ゴーレムと火の玉少女。
「よし、改めて組手だ。」
「はい、マスターコージ。」
「あー…そのマスターコージっての止めようか。マスターだけで良いよ。」
「はい、マスター。」
「よし、それじゃ、始めよう。最初は軽めに流して身体に馴染ませよう。」
そう言って軽く踏み込み正面に突きを入れる。
ゴーレムはその突きを見た目とは違い洗練された動きで躱す。
そして躱した動きをそのまま利用して回し蹴りを放ってくる。
速度もテンポもそれ程速い訳では無い…が、相手の虚を突く動きがスピードを補っていた。
「思ったよりも遥かに良い動きだな。」
「光栄です、マスター。」
会話しながらも動きは止めない。
浩二にとっても、久しぶりにまともに動かす身体には丁度いいくらいだった。
そして、浩二はそのまま小1時間程ゴーレム相手に組手を続けた。
「ゴーレム、この辺にしとくか。」
「はい、マスター。」
「身体の具合はどうだ?」
「はい、特に問題はありません。」
「そう言えば、エネルギーって言うか…ゴーレムって何で動いてるんだ?」
「私は大気中の魔素を吸収して稼働しています。」
「魔素…って言うと…魔法と同じか。」
「はい。」
暖まった身体を休めながらゴーレムと会話していたが、何やら周りが騒がしい。
「見たか?今の…アレ、ゴーレムだよな…?」
「つーか、一緒にいる男…一体どんだけ体力あるんだよ…1時間ぐらい組手してたぞ?」
「ゴーレムって組手出来るのか?…ってか、理解出来るもんなのか?」
「お兄さん!私もゴーレムとやりたいっ!」
等とこちらを見ながらあーでも無いこーでも無い言っている。
あ、最後のは蓮だ。
「蓮の嬢ちゃん、アイツを知ってるのか?」
「うん!すっごく強いんだよ!」
「…ほう…」
蓮の言葉に兵士達の視線が集まる。
あー、これはアレだ。
スミスさんと同じヤツだ。
「えーと…初めまして。ドワーフの岩谷浩二って言います。コージって呼んでください。今はソフィアの世話になってます。」
とりあえず自己紹介してみた。
すると、急に静まり返り…そしてざわめき出す。
何だろう?何か変な事言ったかな?
まぁ、良いや。
「蓮、やってみるか?」
「良いの!?」
「あぁ、構わないよ。ゴーレムも良いよな?」
「はい、マスター。蓮様、よろしくお願いします。」
「てへへ…蓮様だって、何か照れくさいや。ゴーレム、よろしくね。」
言われ慣れない様付けに照れる蓮。
やがて二人は少し距離を取り、合図を待つ。
「んじゃ、怪我の無いようにな…って言っても舞がいるか。それじゃ、始めっ!」
浩二が合図をすると、先に行動に出たのは蓮だった。
素早く距離を詰め回し蹴りを放つ。
待に入っていたゴーレムはその蹴りを軽く手を添えて受け流す。
しかし、追撃はせずに軽く距離を取る。
「何だろ…何か…お兄さんと戦ってるみたいな感じ…」
流石は蓮。
伊達に俺と連戦してない。
アレ…なんか忘れてるような…
蓮と…連戦……あっ!
思い出した時には遅かった。
「それじゃ…本気で行っくよーっ!」
蓮はそう宣言すると、火の玉を数個自分の周りに浮かべる。
そのままゴーレムへと掌を向ける。
「火炎連弾っ!!」
蓮の言葉に合わせて複数の火炎球がゴーレムへと飛び掛る。
ゴーレムは避けたり払ったりしているが、全てを躱すのは無理らしく、身体のあちこちが焦げ付いている。
そうしている間にも新たに創り出された火炎球が次から次へとゴーレムに襲い掛かる。
「蓮っ!ストップ、ストップ!、アイツはウッドゴーレムなんだから!」
「え?…あっ!」
どうやら気付いたようだ…が、砂埃が晴れてそこに居たのは、身体のあちこちを黒焦げにして跪くゴーレムだった。
「大丈夫か?ゴーレム!」
慌てて駆け寄る浩二に蓮も付いていく。
「すみませんマスター…負けてしまいました。」
「そんな事は良い。身体はどうだ?」
「はい、左腕と右足と左足首が動作不能です。修復も困難です。しかし、魔核は全て無事です。」
「ごめんね…ゴーレム…」
蓮はシュンとしながら謝る。
「いえ、蓮様。私の能力不足です。蓮様は何も悪くありません。」
「でも…痛そう…」
「蓮様、私に痛覚はありません。蓮様が気に病むことなどありません。」
「蓮、俺が悪いんだよ。蓮の得意攻撃すっかり忘れてたんだから。」
「…うん…ゴーレム…治る?」
いつも元気な蓮が涙目でこっちを見る。
ゴーレム相手なのに優しい子だ。
「大丈夫だよ。ソフィアに言って今度は金属製にするから。直ったら、また相手してやってくれ。」
「私からもお願いします、蓮様。蓮様との戦闘は勉強になりますから。」
「うん。ちゃんと治ったら、またやろうね。」
「はい、蓮様。」
二人のやり取りを優しい眼差しで見ていた浩二は、ゴーレムに向き直り指示を出す。
「ゴーレム、一時休眠だ。魔核を取り出す。次に目覚めた時に驚く様な身体を作ってやるからな。」
「はい、マスター。ありがとうございます。」
浩二はゴーレムが開いた胸から魔核を取り出すと、続いて額と喉からも魔核を取り外す。
「それじゃ蓮、俺はソフィアの所に行ってくるよ。」
「うん。お兄さん…ゴーレムによろしくね。」
「あぁ、蓮も訓練頑張れよ?次に会うゴーレムはもっと強いからな?」
「うん!楽しみにしてるねっ!」
笑顔に戻った蓮は、こちらに手を振りながら舞と栞のいる治療場へ走って行った。
□■□■
「と、言う訳でソフィア…金属をくれ。」
「…私と別れて数時間で何でこんなに急展開になってるのよ…」
額を抑えながらソフィアが呟く。
「いやぁ、蓮が火の玉少女なのすっかり忘れてて。」
「…はぁ、まぁ良いわ。で?なんの金属が良いの?ミスリル?アタマンタイト?オリハルコン?」
「また…凄い名前がゴロゴロ出て来たなぁ…」
何の気なしに伝説の金属の名前が混じっているんだが…
読んでいただきありがとうございます。




