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あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
第八章 交易と発展。

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引越し。


変だ。


自分の毒はそこらの魔物が出す毒とはレベルが違う筈だ。

なのに、何故コイツは溶けない?


力一杯噛んだ筈だ。

なのに、何故コイツは死なない?


これでもかと言うくらい壁に叩き付けた筈だ。

なのに、何故…何故まだ生きている?


しかも平然と。


噛む力を緩めたつもりは無い。

なのに、力さえ入れた素振りも見せずに悠々と口から滑り出して行った。


怖い。

怖い。

光は嫌いだが我慢出来る。

でもコイツはダメだ。

どうやっても…勝てない。


…自分は…死ぬのだろうか…?


死にたくないな…まだ生まれたばかりなのに。

何も悪いことはしていないのに。



□■□■



「マスター!ご無事ですかっ!?」


「あぁ、タロス。そっちは大丈夫だったみたいだな、お疲れさん。」


「はい、滞り無く。今エアトラックと掘削機は停止してこの先に置いてあります。取り敢えずそこまでのトンネルは全て照らして来ましたので魔物が湧く心配はありません。それでマスター…」


「ん?どうした?」


「いえ、これは一体何事かと。」



タロスの視線の先には、頭を垂れ潤んだ漆黒の瞳から涙を流すバシリスクの姿があった。

その涙さえ猛毒か酸なのだろう、地面に垂れた涙はジュッ!と言う音と共に煙となり空気に混ざる。



「…新手の攻撃手段でしょうか?バシリスクはまだまだ生態が知られていない魔物ですから。」


「いや、あれ多分泣いてんだと思うけどな。」



浩二はそう言って数m先で涙を流すバシリスクへと歩み寄る。

浩二が近付くとビクッ!と露骨に怯える素振りを見せたが、観念したのか覚悟を決めたのかバシリスクは額に伸びる浩二の手を受け入れた。

浩二が触れたのは白い模様。

漆黒の体躯を持つバシリスクの中で唯一白い王冠にも見えるその模様をそっと撫でながら、浩二は頭の鎧を消しまだ涙が残り潤む瞳を見つめながら心の中で話し掛ける。



《お前に戦う意思はあるか?》


《……無い。出来ることならば殺さないで欲しい。あんなに一方的に攻撃しておいて虫が良過ぎる話なのは分かっているが…》


《…出来ることなら俺も殺したくは無い。…少し待って貰えるか?仲間と話してみるから。》



バシリスクはその言葉に目を見開く。

そして、肯定するように静かに頷く。


浩二はその額を軽くポンと叩くと後ろを振り返り、丁度タロスと一緒に到着した人族組メンバーの方に向き合う。

ここまで走って来たのだろうか?

タロスは別として、人族組もその割に息一つ乱れていない。

やはり彼らもゴアゲイルとの戦闘を経て浩二と同じく普通(・・)じゃない道へ足を突っ込んだのだろうか。

それを彼等に言えば「一緒にするな!」と言われそうだが。



「…一応聞いておくけど…アレってバシリスクよね?」



開口一番麗子が全員の疑問を代弁する。



「多分そうだと思う。」


「マスター、宜しいですか?」



多分と答えた浩二の補足説明をすべくタロスが割って入って来た。

浩二が頷くと、タロスの知る限りの情報と照らし合わせた今回の事のあらましを話し始めた。

要点だけ箇条書きすると…


○掘削機が掘り始めて直ぐに魔物は湧いたが、この時点ではバシリスクはまだ生まれていなかった。


○エアトラックを持って戻るまでの間にトンネル内にはガストの元となる闇の魔素が充満。


○エアトラックで突入&光で湧き潰しをしたせいで意志を持ったばかりで逃げ場を失ったガスト達がトンネルの奥へと詰め寄る。


○トンネルの奥で充満する闇の魔素と大量のガストが混ざり合いバシリスク発生の条件が整う。



「成程、つまりバシリスクの産みの親は兄貴なんだな?」


「ちょっと待て!今の発言には語弊がある。」


「でも、原因は間違いなくアンタが作ったのよね?」


「ぐっ…!」



グウの音もでない浩二。

しかも今の猛の発言で尚更殺す事に躊躇いが出てしまった。



「それで?その子を何処へ連れて行くんですか?」



浩二の心を読んだかのように舞が口にした言葉を聞いて目を見開く。



「何驚いてんだよ。兄貴は無抵抗の魔物をどうにかするなんて思ってねーよ。」


「お兄ちゃん優しいもんね!」


「でも、バシリスクだよね?確か毒とか酸とか引っ込めたり出来ないんじゃ無かったかな?何処に連れて行くの?」


「マスター、その事ですが…候補地がございます。」



どうやらタロスに思い当たる場所がある様だ。

浩二は取り敢えずバシリスクをそのまま待たせ、その候補地へと向かった。



□■□■



「なぁ、タロス?ここって…」


「はい、マスターのお屋敷です。」


「ここにバシリスク連れて来んの!?」



屋敷が一気におどろおどろしい廃墟になる姿が目に浮かぶ。



「前からこのお屋敷のセキュリティに問題があった場所が1箇所だけありました。どこだと思いますか?」



空…は結界が張ってある。

周りには城壁が張り巡らされており、屋敷の中に関してはもう言わずもがなメイドマシナリー達が陣取っている。

一体何処の事だろう?

一頻り考えた浩二がタロスに答えを求めると、タロスは静かに地面を指差し口を開く。



「地下ですよ、マスター。」



□■□■



「バシリスク!迎えに来たぞ!」


「うおっ!?いきなり帰って来た!」


「新しい住処は用意出来たの?」


「あぁ、バッチリだ。よしバシリスク、このゲートを通った先が新しい住処だ。何か不便なことがあれば念話を飛ばしてくれ。」


《…新しい…住処。》


「なぁ、兄貴?飼うなら名前が必要じゃね?」



さっきからバシリスク、バシリスクと種族名で呼ぶ浩二を見兼ねて猛が名付けを提案してくる。

しかし、そこは自他ともに認める名付け下手な浩二だ、彼に任せると…



「んー…『クロ』でどうだ?」


《…クロ…?》



こうなる。

彼は見た目や鳴き声以外に名前を抽出する術を持たないのだろうか?



「…名前に愛情が感じられねーよ。…そうだな…」



バシリスクの代わりに文句を言った猛は顎に手を当て少し考える。

そして、バシリスク額に目が行くと閃いたように口を開く。



「『キング』なんてどうだ?額の模様も王冠に見えるしよ。」


「キングか、どうだ?」


《…クロよりは良い。》


「くっ!分かった。今日からお前は『キング』だ。よろしくなキング。」



そう言って額の王冠模様を撫でる浩二。

キングはそれを満更でもなさそうに受け取った…新しい名前と共に。

読んでいただきありがとうございます。

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