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あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
第八章 交易と発展。

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助けるべき敵。


「おっ、アレが例の城壁か?」



遠目に見えて来たロスチャイルド伯爵邸の敷地を囲う城壁。

猛の目線の先、たった1本通された街道が続く先に立派な城門があり、それ以外は森と言っても差し支えないレベルで草木が鬱蒼と生い茂っているのが見える。


何故木が生い茂っているのに遠目から城壁が見えるのか?

答えは簡単だ。



「ねぇ…アレって自宅を囲うレベルの城壁じゃないわよ?」


「ずーっと続いてるね…」



エアバイクを停め、同じく隣にバギーを停めた麗子と栞がその規模に唖然とする。

この世界に来る前に写真で見たとある国の長城。

森の木々や山々から見え隠れするその姿までまるで切り取って来たかのように瓜二つだった。


一同は非常識の塊の様な存在を知ってはいるが、それでも尚驚かずにはいられない。

これだけの規模の建築を一体どれだけの金と時間を掛けて行ったのだろうか…

そして、そこまでする程の物があの城壁の内側にはあるというのか。


いつの間にか5人は横一列で並んで遠目に見える城門を眺めていたが、やがて麗子が最初に口を開いた。



「んー、6人ね。」


「は?5人だよな?」


「うん、私も5人だと思う。」


「私は麗子ちゃんと一緒かな?」



続けて次々と何かの人数を挙げ始め、残った栞に全員の視線が集まる。



「…えーと、栞はイナリに教えて貰ったから答え知ってるんだ…」


「こら!イナリ!」



麗子は栞の首に巻きついたイナリにずいっと近付き叱り付ける。



「あんたが栞の事大好きのは分かるけど、何でもかんでも教えてたら栞がいつまでも成長しないんだからね?」



突然叱られて驚いたのだろう、イナリは俯き気味で麗子をチラチラと見ている。

そして、諭すように優しく掛けられた言葉を理解したのだろう、麗子の目をじっと見つめコクリと頷いた。



「うん、分かれば宜しい。…あ、丁度帰って来たし、答え合わせしましょ。」



そう言って麗子が右腕を前に伸ばすと、大きな翼を羽ばたかせゆっくりとアローがその姿を現す。

腕を傷付けないよう細心の注意を払いながらその腕に留まったアローは、バサリと一度大きく羽ばたき翼を畳むと、麗子の方をじっと見詰める。



「お疲れ様アロー。早速で悪いんだけど、見せてくれる?」



麗子の言葉に静かに頷いたアローは、近付けてきた麗子の額に自分の額を重ねる。

フワッと羽毛の柔らかな感触を額で感じていると、瞳を閉じた麗子の頭の中にアローが見てきた物が映像となって流れ込む。



「流石はアロー。これじゃ遮蔽物なんて何の意味も無いわ。」



そこに映し出された映像は、森林や城壁の色彩はそのままに、生物だけがまるでサーモグラフィで表示された様にハッキリと映し出されていた。


そう、アローには先行して軽く辺りを偵察して貰っていたのだ。

結界の無い城壁などアローにとっては唯の大地に刻まれた模様に過ぎない。

その超高性能な索敵能力を遺憾無く発揮し、その全てを記録して麗子へと届けたのだ。

今回はイナリの隠蔽も併用した為、アローの姿は向こうには見られてはいないが、事前に言われた通りその存在感だけは隠さずに飛び回って貰った。


結果…



「おー、おー、逃げる逃げる。まぁ、流石に最上位種の気配をガンガンに押し出して飛べば、普通はこうなるわよね。」



サーモグラフィで映し出された数十名は居ただろう人型のシルエットが海側…南の方へ引いてゆく。

城壁の外側にいた数名は斥候なんだろうか?異様な気配を感じながらも城壁を越えられずその場で動かずにじっとしている、その数6名。



「はい、正解は6名でした。」



麗子は嬉しそうに口にする…が、直ぐに表情が引き締まる。



「どうした?」


「ちょっと待って…何か…変なのよ。」



雰囲気の変わった麗子に静かに問いかける猛。

スッと左掌で猛の言葉を遮り、アローの持ち帰った映像を更に注意深く見返していた麗子は、何かに気付いた様で目を開きアローの額を撫でながら猛の方を向く。



「私の勘違いなら良いんだけど…」



一拍置いて続ける。



「もしかしたら、待ち伏せしてたの獣人達かも知れないわ。」


「…は?」


「アローなら分かるわよね?確認するけど、あの待ち伏せしてたのって…獣人?」



麗子の問に真っ直ぐ瞳を見てコクリと頷くアロー。



「やっぱり…」


「おいおい、話が全く見えねーぞ?」


「大丈夫、私も全く分からないから。でも、一つだけ言えるのは…」



真面目な顔で振り返り、皆を見ながらここで溜息を一つ。



「私達が助けに来た獣人達が、今は敵になってるかも知れないって事よ。」



額を押さえ首を振りながら再び深い溜息を吐いた。



□■□■



「…この気配はなんだ…!?空か…!?」


「…ヤバい!見えなくても分かる!引くよっ!逃がして貰えるか分からないけど…っ!」



狐の獣人が、同じく色違いの狐の獣人に向かい撤退を促す。

今、空を飛ぶ異常な気配を放つ何か。

今、向こうの気分次第でいつ何をされてもおかしくない状況なのだ。

そして、それを回避する術も防ぐ術もない…獣人特有の、感覚がカンカンと五月蝿いぐらい警鐘を鳴らしている。



「…どうやら攻撃する気は無いらしい…」


「…今の内に引こう…!あちらさんの気が変わる前に!」



2人は直ぐ様近くの仲間の元へ走る。

急ぎ合流した仲間達も恐らくは同じ目に遭ったのだろう、皆一様に冷や汗塗れだった。



「…取り敢えず急いでライデンさんに知らせよう!」


「…あの人でも手に負えないかも知れんがな…」



獣人達は鷲掴みされた感覚を心臓に残しながら鬱蒼とした森の中をひた走り逃げる様に退却して行った。



□■□■



「……あの気配はエンペラーイーグルの気配だったか…」



城壁に背を付くように座り込んだ右耳の無い狼の獣人が麗子の肩に留まるアローを見て苦笑いを浮かべる。



「あなたは逃げないの?」


「逃げて逃げ切れるかよ。それぐらいはいくら俺が馬鹿でも分かる。」


「そう。なら、幾つか質問したいんだけど…」


「…ソレは…無理…だ…ゴフッ…」



突然話しながら馬鹿みたいな量の血を吐き出す獣人。



「もうッ!馬鹿なんだからッ!!舞っ!」


「今やってる!」



血を吐き出しそのまま気を失った獣人を舞の振る杖に合わせて金色の光が包む。

顔色が見る見る良くなり…やがて呼吸も安定し始める。



「コレは話すだけ無駄ね!さっさと殴るなり蹴るなりして気絶させた方が速いわ!やるわよっ!」


「りょーかい!」


「ガッテン!」



舞と栞を獣人の元へ残し、麗子、猛、蓮は自殺を止めるべく残りの斥候の元へと散った。

読んでいただきありがとうございます。

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