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あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
第八章 交易と発展。

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駅の需要。


翌日の昼頃、約束通りソフィアは書類の束を持って浩二の屋敷を訪れた。

まずその書類の量を見て驚いた浩二。

昨日は『料金表』なんて言っていたのでもっと…こう、箇条書き程度だと思っていた浩二は思い切り面食らう。



「マスター、暗記はお任せ下さい。全て一文字漏らさず記憶します。ソフィア様、ありがとうございます。」


「ふふ、任せたわタロス。一応乗り物…乗合馬車や箱馬車を借りたりした時の料金なんかを纏めておいたわ。料金って言っても箱の大きさや広さ、馬の頭数でも細かく変わっちゃうから。」


「それにしても…多くないか?」



書類仕事は自分から最も遠い職種なだけに、辞書程の厚みで積まれた書類を見て軽く引き気味の浩二。

その横では物凄いスピードで書類を捲りその膨大な記憶領域へと情報を詰め込んでゆくタロス。



「折角だから他の料金形態も知っておいた方がいいと思ってね、色々用意したわ。」


「薬草1枚の相場平均から始まり、冒険者ギルドの依頼相場まで幅広く網羅している様です。これからの領運営に非常に役立ちそうです。改めてありがとうございます、ソフィア様。」



どうやら全ての書類の記憶が終わった様で、タロスは改めて情報の有用性を感じソフィアに頭を下げる。



「気にしなくて良いわよ。これから密に繋がる領地になるんだから、これ位は先行投資よ…ってより、施工費を丸々サーラ領で出してるんだからこの位しなきゃ逆に申し訳ないわ。」



確かにサーラ領からドワーフ領の端まで約2000kmをトンネルで繋ごうと考えれば、本来は代を跨いだ大事業と言っても過言では無い規模だ。

間違えても『得意だから』と言う理由で1日で終わらせて良い距離でも規模でも無い。

その事を考えれば、逆に心苦しいのはソフィアの方だったりする。

しかも、これから話し合う駅の規模によっては更なる負担を浩二に与える事になるのだから。



「それこそ気にしなくて良いよ。ハッキリ言って今回の地下鉄はうちの領にメリットしかないから。唯でさえ人が敬遠する土地なんだし、せめて交通の便くらい整えなきゃ誰も来てなんかくれないよ。」



浩二は自分の領地がどういう場所なのか良く知っている。

灼熱と極寒が同居し、乾燥した大地が何処までも続く生物の住まない地獄の様な土地…だった。

領地としてその場所を貰い受けてから数ヶ月。

色々と手を尽くし、気候もある程度安定するまでに至った。

妖精達の頑張りもあって半島中央にある巨大湖周辺は既に南国の植物で溢れている。


しかし、それを外の人達は知らないのだ。

それはそうだろう、誰が好き好んで大陸西端にある地獄の様な土地へ『大森林』という命の危険を越えてまで行くと言うのか。


だから作った。

距離にして2000kmを1日掛からずに行く手段を。

大森林を命の危険を無しに通過する手段を。

1人でも多くの人に今の(・・)サーラ領を知って貰いたいから。



「そうそう、まだ言って無かったわね。」



その浩二の気持ちを知ってか知らずか、ソフィアが新たな情報を追加してくる。



「新たにルグルドからドワーフとエルフが、宿場町の方からも同じくエルフとドワーフがそれぞれ移住出来ないかって打診…と言うか相談があったわ。」


「マジで!?」


「ええ、マジよ。」



その情報とは前回のドワーフ達に続き、新たな移住希望者の話だった。

まさか自分から募集しなくても来てくれるとは夢にも思っていなかった浩二は目を丸くして驚き…そして顔がにやけてしまうのを我慢出来ずにいた。



「ふふ、我慢しなくていいのに。えーと、内訳は鍛冶見習いと細工師見習いがこの間と同じ位の人数なんだけど…今回それとは別に店舗と宿を開きたいって人達が居るのよ。」


「…一体その人達に何が起きたんだ?変わり者にも程があるだろ…」



今の所、この領に商店はまだしも宿を建てるメリットが見当たらない…先物買いや先行投資にも程がある。



「素性は至って真面目な宿場町の宿屋の次男夫婦と、同じくルグルドの商店の次男夫婦よ。」


「店は長男が継ぐから…か?それにしても冒険し過ぎだろ…家族も居るんだろ?」


「子供はまだ居ないみたいだけど、4人揃って20代の若者よ。」


「…若いなぁ…何だろ…俺の方が緊張して来た…」


「何でコージが緊張するのよ。」



先のある若者の人生を預かる気分になり、おかしな緊張感を感じる浩二。

そこまで背負わなくて良いのに、変に真面目な男だ。



「4人ともこの間宿場町でコージのエアトラックを見て決めたらしいわ。タイミングは違うけど、宿屋の次男夫婦と商店の次男夫婦に駅の話をしたらどちらの夫婦も物凄い勢いで飛び付いて来たわ。」


「確かに、駅周辺に屋台や宿屋なんかは必要だと思うけど…」


「甘いわ。」

「甘いです。」


「え?」



浩二の甘い見通しにソフィアと今まで傍観していたタロスまでもが突っ込みを入れて来た。



「今から詰める話だから軽く話すけど…宿だけでも数件じゃ明らかに足りないわ。その宿に食堂が無いなら、食べ物屋や酒場が同じく必要ね。」


「……そんなに?」


「やっぱりアンタ自分が作った物を舐めてるわね?」


「マスター、今のは片方だけでは無く両方の駅周辺にに必要です。現在1日1便だけで考えれば、前乗りで来るの客等が泊まり列車を待つ為の施設は必要でしょう。同じく、列車で到着後直ぐに出発するとは限らないならば、やはり宿は必要でしょう。」


「…全く頭に無かったわ。駅だけあれば良いと思ってたけど…確かに駅前通りに宿や食堂とか酒場なんかは必須だな…ってより…これ、列車の運行が安定したら…」



浩二の額から冷や汗が流れ落ちる。



「やっと気付いたわね。そう、需要で人が溢れ返るわ。ただでさえコージの領は珍しい物が多いんだから。」


「マスター、今サーラ領で生産されている『石英ガラス』と『砂漠の雫』とそれの安価版たる『美容オイル』、それにもう少しお時間を頂ければ『醤油』と『味噌』も軌道に乗ります…まぁ、まだ売り捌く程は生産出来ませんが…これもサーラ領の畑とバルへイムの畑が軌道に乗れば安定供給が可能です。」


「醤油と味噌に関しては私も欲しいわ。」



ソフィアはサーシャと共に浩二の屋敷へ通う内にすっかり和食が気に入った様だ。

ならばやはり醤油と味噌は外せないだろう。

読んでいただきありがとうございます。

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