現在のサーラ領事情。
第8回を迎えるこのレースに使われる全長15kmのコースは浩二の手で頑強に舗装されており、多少の魔法や物理攻撃ならばビクともせず、試験段階では蓮の獄炎弾を無傷で凌ぐ程だ。
コース自体は緩やかなカーブからヘアピンカーブ、立体交差やロングストレート等その運転技術が試される比較的テクニカルな作りになっている。
その他にもバンクがキツ目の円周トラックや、400mと1000mの直線コース、更には小さ目のバギー用に全長5kmの短かいコースまである。
こちらは貴族の子供達からの熱い要望により新たに設置されたもので、どうやら気の早い親達がドライバーに育て上げるべく英才教育を施すのが目的らしい。
元々人族組メンバーの一人である新堂舞の運転欲求を満たすべく浩二が変に乗り気で作り上げた結果、今ではこのサーキット周辺には小さいながらも町が出来始めており、コース近くの郊外にはレーシングチームの倉庫まで立ち並ぶ始末だ。
これは浩二がエアバギーをこのサーラ領から持ち出すのを禁止したからでもあるが、そうしないと世の運送事情が激変する結果にも繋がることを懸念した結果であり、少なくとも今現在は持ち出された形跡はないものの、技術だけでも手に入れようとする商人や貴族達の苦肉の策というか…あの倉庫は実験や研究をするラボでもあるという訳だ。
しかし、いまだ浩二以外に効率的な運用の出来るものを作りあげたと言う話は残念ながら耳には届いていない。
神様…椎名とインキュナが旅に出て5年、つまりそれはあの世界衝突事件から5年経ったと言うことであり、それだけの月日があれば黙って大人しくしていられない浩二の周りの様子が激変しても何らおかしくはない時間だ。
現に内輪で楽しむだけが目的だったサーキットが今では他の領からも見物人が訪れる程の一大娯楽へと成長した。
そして人々がサーラ領を訪れる際に最大のネックとなる移動距離と移動時間を解決したのが、これまたサーキットと同じ4年前に完成した『地下列車』と『駅』だ。
『サーラ領城門前駅』と『城門の街駅』間2000kmを約10時間で結び一日二本往復しているその列車は、人だけでは無く食料品から鉱物資源、武器や防具、貴金属にアクセサリー等など文字通り何でも運ぶ。
最大全長500mにも及ぶその列車には人が乗る客席が並ぶ部分と貨物コンテナを積み込む部分に別れており、その時の予約状況に応じて客席部と貨物部を抜き差する。
余程の状況…例えば祭りの前等になれば本当に全ての車両が人と荷物で満載になるが、普段はその半分から六割と言った所だろう。
この列車が出来た事により、今までほぼバルへイムのあるベーア地方にのみ作物などを輸出していた獣人達が、列車を利用する事でドワーフ領にまで物資を売り出すことが出来るようになった。
その影響は目を見張るものがあり、両駅にある店舗や市場等の規模がどんどん膨らみ、それに引き摺られるように宿屋や酒場等の飲食店が数を増やし、それにあやかろうと荷車を引いた人々が集まり、両駅のある街の城門を出てすぐの辺りで青空市場のような光景が結構な範囲で広がる結果となった。
人が集まれば当然争いも起きる。
これは仕方の無い話なのだが、だからと言って放置は出来ない。
と言うことで、『城門の街駅』の方にはシュレイド城から兵士の一部を、ルグルドからも自警団を派遣し警備に当たらせることとなった。
そして『サーラ領城門前駅』の方では、前々から実験や試作を繰り返していた『マシナリー兵』が遂に実装された。
姿は昔のタロスと変わらないスリムなフルプレート姿に鼻から下だけが露出したハーフヘルムを着用した姿の兵士がこの駅だけで約三十人程が交代で警備にあたっている。
このマシナリー兵の運用にあたり、タロスの過剰労働を心配した浩二が、二体のマシナリーをタロスの部下として付けた。
二人の名は『アインツ』と『ツヴァイ』。
姿はタロス同様中性の顔立ちをした美形執事風の出で立ちをしており、アインツはサーラ領城門前駅に常駐し、街の経営や警備を、ツヴァイの方はサーラ領内でのマシナリー兵を統率して貰っている。
こちらのマシナリー兵は兵装が特殊で、常にステルスドローンを2機づつ携帯しており、常時1機は上空で待機してその広い視野をマシナリー兵へと送っている。
これはサーラ領自体が尋常では無い広さを持つことに影響され、少ない数の兵で広い土地をカバーするというコンセプトのもとこの案が実装された。
マシナリー兵の基本スペックは劣化タロスくらいだと思って頂ければ問題ない。
基本武器は所持せず、格闘とスタンガン宜しく拳に電流を纏い対象を気絶させる方法をとる。
全ての兵がアインツ、ツヴァイとリンクしており、その2体もタロスとリンクしている。
このマシナリーネットワークにより、タロスはこのサーラ領において人の住む全ての土地の管理が可能となった。
今現在サーラ領内にて人の住み始めた仮拠点は巨大湖周りにあった8箇所と、サーラ大砂漠を東に迂回するルートに点在する3箇所であり、1箇所は農場の物見櫓に姿を変え残りの仮拠点は11箇所。
今のところこの人の住み始めた12箇所はモノレールで結ばれている。
第一拠点から巨大湖沿いを通り、サーラ大砂漠を東側から南に抜け大農場までを少し蛇行して結んでいる。
大農場から第一拠点まで人の住む場所を選んで通したらこうなってしまったので仕方が無い。
いずれは全ての仮拠点をモノレールで結ぶつもりでいるようだ。
このモノレールは地上10mに作られた一本のレールを抱き込むように、逆さ凹の様な形をした複数の車両が全長15mに渡り連結されて走っている。
こちらも列車と似たように人と貨物を同時に運んでおり、仮拠点の中を通すルートは色々と面倒な部分があった為、各仮拠点の城壁外にレールと駅を作り後から駅と城壁と繋げた。
各仮拠点にはコンテナ積み下ろし用のゴーレムが備えつけられ、これらモノレールのダイヤも全てマシナリー兵がツヴァイの管理の元運用している。
これにより、少なくとも仮拠点で物流が滞る心配は無さそうだ。
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