離を取る。
「それに、時間なんて腐る程あるんだからさ。」
「そうですね。」
椎名とインキュナは、複雑な心境を胸に新たな神候補になりうる二人の姿を静かに見守っていた。
□■□■
「……ずっとこの場所に来たかったんだ。」
小さな神社の境内、その左奥の軒下。
親に見捨てられ、自力で動くどころか声を上げる事すら難しい状態で放置された一匹の子猫。
引越しの挨拶にと特に普段神など信じていない男が偶然気紛れで訪れた小さな神社。
そして何故か妙に気になり覗いた軒下で彼女を見つけた。
目も見えない。
寒さに震え、痛い程に襲って来る空腹感。
不意に聞こえてくる物音。
恐怖に身構えていると、生まれて初めて優しく、そして暖かく何かに包まれた。
そのまま躊躇うことなく私の喉から人じゃない言葉が漏れた。
「助けて。」と願いがこもった鳴き声を。
「懐かしいな。」
「うん。」
二人で寄り添い何も無い軒下を眺める。
全ての始まりとも言えるこの場所。
ナオがどうしても来たがった意味がようやく分かった。
「行こう、浩二。」
「次は?」
「んー…色々!!」
「ははっ、分かったよ。」
猫の時には叶わなかった願い。
「浩二!」
「ん?」
「大好きっ!」
「あぁ、俺もだよ。」
飛び付いてきたナオの頭をクシャッと撫でながら、首に纏わり付くあの毛並みを思い出し空を見上げた。
サワサワと揺れる葉の隙間から盛れ刺す陽光と、優しく頬を撫でる風。
「あぁ、今日も良い天気だ。」
そう呟いた浩二は、満面の笑みで手を引くナオと二人並んで次の目的地へと歩き始めた。
―完―
この物語はこれで終わりになります。
続ける気になればまだまだ話を続ける事も出来ますが、ダラダラと続けるよりキレのいい所で終わらせる事を選びました。
もしかしたら何らかの形で続きを書くかも知れませんが、今はまだ何とも言えません。
拙い文章に長い間お付き合い頂き本当にありがとうございました。
もし宜しければ、1-1で構いませんので評価して頂けたら嬉しいです。
最後にもう一度、この話を最後まで読んで頂き本当にありがとうございました!




