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あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
第九章 箱庭

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始まり。


その男、見た目は普通…いや、少々清潔感に欠けるようなボサボサ頭ではあるが、それ以外は至って普通の大学院生だった。


但し、頭に『変態的な』と冠する程の『天才』だという事以外は。



「やっとですね、先輩!」


「あぁ。全く無能共が、さっさと長期滞在可能なカプセルを作りやがれ。」


「そんな無茶な。なら先輩が作れば良いじゃないですか。」


「それは無理だ。俺は天才だが、何でも出来るわけじゃ無いからな。」



無理ときっぱり言いつつ自分の頭の良さは否定しない辺りこの人だなぁ、と小さな溜め息を吐きつつ荷物を『カプセル』と呼ばれる施設へ運び込む。

全体を金属で覆われ、窓は安全性の面から小さな物が一つだけ、分厚いスライド式のドアを開ければプライベート等微塵もない空間が広がっている。



「先輩はまた右側ですよね?」


「あぁ、頼む。」



当たり前の様なやり取りをして二つ並ぶ備え付けベッドのうち右側の傍に彼の荷物を置く。



【本日は軌道エレベーター『バベル』をご利用頂き誠にありがとうございます。】



二人の頭元にあるスピーカーから場内アナウンスと同時に女性の声が響く。



【13時30分発ステーション行き軌道カプセルは、後1時間程で出発致します。出発準備等御座いますので、30分前にはカプセルへとご搭乗する様お願い致します。】


「だって先輩!急ぎましょ!」


「急ぐって言ったって、積める荷物もこんなもんだろ?」



一応生活する為の全てのものはカプセル内に備え付けられているが、何分六畳というスペースしかない上、重量制限的な意味でも持ち込める荷物は限られている。



「女の子には色々あるんですっ!」


「あー、そうですか。で?付き添いはいるか?」


「要りません!」



プンと反対側へと顔を背けると、出発ロビー内にある売店へと走り去ってしまった。



「ま、いっか。」



そう言ってカプセルから出た彼は上空遥か彼方まで伸びるカーボンナノチューブ製のエレベーターシャフトを眺めながら、これから始まる実験の日々に思いを馳せるのだった。



□■□■



「身分証を拝見致します。」



カプセルの扉を開き身分証の提示を求める『バベル』の制服を着た綺麗なお姉さん。



「あ、はい。」


「お預かりします…はい、『カンザキ レイ』様ですね?」


「はい、そうです。」



身分証と呼ばれるカードをお姉さんに手渡すと、何かの機械にカードを通す。

すると何やら虚空に彼女の名前と顔写真、今回の搭乗理由等が映し出され、それを確認すると社交辞令の様に本人確認が為されカードが返却された。


同じく彼のカードも機械に通すお姉さん。



「…『タチバナ トオル』様ですね?」


「はい。」



素っ気なく返す(トオル)

どうやら彼はこの手の作業が嫌いらしく、早くフリーパスにならないかといつも愚痴っている。



「では、ステーションまでの旅ごゆっくりお寛ぎ下さい。」



仕事の終わったお姉さんは、再び社交辞令の言葉を残しカプセルを出て扉を閉めた。



□■□■



【間も無く13時30分発、ステーション行き軌道カプセル発射致します。お怪我のないよう、シートにお座りになりベルトで身体を固定して下さい。】



二人は手馴れた様子でベッドの隣に設置してあるシートに腰掛けベルトで身体を固定する。



【13時30分発、ステーション行き軌道カプセル、発射致します。】



緩やかに上昇を開始するカプセル。

そして定位置に着いたのだろう、それは一気に加速する。



【お疲れ様で御座いました。ここからは約7日程の安定運行に入ります。扉のロックが解除されましたので、共有スペースのご利用が可能となりました。何か御用が御座いましたら、乗務員までお気軽にご相談下さい。では、長旅では御座いますがごゆるりとお寛ぎ下さいませ。】



頭元のスピーカーからアナウンスが流れる。



「先輩、どうします?」


「俺は、寝る。」



器用にベルトを外しながら(レイ)が理に問いかける…が、既に彼はベッドで横になっている所だった。



「…ですよね。私はカフェにでも行ってきます。」



麗はヒラヒラと振られた理の手を横目に分厚い扉に手を掛けた。


『共有スペース』

軌道エレベーターは、8本のカーボンナノチューブ製シャフトを手繰り寄せる様にして上昇する。

8本のシャフトは10m間隔で円形に配置され、巨大な円形施設を空へと運ぶ。

『カプセル』と呼ばれる個人スペースは、この円形施設の周りに固定されており、ステーションまでの一週間を過ごすプライベート空間になる。

そして、中央にある円形施設が『共有スペース』だ。

各『カプセル』から繋がっており、カフェ、レストラン、売店等、様々な施設が軒を連ねており、客を飽きさせないよう様々な工夫がなされている。

言ってしまえば円形施設が『ホテル』であり、カプセルが『客室』と言えよう。

勿論、医療施設も併設されており万が一の場合は小型のカプセルにて地上へと帰還させる事も可能になっている。


現在衛星軌道上を回るステーションは6つ。

その内の2つは日本の所有物であり、更にその内一つは民間で打ち上げられ組み上げられた物で、数多くのスポンサーや企業がそのステーション内に施設や設備を持っている。

理が席を置く大学もその一つで、日本で数少ない『ステーションにラボを持つ大学』として有名だ。

宇宙物理学に強いその大学では、定期的にラボへと院生を送り宇宙空間でしか出来ない実験を試みている。


しかし、太陽光による放射線被曝の影響を考え、滞在は最大5ヶ月、帰還後3ヶ月は再びラボへと向かう事が許されていない。

それが冒頭での理の愚痴の理由だ。

前回の滞在から4ヶ月後の今日、前任の学院生との交代の日がやっと訪れた。

これから7日間の長旅を終えた後、彼はやっと前回の研究の続きをする事が出来るのだ。


『ダークマター』の存在と正体の考察…という研究を。

読んでいただきありがとうございます。

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