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あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
最終章 未来

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予測と準備。


完全に油断していた。

いや、忠告は受けていたので一応の警戒はしていた。

それでもこれ程のダメージを頭で認識する前に叩き込めるというのは、ひとえにそれが待ち伏せだったからだろう。

どういう理屈かは知らないが、転移先を完全に予測していなければこうはならない。

女神様曰く

「直接にせよ間接にせよ、絶対に通ると分かってる道なんだからそこに罠を張らない筈が無い。」

という事で、一番怪しい場面だった訳だが…その予想はズバリ的中していた。


お陰様で迷う暇もなく奥の手を使わされた形になった浩二は、未だに傷口から残滓のような痛みを感じながらも、生命活動に支障がないのだから儲けものと割り切る。

必要になるかも知れないと密かに訓練していて本当に良かったと、すぐ側でグロい切断面を晒している下半身を見ながら心底思った。


それにしても…理の外とは言え身体を上下に分けられて左腕を引き千切られるまで気が付かないとか…実に情けない限りだ。

しかし、その圧倒的力量差のお陰でこうして止めを刺されずに済んでいる訳だが。

パッと見たところ、女神様の色違いの様なので普通に戦ったところで勝ち目は無さそうだ。


しかし、彼女の言葉を鵜呑みにするのならば…両世界が衝突する事を彼女は知っていた様だ。

更にそれを推奨している節さえある。

今の所分かっていることと言えば、白い女神様が大嫌いな事とクリスタルの中に居るはずの『椎名様』が大好き…いや、崇拝と言った方がいいかも知れない。

真っ先に左腕を引き千切り『椎名様』のブレスレットを奪い取る辺りでそれが伺える。


あのブレスレットは女神様曰く『寝坊助を起こす目覚まし時計代わり』だそうだ。

つまり、あれが無くては神様を起こせない。



まぁ、取り敢えず奪われたのがスペア(・・・)で良かった。



浩二は三つに身体を分けられたまま、まだ奪われてはいない『魔法発動体』を使い緑の女神様にバレないよう行動を開始した。



□■□■



「…おい、生きているか?」



戦闘機の様な形だったカグヅチは、四つの足を前に向け何らかのエネルギーを逆噴射し急停止すると、目の前をゆっくり通り過ぎようとしているあの女に声を掛ける。


力無く宇宙空間に身体を預け、普通に見ただけでは生死の判断がむずかしい程ナオは静かだった。



「…ふむ。取り敢えず回収して月に帰るか。」



そう言って前足を使い器用にナオの左腕を掴んだカグヅチは身を翻そうとして全身に悪寒が走る。



「……だれ?」



眼球だけを動かし口も開かずにそう発したナオは、カグヅチの姿を確認して気怠そうに身を攀じると、ストレッチのように身体の各部位を伸ばし始めた。



「…お前は、あの時の猫メイドで…間違いないか…?」


「あー、うん。そうだよ。」


「…そうか。」



明らかに違う雰囲気を纏わせたナオを見たカグヅチが、数日前とはまるで違うじゃないかと首を傾げながら、気のせいかと自分を納得させてルドラーからの事付けを伝える事にした。



「そうだ、シイナの代理でルドラーから言付けがある。」


「…ん?なに?」


「「コージは先に行った。」だそうだ。」



次の瞬間、ナオの身体から青白く輝く靄のようなものが吹き出す。



「っっ!!!それを早く言ってよっ!!!」



そうカグヅチに噛み付くと、身体がブレるように揺れ気付けばナオの姿は無かった。

まるで浩二と同じ様に。



□■□■



静かだなぁ…


胸の中心にある今は只の高純度クリスタルになってしまった浩二が作り出した魔核を意識しながら、自らの精神がこの寒く暗く広いだけの世界に散ってしまわないようにそのクリスタルに避難させてから途端に安定した自意識を客観的に見ながら、本当に何も無い空間を漂う。


実際には何も無いどころか、エネルギーに満ち溢れている事を女神様から聞いていたが、実際にそれが理解出来たのはこのクリスタルに避難してからだった。

それからはひたすらにエネルギーを己の身体に貯め続けた。

満足に動く事さえ出来ないそのオリハルコンの身体に。


変化は直ぐに起きた。

理の内側に居た時よりも遥かに早く濃密なエネルギーがオリハルコンに定着し始めたのだ。


女神様は言った。


「自分の身体にエネルギーを集めなさい。十分に集まったと思ったら強く願うんだ。「魔法を使う為の力が欲しい。」ってね。そうすれば…」


ナオの両肩に手を置き優しくも力強い瞳を向けて…


「ナオの身体そのものが『魔法発動体』になる筈さ。」


と。


ナオは言われた通りにエネルギーを集め続けた。

どの位で十分かは見当もつかないが、浩二が出発するその時まで続けてみよう。


そう思いながらいつの間にか意識は眠りの様なものへと落ちてゆき…ただ無意識にエネルギーだけをひたすら貯め続けていた。


気付けば目の前にはあの時の火龍がいた。


そしてこう言ったのだ。


浩二が先に行った…と。



頭に血が上ると同時に口から飛び出した罵声を浴びせた後、ナオは意識を集中する。

身体から溢れんばかりの力を感じながら、それらに向かい強く願う。


魔法が使いたい。


浩二の力になりたい。


共に並んで歩みたい。


その願いに呼応するかのようにナオの身体に集められたエネルギーはクリスタルへ向かい急速に高圧縮され、軽い爆発にも似たエネルギーを体外へ吐き出した。


そのオリハルコンの身体は薄い青の光を纏い、ナオの願いを叶える。


先ずは自由に動く身体。

それはもう既に無意識下で使用中だ。


そして今現在最も強い願い。


『浩二の所へ行きたい。』


本来ならば何度も何度も反復して頭に擦り込むことで可能となる転移魔法。

しかし、ナオにとってそれは必要なかった。

正確には浩二の所へ行く場合に限り…だが。


ずっと側にいた。

猫の時もマシナリーの時も。

その場所は、何の苦もなく当たり前のように頭に浮かぶ。

彼女の目標地点であり、帰る場所。


ナオは、久しぶりに自分の居場所へと空間を飛び越え…到着した。




読んでいただきありがとうございます。

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