これから。
「随分と武闘派の調理師ね。」
「いやいやいや、向こうでは普通の調理師だったからな?」
「仕事に就いて長いんですか?」
「あー、17からだから…かれこれ9年目になるのかぁ。」
「あれ?兄貴高校は?」
「行ってないよ。ってか、働かなきゃならない環境だったしな。ま、そんなに重い話じゃないさ。」
アッサリとそう口にして味噌汁を啜る。
すると、腕を組んで唸っていた蓮が意を決したように口を開いた。
「その話、もっと突っ込んで聞いても平気?」
蓮の言葉に彼女の方へと視線が集まり、やがて浩二へと戻ってゆく。
「んー、まぁいっか。俺の両親は俺が中学を卒業すると同時ぐらいに事故で亡くなったんだよ。んで、祖母が亡くなって一人で暮らしてた祖父の所で厄介になってたんだけど、その後すぐに祖父も亡くなって、親戚付き合い皆無だった俺は行き場がなくてさ、施設に入るのも違う気がしてバイト先だった所にそのまま就職させて貰った…って所かな?寮もあったし。」
「あれ?あの部屋寮だったの?」
頬にご飯粒をつけたナオが首を傾げる。
「違うよ。その後一年ぐらい働いて寮を出てすぐ辺りかな?引越し先のマンションの近所にある神社の軒下でナオを見つけたんだよ。」
ナオの頬からご飯粒を摘み口に入れながら答える浩二。
不意にグスッと鼻を啜る音が聞こえた。
目をやると、浩二を挟んでナオとは反対側に座っていた栞が声も出さずに静かに泣いていた。
この流れで泣く理由は一つしかない。
浩二はバツの悪そうな顔で頬を掻くと優しく栞の頭を撫でる。
真っ赤になった目をグシグシと手の甲で擦る栞に舞がハンカチを差し出すと、「ありがとう」と小さな声でお礼を言った栞はハンカチで涙を拭う。
「さて、俺の過去話はここまで。ここからは有料だ。」
浩二は場を和ませようと何処ぞの映画の中から拾って来たような台詞を吐く。
「お金を払う程のネタがまだあるの?」
「多分無いだろうなぁ。」
「なら本当にこの話は終わりね。それよりもアンタに聞きたいことがあるのよ。」
「ん?なんだ?」
麗子は無理矢理話の方向を変えようと、昨日話せなかった地下通路の話を持ち出した。
□■□■
「成程な。確かに森とか海が危ないならショートカットする手段があった方が良いよな。」
「そう、どう考えても一般の人が大森林を抜ける道を利用するのは現実的じゃないのよ。」
「地下通路か…作るのは良いとして、出入口の位置だよな。こっちは領境の城門辺りが妥当だろうけど、やっぱりあっちはあの長城の向こう側か。」
「そうね、いっそ城門の村と一体化させちゃえば?出入口が野晒しとか、この世界じゃちょっとゾッとしないわ。」
通路に魔物が住み着いている光景を想像したのだろう、麗子が嫌な顔をする。
「確かに、そうすれば野党なんかが棲家にする確率も減るか。あそこには阿と吽もいるしな。」
「となると、城門の側が理想か。」
「ちょっと待って。」
不意に鰻重を食べながら話を聞いていたシルビアが話に割り込んできた。
「何です?」
「その通路誰でも使えるようにするの?」
「へ?はい、そのつもりですが。」
浩二が何を言ってるんだ?みたいな顔をするので、シルビアは眉間を押さえ首を振る。
「えーと…サーラ領の領境と、あの長城の向こう側を結ぶのよね?」
「はい。そのつもりです。」
「ざっと2000kmぐらいになるけど…馬車で行けば5日かかるよ?それ全部地下に作るとなると…」
「あ!」
失念していた。
明るいとは言えそこは地下。
通り抜けるのに5日もかかるならば、当然馬車で眠る事になるし、それ以前に馬を休ませなくてはならない。
中継地点を5箇所作るにしても、そこを管理する人もそこへ物資を運ぶのに同じ時間がかかるのだ。
何より、基本誰でも通り抜け出来るという事は、それこそ中継地点に住み着き悪さを働く輩がいても不思議じゃない。
阿と吽が見張るとはいえ荷物と偽ればいくらでも侵入可能なのだから。
言いたい事に気付いた浩二に今度はシルビアが自分の意見を述べる。
凄く簡潔に。
「私はコージが乗り物を通すと思っていたよ。それこそこの間見せてもらったエアトラックの様な…ね。」
「…成程。」
浩二は顎の辺りを触りながら呟く。
簡単な話、時間が掛かるから中継地点を置かなくてはならない。
ならば極論で言えば時間が掛からなければ中継地点は要らないのだ。
「…となれば…地下鉄か…駅が必要だな…うわ、結構大事になるぞ…」
そして、ブツブツ言い始めた。
その姿を見たシルビアは追加の情報を浩二に与える。
「馬車で1日走ると、乗ってる人の人数分の宿代と馬車馬の飼料代が掛かるわ。大体長旅なら御者、補助、荷物番を3人でローテーションするのが一般的ね。なら1日食事代込みで金貨1枚銀貨5枚って所だから、3人で割れば一人当たり銀貨5枚ぐらいね。」
「…そっか、金を取らなきゃ人を雇えないよな…でも、荷の積み下ろしは…そもそも荷物に対しては幾ら取る?…いっそ規格にしてコンテナ分け…」
シルビアが具体的な料金形態を教えてくれた事により、なお一層独り言が激しくなる浩二。
「兄貴!ストップ!」
猛が浩二の後ろに周り両肩を強めに掌でバシッと叩く。
「うおっ!?」
「全く。シルビアさんも遊び過ぎ!」
「ふふっ、私と同じ空気を感じてついね。」
「兄貴、その話はもっと開けた場でしようぜ。人を使うにも、物を作るにも、場所を取るにも、もっと詰めなきゃならない話が沢山あんだろ?」
「…確かにな。」
「それに、積荷に関する話なら俺らも無関係じゃ無いしな。」
エアトラック運搬係の人族組メンバーが猛の言葉に静かに頷く。
「そっか、そうだよな。」
浩二はそう言って一度閉じた目を開きシルビアに向き合う。
「シルビアさん。一度皆さんを集めて話がしたいんですが…魔王会議ってどうやって開くんですか?」
浩二の口から出た言葉にこの場にいるメンバー全員が息を飲んだ。
これで7章は終わりになります。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
まだまだ続く予定なので、これからも『あれ?ドワーフって魔族だったっけ?』をよろしくお願いします。
いつも読んでいただきありがとうございます。




