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あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
最終章 未来

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試練。


「…とは言ったものの…私は何にも出来ないんだよなぁ。」



月の裏にある転移陣を囲う庵のような建物の中で絶賛訓練中の浩二を眺めながら悔しそうに呟く。

この建物の中はまだこの世界の(ことわり)の中らしく、普通に動く事が出来るナオ。

だが、一歩外へ出た途端に身体が鉛のように重くなり、身動き一つ取れないまま俯せに倒れる結果となった。

理由は簡単で、マシナリー…特に浩二の作るオール金属製マシナリーであるナオは各可動部から並外れた五感に至るまで全てが『魔法』頼りだった。

そこから『魔法』という概念を取り除けば、当然残されるのは可動すらままならない超重量の金属の塊でしかないのだ。



「今日も来てるのかい?」



転移陣から現れた女神様は毎日欠かさず浩二の様子を見に来るナオに向かい声を掛ける。

浩二が訓練を始めて今日で5日目、丁度リミットの半分が過ぎていた。

その間毎日この場所を訪れては浩二の訓練風景をただ黙って見詰めている。


最初の頃は、止めなければ休み無くぶっ通しで訓練しようとする浩二を無理矢理白の部屋へと連れ帰り、口に食べ物を押し込みベットへ放り投げて強引に休ませた。

ナオも浩二が休まなければ何時までもそこで見ているので、


「ナオが休まなかったらコージ君も休めないんだよ?」


と言い含めてこの場所のフリーパスを渡したところ、毎日ちゃんと屋敷に帰るようになった。

しかし、元気が取り柄のあの姿は見る影もなく、今日も今日とて暗い顔で柱の影から浩二の訓練を見守っていた。



「お前はどこかの野球バカの姉か!!」



意味不明な罵倒と共に女神様の平手がナオの後頭部に綺麗に入る。



「違うよ?私は浩二の嫁だもん。」


「なら、旦那は嫁のそんなツラ見たいと思うかい?」



その言葉を聞いた途端、両手を握り俯いて静かに震え出すナオ。



「…分かってるもん…そんなの…分かってるもん!!」


「全く…しょうがない子だね。」



涙をボロボロと零しながら悲痛に訴えるナオを真正面から強く抱き締める女神様。

静かに胸に抱いたその頭を撫でながらナオが落ち着くまでそのまま優しく抱き留めていた。



「…ごめんなさい。」



やがてナオが俯いたまま女神様から身を離す。

すると女神様はナオの手を取り顔を近づけて何かを確かめるように注意深く観察する。



「ほら、ナオ見てごらん。手から淡い青色の光が出ているのが見えるかい?」


「…ん?青い光?」



女神様に言われるまま自分の手に顔を近づけその人一倍性能のいい瞳で見てみると…確かに言われた通り、薄らと手全体を覆うように今にも消えそうな青い光が見える。

そして、よく見てみればそれは体全体にも言える事だった。



「それがダークエネルギー。今コージ君が使っている魔法の元さ。この場所は一応この世界の理の中だけど、ダークエネルギーも薄いながら存在しているんだ。」



女神様の言葉に何やら兆しのようなものを感じ取り真剣な表情で話を聞くナオ。



「今から言う事はあくまでも可能性の話だ。良いね?」


「うん!」



強く頷くナオ。

その返事を受けて女神様は話を続ける。



「今のままこの場所でコージ君を眺めていても何も変わらない。なら、少しでもダークエネルギーの多く存在する宇宙空間に身を置かなきゃダメだ。」


「…でも、私…息が…」


「それは本当に必要かい?」


「…え?」



心肺機能もオリハルコンに置き換わっていたナオの身体。

当然この世界の理から外れればそれは機能しなくなる。

しかし、ナオは一度肉体を離れ魂…所謂精神体のみの存在を経験している。

そして、浩二に作って貰った新しい身体に精神体を定着させて貰った。

精神体にエネルギーは必要ない。

ならば当然金属の身体に本来呼吸など必要無いのだ。



「昔ね、私を作ってくれた神様が先輩の神様から受けた試練の話を聞いたことがあるんだ。」


「試練?」


「そう。先輩の神様から新しいエネルギー体で出来た身体を貰った時に何も無い宇宙空間に身体一つで放り出されたんだって。神様は相当苦しかったそうだよ?」


「そりゃ、そうだよ!息が出来ないんだもん!」


「でも、それは錯覚だったんだよ。神様が貰った身体は呼吸を必要としないものだったんだから。」


「え?それじゃ…」


「うん。単に頭が呼吸する事を当たり前として覚えていたから『呼吸が出来ないから苦しい』って頭が勘違いしてしまったんだよ。…とは言え、そんなの頭で理解していたからって簡単にどうこうなるもんじゃないんだ。生物の本能だからね。」


「…でも…それをすれば、浩二の役に立てるんだよね?」


「もし私の考えている事が正しければ…間違い無くコージ君と並び立つ存在になれるよ。」


「なら考えるまでもないじゃん!」



背筋を伸ばし両手で沈み切った顔を張り気合いを入れる。



「浩二の為なら私は何回だって死ねるよ!」



そう宣うナオのその表情に曇りや翳りは一欠片も無かった。



□■□■



「エネルギー使いたい放題…ってのは有難いけど…」



右腕から鈍い痛みを感じながら、着実に転移可能な距離を伸ばしてゆく。

今現在、世界の理から外れた浩二は『絶対魔法防御』だけではなく『再生不可の呪い』までも無効化されている。

今まで痛みなど微塵も感じていなかった腕から生まれる激痛を覚えたての魔法で鎮痛&止血しながらの訓練はやはり集中力を必要とするこの訓練には邪魔でしか無かった。


身体にフィールドを纏いながら、痛み止めと止血、それを維持しつつ高速移動&長距離転移の訓練。

魔法使いになりたてホヤホヤの浩二には多少の経験があるとは言え少々荷が重すぎる。


ここまで丸5日間、確かに転移距離もスピードも見違える程上がってはいるが、これは全て反復練習の賜物であり…そう考えればやはり圧倒的に時間が足りないのだ。


そんな中浩二はここ最近ある事を実行しようか訓練しながらもずっと悩んでいた。

それさえ実行すれば…恐らく今以上の効率を得られる事も分かっている。


だが、やはり浩二はまだ人間(・・)でいたかった。

投稿遅れてすみません。


いつも読んでいただきありがとうございます。

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