1/1の力。
浩二のキレ方に少し後ずさる兵士達。
「あー…すみません。叫んだらスッキリしたんで、始めましょうか。」
「お、おう。」
混乱する面々を他所にスタスタと訓練所の中を進んでいく浩二。
「えーと、誰から始めます?あ、武器は自由で。俺は素手でやりますから。」
「おい…馬鹿にしてるんじゃねーよな?」
「違いますよ…素手しか知らないだけです。」
「なら、良いけどよ…怪我しても知らねーぞ?」
「是非!多分そのぐらいで丁度いいと思うんで…」
「………」
黙り込む兵士達。
このままでは始まらないと、ソフィアが助け舟を出す。
「さっさと始めましょ。私が審判をするから。コージなんてケチョンケチョンにしちゃって良いわ。」
「おい。」
「それじゃ、始めっ!」
浩二はその場を動かない。
静かに腰を沈め、力を溜める。
そこへ兵士の上段振り下ろしが襲い掛かる。
腰の入った良い剣筋だ。
しかし、スッ…と浩二の身体が横にズレる。
その直後に兵士の剣が浩二の肩を掠め、地面へとぶつかる…と思いきや、剣が青い光を纏いそのままノータイムで真横への薙ぎ払いに変わる。
『パワースラッシュ』だ。
スキルで無理矢理軌道を変える、そんな使い方も出来るようだ。
スレスレで躱していたのだから、避けようの無い…と誰もが思った薙ぎ払いを浩二は避けた…と言うより巻き込んだ。
素早く回転した身体で剣を腕ごと巻き込むように懐へ潜り、その拳は既に兵士の腹に当てがわれている。
「腹に力入れろよ?」
そう口にした浩二は腹に置いた拳を引くと、半歩踏み込む。
見た目は軽そうな…シュッと音がする突き。
その突きが兵士に当たった瞬間、後ろ足がタン!と子気味良い音を立てた。
周りのギャラリーがその音に気付いた時には、兵士は既に5m程吹っ飛んでいた。
「おい…今…何したんだよ…」
「なんか、随分と軽そうなボディだったんだが…」
「ただのボディであの体格差の相手を吹っ飛ばせるかよ!」
周りがざわめき始める。
ふと、倒れていた兵士がむくりと体を起こす。
「ゲホッ!ゲホッ!…かぁーっ!キツいわ…また随分と重い拳だな…」
咳込みながらも立ち上がろうとする兵士。
タフだね本当に。
「大丈夫ですか?」
「いーや、ダメだわ。足が言う事聞かねぇ。…暫く見学しとくよ。」
ガクガク震える足に拳を入れながらニカッと笑う。
あぁ、スミスさんと同種だ。
「それじゃ、次の相手は?誰かコージをケチョンケチョンに出来ないの?」
「おい。」
「次は俺がやるわ!」
「良いわ。それじゃ、始めっ!」
□■□■
「行っくよーっ!」
「また蓮か。良く続くな。」
「えー!だって楽しいよ?」
「それには同意だが…周りを見てみろよ。」
「んー?」
周りを見渡すと彼方此方に蹲ったり、座って観戦したりヤジを飛ばしたりしている兵士達の姿が。
そして、その兵士達を癒して回る舞と栞。
浩二は数十人の兵士と模擬戦をし、その尽くを倒した。
何度か兵士を挟んで蓮が連戦してたりするが。
浩二は足枷が取れた効果をこれでもかと言うぐらい感じていた。
疲れずらい事は当然として、身体が思い通りに動く。
頭で描いた通りに動いてくれる身体。
ほぼタイムラグ無しに発動できる操気術。
今までと同じ力で発動しても威力が違う。
これが本来の力なんだなと漠然と理解する。
そして、更に修練を積み身体と頭の摺り合わせが必要な事も。
「まぁ、良いや。良し、来い!」
「よーし!火炎球っ!」
ソフィアは既に飽きたようで、兵士達を癒していた舞と栞に合流し、ヤジを飛ばしている。
「うん、大分慣れてきたな。」
飛んできた火炎球を青く光る手の甲で軽く払い、返す手で握り潰す。
「ほら!蓮ーっ!もう貴女しかいないわ!コージをケチョンケチョンにするのよっ!」
「おい。」
「あははーっ!無理だよソフィアちゃん!お兄さん強いもん!」
ソフィアが飛ばしたヤジを笑い飛ばす蓮。
凄く楽しそうだな。
「これが最後そうだし、派手にやるぞ蓮!」
「うん!んーっ!…火炎連弾っ!」
蓮の残りの全力なのか。十数発の火炎球が浩二に殺到する。
浩二も負け時と丹田に力を込め、青く光るビー玉ぐらいの火炎球を同じ数作り出すと、迫り来る火の玉に狙いを付ける。
「ファイアーバレット!」
言ってみただけだ。
言わなくても発射出来るが、これが様式美と言うもの。
浩二の放った青い火の玉は、青い尾を引き蓮が放った火炎球その全てを空中で派手な爆発音付きで相殺した。
「疲れたねー!お兄さん!」
「あぁ、流石に疲れたわ…」
二人共訓練所の地面に大の字だ。
「お腹すいたねー…」
「おおっ!そうだ!晩メシっ!」
ガバッ!と起き上がりソフィアを見る浩二。
そんな浩二をジト目で見つめるソフィア。
「言えばすぐにでも出て来るわよ…」
ソフィアはため息をつくと、二人を立たせるために手を貸すのだった。
□■□■
「あ”ぁ~~…生き返るわ~…」
湯船に肩まで浸かった浩二は魂の声を漏らす。
城にある大浴場。
テニスコート5、6面分は優にあるであろう、文字通りの大浴場だ。
一般兵士にも解放されており、浩二の他にも少なく無い人数の兵士達が訓練の疲れを熱い湯で癒していた。
「よっ!コージの旦那!今日はお疲れっ!」
一人の兵士が浩二を労うと、隣に浸かる。
「あぁ、お疲れさん。」
「…ふぅ…堪んねぇなぁ…熱い湯ってのは…」
「普段は違うのか?」
「まぁな…この湯があるからこの城に兵士として志願した所もあるし。普通、水浴びや身体を布で拭くぐらいだよ。」
「…それはキツイな…風呂は、魂の洗濯だ。」
「いや、全くその通りだ。」
この城の兵士は志願制で、各領地から数年おきに交代で兵士としての任務に着くらしい。
この世界でも比較的強い部類に入る魔物が多く生息する大森林に囲まれているにもかかわらず志願する兵士が絶えないのは、ひとえにこの大浴場の魅力らしい。
気持ちは分かる。
風呂は人類の英智の結晶だと言っても過言では無いとさえ浩二は思う。
「…ふぅ…幸せだ…」
深めに湯に浸かりながら浩二は体を弛緩させた。
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