翻弄される命。
「ドワーフ…!」
「何!?ドワーフだと!?」
「おいおい!どうしてドワーフがこんな所に!」
「死の…武器職人…」
ちょっと、アンタ達あんまりドワーフドワーフ連呼しないでくれ。
何故かは分からないが何だか恥ずかしい。
一部何やら中二臭い二つ名も聞こえてきたし。
「くそっ!忌々しい…っ!魔族の間者かもしれん!取り押さえるのじゃっ!」
浩二は怒涛の展開に付いていけないでいると、いきなり後ろから羽交い絞めにされ、そのまま床に組み伏せられる。
「痛ッ!何すんだよいきなり…ッ!」
「口を開くな魔族め!」
「魔族!?」
浩二を羽交い絞めにしている兵士が口にした言葉に疑問しかない。
「魔族って何だよ!」
「貴様!恍ける気か!確かにステータスにドワーフと記載されていたではないか!」
「はぁ!?」
「恍けるのも大概にしろ!」
そう言って浩二の頭を鷲掴みにすると、そのまま床へと更に押し付けるように抑え込む。
「この薄汚い魔族を牢へ!結界も厳重にな!」
「ハッ!」
蔑む様な目で浩二を見た王様の声に、組み伏せた兵士の周りに詰め寄っていた兵士数人が良い返事と綺麗な敬礼をする。
剥がすように乱暴に立ち上がらされた浩二はそのまま脇を兵士に抱えられ地下牢へと連行されそうになる。
「何だよこれっ!意味がわかんねぇよっ!」
そう訴えながら身動ぎするも、兵士二人に抑えられている為、どうすることも出来ずにいると
「痛ッ!」
不意に右隣の兵士が痛みに顔を歪める。
よく見ると兵士の露出した右腕から血がたれていた。
「フーーーーッ!」
そして先程まで裕二がいた場所そこには、小さな体を目一杯膨らませ、憤怒の表情を浮かべたナオの姿があった。
「ナオ!」
「クソッ!この魔獣がッ!」
「!?おい、やめろ!何する気だよおい!」
腕を引っ掻かれ血を流した兵士がナオに向けて激昴し、にじり寄りながらその腰のものを抜いた。
「フーーーーッ!」
依然として威嚇を止めないナオ。
「私の浩二を返しなさい!」と言わんばかりに。
「ナオ!俺は大丈夫だ!だから逃げろ!頼む!ナオッ!」
結果は見えている。
見え過ぎるぐらい。
だから浩二は言った「逃げろ」と。
懇願した「逃げろ」と。
しかし
ザシュッ!
嫌な音がした。
聞こえてはいけない音が聞こえた。
倒れているナオ。
その小さな体の下から赤い何かが見えたかと思えば、見る見るうちに血溜りに変わってゆく。
「貴様あぁぁーーっ!!」
自分でも驚く程の声を上げて血に濡れた…ナオの血に濡れた剣を持ち背を向ける兵士へと掴みかかる。
「そこを…どけぇッ!!」
無造作に兵士を突き飛ばすと、すぐさまナオへと走り寄る。
まだ暖かい。
両手で抱えたナオにまだ体温を感じる。
しかし、それも急速に失われていくのが嫌でも両手に伝わってくる。
「誰かッ!ナオを!ナオを助けてくれッ!頼む!頼むからっ!!」
必死に懇願する。
こんな事があってたまるか。
頼む…誰か…誰か…。
ドスッ!
後頭部が痛い。
何が起きた?
後ろを振り返ろうとするも、その前に視界が暗くなっていく。
(ナオ…ちくしょう…ナオ…ナオ……)
浩二はそのまま意識を強制的に手放された。
□■□■
「ここは…何処だ…つッ!」
頭に鈍い痛みが走る。
そして、痛みと共に徐々に鮮明になっていく記憶。
「ナオ…そうだっ!ナオはっ!」
頭の痛みを押し殺して辺りを見回す。
浩二が気付いた時には既に狭い地下牢へと押し込まれた後のようで、見渡すと言っても然程時間もかからずにすべて場所を探し終えてしまった。
「ちくしょう…ちくしょうッ!俺が何をした…ナオが…何をしたって言うんだッッ!!」
先程までナオを抱いていた両手にはすっかり乾いた血がこびり付いたままだった。
その両拳をきつく握り、床を叩きながら大声を出し行き場のない怒りを顕にしていると
「よう、兄ちゃん目覚めたみたいだな。」
軽い感じの空気を出しながら兵士が話し掛けてきた。
装備は浩二をココに運び込んだ兵士達と変わらないが、彼には右腕と呼ばれる物が根元から無かった。
しかし、それ以外は誰がなんと言おうが強いと分かるような屈強な四肢、素肌が見えている左腕にも幾つもの傷跡が見て取れた。
「大丈夫かい?随分とまた暴れたみたいだが。」
鉄格子ごしに話し掛けてくるその雰囲気は今まで…少なくともこの世界に来てから出会った誰よりも親身だった。
「…すみません…取り乱してしまいました…。」
そして浩二は謝っていた。
怒りもある、不安もある。
でも、この人にはきっと関係の無い事だから。
それでも抑えられる物じゃない…代わりに出たものは、嗚咽混じりの涙と泣き声だった。
□■□■
兵士さんは泣き止むまでその場を動かなかった。
そして、浩二が落ち着いたのを確認すると口を開いた。
「落ち着いたかい?」
「はい…すみません…。」
「いや、いいんだ。余程のことがあったんだろうさ。」
「はい…ナオが…飼い猫が…殺されました。」
拳をギュッと握り歯を食いしばる。
そうしないと…きっとまた泣いてしまうから。
「あー…アレか?…いや、どうだろ?」
「?」
兵士さんが何かを思い出したように呟く。
「お前さんの飼い猫って、銀の虎毛の…」
「はい…」
「生きてるぞ?…いや、多分だが。」
「は?」
変な声が出る。自分でも笑ってしまうぐらい。
「えーと、さっき勇者様の一人が血に汚れた猫を抱いてココを訪れてな。」
「え?え?」
「一応ここって許可が無いと勇者様でも入れないんだわ…それを言ったらその勇者様が「分かりました。伝言をお願いします」って。」
生きて…いる?
ナオが?
生きてる?
「えーと確か「この子は絶対に治してみせます。だから、元気になるまで預からせてください。」だったかな?…っておいおい!」
浩二は再び泣いていた。
だって、我慢出来るはずかない。
こんなにも嬉しいんだから。
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