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あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
第八章 交易と発展。

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極楽鳥。


「あ!えーと、先に言っておきまーす。」



舞が獣人達の列を前にして後ろまで聞こえるように話す。



「欠損の回復は体力を消耗します。今現在怪我や病気の方は先に栞ちゃんの『舞』を鑑賞してから来て下さいねー。」


「はいはーい!舞の公演はこっちですよー!」


「麗子ちゃんも舞ちゃんもあんまり大袈裟に言わないで…っ!」



公演やら鑑賞やら言われ獣人達の注目を集める栞。

只でさえ小さな身体を縮こませ恥ずかしそうに俯く。

しかし、いざ舞を始めれば見るものを魅了し瞬く間に傷や病を癒す舞妓へと姿を変えるのだから、ある意味詐欺とさえ言えるだろう。

まぁ、騙されて怒る者はいないだろうが。



「さて…スパルナ、お願いね。」



獣人邸の真ん前、丁寧に手入れされた広くて小綺麗な庭園の中で列を成す獣人達。

その一番前に設置された椅子に腰掛け、純白の杖を額に押し当てて小さく呟くように口にする舞。

その身体は淡く光り輝き、やがて光は1枚のローブへと姿を変え舞を優しく包み込む。


列の一番前に居た獣人は、静かに目を閉じ純白のローブに身を包む舞の姿に目を奪われていた。



「さぁ、始めましょうか。」


「あ…あぁ、はい。お願いします。」



完全に見蕩れていた獣人は、舞の言葉に慌てて答えると彼女の正面に用意された椅子に緊張気味に腰掛ける。



「あ、そんなに緊張しないで。痛くも痒くもありませんから。ただ、再生する際に多少の熱を感じるかも知れませんが。」


「…あ、はい。大丈夫です。」



そう言った獣人は前髪で隠れていた左眼を舞に晒す。

失礼しますね、と遠慮がちにその左眼があったであろう傷を指先でなぞる。



「それじゃ、始めましょう。右眼を私に良く見せて下さい。………はい、そのままでお願いします。」



無事である右眼を良く観察しながら、左眼に添えた左手に力を込めてゆく。

左右対称ならばこうして実物を見ながら再生部分を想像出来るため、比較的治療は早く済む。

やがて患者である獣人の頭の左半分が金色の眩い光に包まれ…静かに収まる。



「…はい。どうですか…?」



舞はゆっくりと左手を獣人の左眼から離しながら問いかける。

そこには、斜めに刻まれた深い傷すら跡形も無くなり、再生され閉じられた瞼がピクピクと震えていた。

やがてゆっくりと開かれた瞳が光に反応して瞳孔を変化させる。



「おお……っ…」



気づけばその瞳だけではなく、無事だった右眼からも涙が溢れていた。

その涙を乱暴に腕の毛皮で拭うと、そのまま獣人特有のしなやかな動きで舞の両手を自分の両手で包む。



「本当に…ありがとう…もう一生見えないものと諦めていた…」


「いいえ。治って良かったです。」



せっかく拭った涙を再び溢れせありがとうとお礼を繰り返す獣人に舞はいつもの様に優しく微笑み返す。

この微笑みに何人の人達が虜になって来た事か。


余程嬉しかったのだろう、このままでは治療が進まないと見兼ねた蓮が獣人を宥めるまでお礼責めは続いた。

そのまま蓮は舞の傍らに残りサポートをしながら治療は続けられ、やがて重い欠損をしてしまっている十数名の獣人を残し治療は一旦区切られた。



「やはり…其方程の術者でも彼等の治療は難しいか…?」



残された十数名を見てタマモが少し悲しげに話し掛けてくる。

その問に舞は静かに首を横に振る。



「いいえ、タマモさん。治療自体は今すぐにでも可能です。可能ですが、彼等の体力が保つかは別問題なんです。」


「…と言うと?」


「タマモさんは『極楽鳥』ってご存知ですか?」


「あ、あぁ、一応聞いたことだけはあるが…今は亡き(・・・・)あの『楽園』の守り神だろう?」


「はい。その楽園が何故亡んだか…知ってますか?」



タマモにそう問いかける舞の表情は何処か暗い。

抱き締めるように抱えた杖も心做しか悲しげな光を放っているようだった。



昔、サーラ半島の東側にある半島…世界地図で言う所のインド亜大陸の南端付近に少しばかり有名な村があった。


その村の名は『楽園(エデン)

その大袈裟にも思える名前の由来は決して大袈裟などでは無かった。

その村人は生まれた時、一羽の鳥を与えられる。

その鳥の名は『極楽鳥』

鳥とは言え立派な魔物であり、その能力は他の魔物と比べても遜色無いほど強力だが、性格は温厚で争いを好まない。

いつからかこの村に住み着き、食料を与えて貰う代わりに村人を守って来た。

その能力とは『治癒』、極楽の名を冠するに相応しい能力だ。


村人は生まれてすぐ与えられたその一羽と生涯共に暮らす。

この極楽鳥のお陰で村で暮らす限り、あらゆる痛みや病とは無縁で居られるのだ。

恵まれた土地故に作物も良く育ち、近場の海からも少なく無い恵が得られた。

時折噂を聞きこの村を訪れる者もいたが、その者を村人達が受け入れると、どこからとも無く極楽鳥が飛来して来てその者の肩に留まったという。


これだけ聞けば良いことづくめだが、世の中そんなに甘くは無い。

極楽鳥が与える治癒の力。

これはそれを受けた者の生命力を活性化させる物だ。

言わば代謝を上げて傷や病の元を癒しているのだ。


どんなに小さな傷でも見逃さずに全て。


そして、その代償として『寿命が短くなる』

正確には過剰代謝により早く老けてゆく事になるのだ。

この村の村人の平均寿命は30代前半であり、それは通常の半分程の数値になる。


それでもそれを承知でこの地を訪れ、短い人生を痛みと病から解放されて過ごしたいという者は後を絶たなかった。


そんな中、この『楽園』の運命を左右する一羽の極楽鳥がこの世に生を受けた。

通常の極楽鳥は色とりどりの鮮やかな見た目をしているのだが、その一羽は違った。

全身が純白で、頭から後ろへと長く伸びた1本の飾り羽根だけが真紅に染まっていた。

その神々しいまでの姿を村長に気に入られたその一羽は、丁度生まれたばかりだった村長の孫に与えられた。


そして純白の極楽鳥は村長の孫と共に大きな怪我も無く、スクスクと育っていった…


この時までは。

投稿遅れてすみません。


読んでいただきありがとうございます。

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