魔法訓練。
浩二は今日訓練する魔法を既に決めていた。
まずは『火魔法』
蓮から覚えた魔法だ。
蓮の様にソフトボール大ではなく、ビー玉ぐらいの大きさで気の影響か何故か炎が青い。
それでも蓮の火炎球と相殺出来るぐらいの威力はある。
今日は一度に出せる数を増やしていこうと思っている。
次に『風魔法』
昨日の兵士との模擬戦で戦ったエルフの剣士さんが使っていたものを覚えた。
これは攻撃では無く防御で、圧縮した風の盾みたいなものだった。
浩二はこれを盾ではなく身体に纏うつもりだ。
想像次第で応用が利くのが魔法の利点であり、操気術の中に身体に纏うものもあるので、想像もしやすい。
最後に『転送』
これはナイスバディのサキュバスクイーン、ミラルダさんから覚えたものだが、実は浩二は昨夜試しに使って見たところ、穴の大きさは30cm程で持続時間は大体5秒ほど。
何より、何故か浩二の作る穴は正六角形だった。
実は面白い使い方を思い付いたので今日試してみるつもりらしい。
「さて…始めようか。回復頼むな舞…多分無茶な使い方するから、結構な頻度で枯渇寸前になると思うから。」
「え?…あ、はい。」
いきなりの枯渇宣言に戸惑う舞。
彼女は知らないのだ。
浩二のドMな訓練風景を。
「さて…まずは…風魔法だな…」
そう言って浩二は目を閉じ、自分の身体に風が纒わり付くイメージをする。
やがて、緩やかな風が浩二の周りを流れ始め、やがてその風は速度を増し、更に密度を上げていく。
「紫の…風?」
舞の呟くような言葉に気付いた浩二は目を開き自分の身体を観察するように見る。
「へぇ…風は紫なんだな…」
エルフの剣士さんが使っていた風の盾は薄い緑だった。
浩二の気が混ざると火は青、風は紫になる様だ。
すると浩二は徐に火炎球を一つ作り出すと、少し離れた場所から自分に向けて青い火炎球を放った。
青い尾を引きながら浩二に向かって来た火炎球は浩二に当たる寸前に風により軌道を変えられ、浩二のスレスレを通り過ぎ地面へと突撃し、小さな穴を穿って消えた。
「成程、ガードじゃなく受け流しなんだな…」
自分の体を使った実験によって、この纏った風の性質を理解すると、浩二は次のステップに進む。
「…え?」
舞が驚いた声を上げる。
彼女の目の前で浩二が青い火の玉を次々と作り出し、身体の周りに浮かべ始めたのだ。
そう、舞が驚いたのは…
風魔法を使いながら火魔法を使い始めたからだ。
「岩谷さん!無茶です!いくら精神力を体力で補えても、こんなの保つ筈ないです!」
だから舞は浩二に忠告する。
「大丈夫…じゃないけど…まだまだ行けるよ…一応、回復魔法用意しておいて…」
しかし、浩二は額に汗を浮かべながら、それでも笑顔でそう言い放った。
ドMの面目躍如である。
やがて、浩二は15個目の火の玉を出した段階で膝を付く。
「かぁー…っ!キツいわ…舞…回復よろしく…」
そう言って器用に片手の風だけ消して舞に差し出す。
「あっ!はいっ!」
舞は差し出された手を両手で包み込む様に掴むと、浩二の身体に流れ込むイメージをしながら回復魔法を使う。
「あぁ…凄いな舞…こんなの知ったら…ポーションなんて使えないや。」
流れ込んで来る優しい力に身を任せる浩二。
それでも魔法の維持は止めない。
「ふふっ、ダメですよ岩谷さん。ちゃんと一緒に美味しいポーション作るんですから。」
「ははっ、そうだったな。」
「でも…」
「ん?」
「今は…私に頼って下さい…頑張りますから。」
「うん。ありがとう舞。」
笑顔でお礼を言うと、舞は名残惜しそうに手を離す。
「さーて…こっからがキツいぞーっ!」
キツいと言いながら嬉しそうな浩二。
もう彼は真性に違いない。
舞は黙って見守る。
マナポーションを飲んで酸味に顔を歪めながら。
やがて浩二は人差し指と中指を揃えて空を指差す。
良く見るとそこには六角形の何かが二枚浮かんでいる。
結界を挟んで…だ。
「良しっ!行けっ!ファイアーバレットっ!!」
浩二が叫ぶと、体の周りを浮遊していた青い火炎球が一斉に六角形の何かに向かい殺到する。
互いにぶつからない様、青い尾を交差させながら我先にと言わんばかりに。
やがて最初に到着した火炎球が六角形の中心に当たったと思われた瞬間、火炎球はもう一つの六角形へと転移し空の彼方へと青い尾を引きながら消えていく。
次々と六角形を潜り空の彼方へ旅立つ火炎球。
最後の火炎球が六角形を通り過ぎた時、六角形もまた空気に溶けるように霧散していった。
「良しっ!成功…だな!…っと…舞…よろしく…」
よろめきながら舞に手を差し出す浩二。
しかし、その手に触れるものはいない。
「舞?」
「……あっ!すみません!今回復します!」
呆然としていた舞は浩二の呼び掛けに気付くと慌てて彼の手を握り癒し始める。
「…いやぁ…やっぱり…良いわ…舞の癒し。」
「…あの…さっきのは?…何だか…火炎球が結界をすり抜けたように見えたんですが…」
浩二を癒しながらも舞が疑問をぶつける。
目の前で起きた現象を理解出来ないのだ。
「あぁ、あれは『転送』を使って、結界の中から結界の外へと転送したんだよ。」
「え?…転送?…待って下さい…と言うことは…岩谷さん…魔法を三つ同時に使ったんですか…?」
舞は信じられないものを見るような目で浩二を見る。
「あぁ、でも『転送』は魔法じゃなくスキルだけどね。」
「…ソフィアさんの気持ちが少し分かりました…」
「え?何か変だった?」
「…はい。変です。凄く変です。」
「舞!?」
舞は隠すこと無く言い放つ。
やがて、回復が済むと浩二に向き直り口を開く。
「岩谷さん。『転送』は確かにスキルですが、あれは魔法です。しかも、空間操作系の上級魔法です。」
「マジで!?」
「はい。人族の城の書庫で見ましたから。かなり精神力を消費する筈です。」
「あぁ、確かに結構キツかったな…」
「結構キツいで済ます辺りが変な理由です。」
「舞…結構容赦ないね…」
普段と違う舞の遠慮が無い物言いに驚く。
「一体どれだけ体力があるんですか…普通は倒れます。間違い無く。」
「体力には自信があるんだ。」
「全く…これは…心配で目が離せない気持ちも分かります。」
「何か…すいません。」
「…分かりました…」
舞はグイッとマナポーションを飲み干すと、酸っぱい顔をしながら言い放つ。
「今日はとことん付き合います!もう、手加減なんてしません!」
「舞!?」
「癒され過ぎて気持ち良くなっても知りませんからねっ!」
舞は座った目で浩二を見ると徐に自分の横にマナポーションの木箱を置く。
「さぁ、始めましょう!私がいるからには絶対倒れさせません!」
「あの…舞さん?」
「頑張りましょうね!岩谷さん!」
「お、おう。」
目の笑っていない笑顔で舞が気合を入れる。
どうやら、舞の変なスイッチが入ったらしい。
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